SOLVE A RIDDLE〜双子の勇者たち〜

+マリネ+

「僕のペットが死んじゃった………」
涙も流さずに、ビークは静かにそう言った。
「ペット?」
「僕が作ったんだ。羽の生えた犬とか、赤くてキバの大きなエイプとか、巨大なゴーレムとか、僕がカレナを殺すために一生懸命考えて作ったんだ」
言葉は機械のように冷たくて、感情もない。
ビークは首を傾けてポツリポツリと続ける。
「一生懸命考えて作ったのに、全部死んじゃった。また作らなきゃ。今度はもっと沢山」
そう言って洋紙に何かを書き込む。
「ビーク?」
コルネは恐る恐る洋紙を覗き込む。
「そうだ!」
「えっ!?」
ビークは急に振り返り、コルネを見た。
「コルネ、お前も来い。今度はお前が戦え」
「………」
「お前とカレナで血を流し合うんだ。相手より、より赤く染まった者が勝ち。どうしてか分かる?」
コルネは目を疑う。
弟は、こんなだっただろうか?
「相手の返り血を沢山浴びるから」
「………」
「心配するな。カレナは優しいから、お前を傷つけられない。その弱みを握ったお前の勝利。勝ちが決まった勝負だ」
ビークはそう言って奇妙な声で笑った。


