SOLVE A RIDDLE〜双子の勇者たち〜

+秋男+

マリネが塔から出てきて二日目。
彼女は誰にも会いたくないと云い、部屋に籠もっていた。
残された者は会議室で今後について話し合う。
「だから幻魔刀を使ったの?兄貴、それヘタしたら死んでたのよ?」
「わーってるって。それはこいつからもちゃんと聞いたさ。でも、お前らが神に覚醒し始めて、残った俺だけが力が及ばず足手まといなんかになったら顔向けできねーし」
「顔向けとか、そういう問題じゃないでしょ!」
「はいはいはいはい。二人とも、兄弟喧嘩はやめようよ。こうしてプレーノも無事だったんだしさ。良かったよプレーノ。戦力が増えて嬉しいよ」
秋男は二人の間に割り込み、改めてプレーノを見た。
そして、握手する。
「へへっ」
「照れ笑いに水を差すようで悪いが、これからが肝心なんだ。幻魔刀は"耐えられるかどうか"試しただけなんだから、あの杖を使いこなすには、これからが勝負って事だ」
「そうだよな。分かってる。ちゃんと肝に銘じてるよ」
「そう言えばマリネはどうして僕達に会いたくないんだろう?」
「秋男くんや秋風なら大丈夫じゃない?様子見てきてよ」
「それが、私達も駄目だって。本気で誰にも会わないって事はこの先不可能なのに」
「そっか。マリネはさ、秋男くんと同様、塔から出てくるのにもの凄く時間が掛かったじゃない?全部一気に思い出して混乱してる可能性あるよね」
その時、ノックの音が聞こえ、女性が一人入ってきた。
「秋男様。姫がお待ちです」
「おおっ!」
プレーノが歓声を上げた。

+++

てっきり応接室などに連れて行かれると思っていた秋男だが、全く見当はずれの場所へ連れて行かれ、女性を振り返った。
女性は何も言わず、兵舎にある真ん中の廊下へ向かい、黙々と歩いていた。
長い廊下の先の一番奥に、他の部屋とはまた少し違った雰囲気の部屋がある。
女性は何も言わず立ち止まり、秋男を促した。
ここから五十メートル程先へは、自分一人で行けという事らしい。
秋男は緊張した足取りで奥の部屋に辿り着いた。
一度深呼吸をする。
相手がマリネとはいえ、ここでは姫なのだ。
それを頭に入れて、ノックをした。
「秋男さん?お待ちしておりました」
良かった。
聞き慣れたマリネの声がした。
秋男は安堵のため息をつき、ドアのノブを回した。

兵舎の中でも少しだけ大きい部屋。
マリネは部屋にある椅子に腰を掛けていた。
「こんな所でごめんなさい。殿方を部屋に入れることを母は許しませんから」
マリネはそう言ってクスリと笑った。
「ここならあの女の人が警護についてるから大丈夫って事?」
「ええ」
秋男は近くにあったベッドへ腰かけた。
「もう大丈夫なの?」
「はい………でも、クミコの記憶が強すぎて、混乱してしまいます」
「直ぐ慣れるよ」
「そう………でしょうか」
マリネは秋男を見つめた。
「私、全部、思い出したんです」
「全部?」
「はい。神の性格とか、………生まれ変わる経緯とか」
「生まれ変わる経緯………?」
「秋男さんをお呼びしたのは、その事についてです」
秋男の顔色が変わった。

「クミコが転生を促しました。だから、全部思い出しました」

マリネは、言葉を選びながら、ゆっくりと話し始める。
それがどういう事か、分かる。
秋男は半ば身構えながら、耳を傾けていた。
「クミコは亡くなる前、四人の神の魂を集め、無念を晴らすために、転生という形で、身近にいた兵の子供として、もう一度魂を誕生させる事にしたんです」
「クミコに仕える三人の兵って、僕達の親の事だったんだ」
「そうです。魂を入れるのには、生まれたばかりの子供か、生まれる前でないと駄目なんです。ですから、プレーノさんは無理でしたけど………丁度四人の子供が生まれる頃でしたから。だから、分かるんです。クミコが魂を入れたから、分かるんです・・・」