+++


「皆さんもお気づきの通り、私は地界の神クミコの生まれ変わりでした」
マリネは会議室に集まった仲間にそう告白した。

やっと元気を取り戻した様子で、今、ここで前世の話をしようと仲間を集めたのだ。
「この戦争の事について分かったことですが、魔界の王が城から姿を消し、その事件が引き金となって、戦争になったと、皆さんは認識しているはずです」
「違うの?」
「間違ってはいませんが、実はもう少し前からその前兆のような事件があったようです」
「事件?」
「ファジィが絡む事件です」
「私!?」
「覚えてないのかよ?」
「ファジィが統一する天界に、罪人を幽閉する牢があるのですが、その牢からの脱獄により、この戦争が始まったと言えます」
「なんだって!?」
プレーノは驚き、大声を上げた。
周りの者は皆、それ以上に悲鳴を上げたかったが、声にならなかった。
「脱獄に気づいたファジィは、その罪人を追いましたが、ひと月もの戦いの末、部隊ごと滅びました。そしてその罪人は次々に神を殺した。と記憶しています」
「最強戦士を誇る天界の神が、たった一ヶ月で?」
グロールが驚きの声をあげた。
マリネは頷いた。
「その罪人って、名前は?」
秋男の問いにマリネが首を横に振ると同時に、グロールが呟いた。
「マーザヌー………」
「知っていたら何故!」
プレーノがバン!と机を叩いて起ち上がった。
「知るか!俺だって、奴が引き金だと気づかなかった。あいつは、確か死刑になったはずだ」
「死刑執行の明朝、脱獄しました。阻止しようとして向かった兵も、返り討ちに。かろうじて逃れられたファジィの部下が、息も絶え絶えに訴えてきました」
「………」
「ファジィが死に、それからカレナとビークが行方不明に。………これは私の推理ですが、恐らく、ビークがおかしくなったのは、そのマーザヌーの仕業だったのでは無いかと思います」
「それで?」
「魔界の王が行方不明になり、各界に混乱を招いていました。パストル達の努力も空しく、騒動は収まる気配も無く、私も、会議に赴くには三人の兵を連れて行くほどでした。皆、カレナの王の座を奪おうと必死だったのでしょう。我先にと宮殿へ侵入を試みる輩が増えていました」
「でも、王って血筋とかで即位するんじゃないの?」
プレーノの問いに、
「カレナの場合は子供で、跡継ぎが居なかったから、もしカレナが死んだら、王は民の多数決で決めるとか、そういう噂が流れていたんだ」
「幼き子供なら、容易く殺す事も可能。その様な噂が出回ったのです。しかしカレナには優秀な大臣がついていました。そのカレナの命を奪おうと襲ってきても、大臣率いる戦士達が守っていたのです」
「グロール、大臣って?」
今度は秋男が聞いてきた。
「あ………いや、その………」
グロールが言い淀む。
「パストルの事じゃ無かったっけ?お兄ちゃん」
何気ない秋風の言葉に、秋男とマリネは目を合わせたが、直ぐに秋男が叫んだ。
「ええっ!?あれ?教育係じゃなかったっけ?」
「覚醒も善し悪しか………」
グロールは皆にそう告げて、仕方なく口を開いた。
「大臣とは名ばかりだから伏せていたんだよ。カレナもその呼び方は嫌がってたから、忘れているのも無理はないな。俺は教育係でもあるが、どちらかと言えばカレナの側近さ。少なくとも俺はカレナを自分の弟の様に可愛がって来たし、幼いカレナには、遊び相手が必要だったからな」
「ふぅ〜ん」
本物のカレナである秋風は覚えていた。
秋男は覚えて無いのでは無かった。知らないのだ。
そこには触れないように、マリネは話を続けた。
「パストルの力はファジィにこそ劣りますが、それでも、とても壮大な強さを誇るものでした。宮殿を襲うのには、かなりの戦力を要するものだったのでしょう」
「それで?奴とどういう繋がりが?」
「はい。マーザヌーもまた、魔界の座を狙う一人だったのではないでしょうか」
「成る程。それで脱獄し、まずその国の神を殺した。これで戦力はかなり落ちたな」
「はい。少なくとも天界をはじめ、他の界にまで混乱を招いた事になるでしょう」
「確かに情報を遅れてだが、天界が滅びたと聞いた。しかしその時にはカレナは既に行方不明だった。魔界も妖精界も大混乱さ。幼いカレアがどさくさに紛れ一人で魔界に来たぐらいだからな」
「あの時はカレナが居なくなったというより、嫌な予感がして、カレナに会いたくなったの。でも既に魔界にはカレナがいなくて………」
秋風も続けた。
「やはりこれもマーザヌーの仕業と考えるのか?」
「はい。どの様にカレナを外出させたか分かりませんが、マーザヌーは関連があると思います」
「なぁ、ビークも一緒に居なくなったよな?ビークはカレナの事が嫌いだから、マーザヌーと手を組んだって事は考えられないのか?」
「まさか、ビークがそんな!」
思わず怒鳴ったグロールの言葉を遮るかの様に、プレーノは静かに言い放った。
「じゃぁ、操られたとか」
「可能性はあります。マーザヌーは物や人を操ることが出来るのです」
「マジかよ〜」
「確かにマリネの言う通りかも。僕の記憶の中でも思い当たる点がいくつかある」
「操られてたかも知れないという線が濃厚だな。俺にも思い当たる節がある」
「私にも」
グロールと秋風は頷いた。
「でも、秋風がカレナと間違えて襲われたとき、ビークは自分の意志が残ってるように感じられたわよ?カレナや私の事は憎んでたけど、パストルの事はそうでも無いって感じだった」
皆は頷き、再び振り出しに戻されたような気持ちになった。
「ビークは操られているけど、自分の意志が残っている。そう考えるとつじつまが合うぜ?」
「だったら、俺が何とかやってみる」
グロールをはじめ、皆が黙り込んだのを見て、プレーノがわざと元気よく起ち上がった。
「さあそうと決まったら、コルネさんとビークを助けるために、準備しようぜ!俺はラムルへ戻り、親父の杖を取ってくる」
「え?私がテレポで取ってくるわよ」
「それは駄目だ」
「どうして」
「これは俺の問題だから」
「でも、無茶よ」
「頼む。これだけでも一人でさせてくれよ。俺だけ前世が無くて、只でさえ足手まといなんだ」
「足手まといなんてそんな………」
「だから、これは俺一人でやる」
プレーノは皆の顔を見渡した。
この前グロールが言ってた言葉が蘇る。
戦える体になる。だからこれだけは譲れない!
マリネは諦め、フレノールの肩を宥めるようにポンと叩いた。
「分かりました。私が一緒に行きます」
「分かってねーだろ!一人で行きたいんだ!」
「分かってます。杖の封印が解けるのはこれを生み出した私だけなんです。もしもの時は封印を解きますから」
「それって………」
フレノールが絶句したので、グロールが続けた。
「つまり、そういう状況ができたら自分で戦えと。そうだな、一人で行くって言ってもどうせ護衛が何人か着くんだ。一人で戦うという事にはならない。だから、姫さんが同行し、なるべくプレーノに一人で戦わせるチャンスを作ると」
「けど、マリネが一緒だと、ここの戦力が落ちるだろ?」
「なんだ、戦うのが恐いのか?」
「ちげーよ」
「じゃあ決まりだな」
グロールは秋男をちらりと見た。
秋男は目を伏せて微笑んだ。
「構わないよ。ここの事はグロールとフレノールに任せられると思うから」
「………よし、分かった。マリネ、頼むぞ」
「はい」
プレーノ達は会議室を飛び出した。

「ラムルまで往復六日。それまであいつらが襲われませんように!」



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