長い沈黙。



秋男は明らかに動揺していた。

「秋男さんは………」

言ってはならない真実。
でも、言わなければ、カレナを守れない。
マリネは深呼吸をして続けた。







「秋男さんは、カレナではありませんよね」







背中に電気が走ったような衝撃が二人を襲った。

「そうか………」
秋男は意味もなく窓の外を見た。
鳥が飛んでいる。
木々がざわめいている。
外はこんなに自然に包まれて幸せそうなトキを過ごしているのに、どうして、こんなに辛いんだろう。
「まさかこんな形でバレてしまうなんてな」
秋男は窓から視線を戻した。
「責めてもいいよ」
「責めません」
「僕の行為は裏切りだ」
「裏切りじゃありません!」
秋男は嗤った。
「僕は、信用してくれている人に、嘘をついたんだよ」
「私が秋男さんの立場で、あの頃のグロールが相手なら、私もそうしたと思います」
「随分秋男に肩入れするね?この僕に惚れてるの?」
「はい」
「………」
「いえ。今のは聞かなかった事にして下さい。私にそんな言葉を言う資格なんてありません」
「?」
「私こそ、責められるべき立場にあるのですから。本当は、私が魂を再生させたのには、もう一つ理由があったんです」
マリネは瞳を閉じ、深呼吸をした。
そしてゆっくり瞼を開ける。
「私が、カレナとカレアを殺しました。罪を償ったつもりでした」
秋男は一瞬、何を言われたのか理解できなかった。
マリネの体は小さく震えていた。
「………パストルのこと、カレナのこと。魂を再生して余計に辛い思いをさせてしまった」
「何を言ってるのか、分からないんだけど………」
「秋男さん辛いのに、私何もできない」
「マリネ?」
「ごめんなさい。ごめんなさい!」
マリネは取り乱し、秋男の声を聞こうとしなかった。
秋男はゆっくりとため息混じりの深呼吸をした。
「僕なら許してくれると思った?」
「えっ?」
「同じ"罪深き者"として、話し合えば楽になれると、そう思ったんだ?」
「違います」
「じゃぁどうしてここで懺悔するの?何故僕にしか言えないの?マリネは僕の正体が誰か、もう分かってるんだよね?だったら容赦しないよ」
秋男はマリネの頬を両手で覆った。
顎を突き上げさせ、瞳を覗き込んだ。
「マリネの考え方は今から思えばクミコとよく似ている所がある。でもクミコはもっと強い魂の持ち主だった。こんな事で自分を責めないし、立ち止まらなかった。少なくともそう記憶してる。僕に"話がある"だなんて、それは僕が秋男で、君がマリネだから甘えてるんじゃないの?だから二人っきりで話したかったんじゃないの?誰に話があるって?マリネが話したい話題は何?クミコとしてここで秋男に懺悔すること?」
「あ………」
「それとも僕に同情してるの?………どちらでもないんだろう?」
「はい」
マリネは小さな声と共に頷いた。と同時に秋男はマリネの頬から手を離した。
「甘えてました。肩を並べていたいのに、いつの間にか重荷になって………ごめんなさい」
「分かってくれたならいいよ」
秋男はマリネに跪いた。
「カレナとカレアは、確かにクミコが生み出した剣に貫かれて死んでしまった。だけど、それはクミコのせいじゃないって事を、僕もこいつも知ってるよ」
秋男はそう言って、胸を指した。
「はい」
いつの間にか頬を伝っていた涙を拭いながら、マリネは頷いた。
「だから、きちんとみんなに正しい情報を伝えて。それが、クミコに覚醒したマリネの課題だろう?」
「………はい」
「それから、僕は仲間を平気で裏切るし、場合によっては見捨てるだろう。だから、僕こそ許される立場じゃないんだよ」
「裏切りだなんて」
「少なくとも既にグロールを裏切った。僕がカレナと名乗った時点で仲間全員を裏切った事になる。それはマリネも分かってるはずだ。だから呼んだんだろう?正体を暴くために。そうじゃないと本物を守れないから」
「………」
「僕は、カレナのためなら何でもするよ」
「はい。秋男さんは、そういう星の下でお生まれになりましたから」
「あいつ………グロールさえ、見殺しにすると思うよ」
「それはできないと思います」
秋男は首を横に振った。
「できる。いや、場合によっては、………見殺しにするつもりだ」
その言葉を聞き、マリネは意外そうに秋男の目を見た。
「どうしてですか?グロール、いえパストルが嫌いなのですか?」
「逆………」
秋男は立ち上がり、くるりと後ろを振り返って、ベッドへ倒れ込んだ。
「好きで………、………好きで仕方ないんだ。前世の想いが強すぎて………。あいつを、本当の名前で、呼んでやれないくらい」
まるでベッドを抱きしめるかのように腕を広げる。
「秋男さん………」
「笑っても、いいよ」
「いいえ。そんな秋男さんだから、好きになったのだと、今はっきり思いました」
「僕の正体知ってるんだろう?」
「知ってます。それでもです。前世を経て今の秋男さんが存在しているのでしょう?秋男さんのこと………好きです」
「あいつを好きなのに?」
「………」
マリネは何度か瞬きをし、やがて目を伏せた。
「それでも、好きです。駄目ですか?」
秋男を見つめる。
秋男はまだうつ伏せになったままだった。
「マリネの気持ちに口出す権利は、僕には無いよ」
「………」
マリネは俯き、無口になった。
「あいつも僕もカレナを守るために存在している」
「………」
「今後も多かれ少なかれ、誰かが犠牲になるのは変わりない。さらわれるどころか、命を落とす事だってあるだろう。しかし、例えこの先、何があってもお前は一人で乗り越えなければならない」
「えっ?」
「あいつが初めて会った時、僕に言った言葉さ。今なら分かる。どんな気持ちで言ったのか。僕もあいつもカレナのためなら命を落としてもいいと考えている」
「そんな………」
「でも、きっとどちらかが生き残り、カレナを支えないとだめだ。………カレナは弱いから」
「………妬けますね」
「僕は前世に関係なく、マリネの事が好きだよ」
マリネはハッと顔を上げた。
「あのさ、マリネ………」
「はい?」
「天界の塔の裏での事覚えてる?マリネが転んでしまった拍子に短剣がするりと抜けて、魔物を一匹やっつけてしまったあれ。部下のグロールに話していい?」
ベッドに寝そべった秋男の顔が半分だけこちらを見た。
悪戯っ子の様に、意地悪で、面白いことを見つけたような顔。
「あ、駄目!駄目です!!」
マリネは顔を真っ赤にして抗議する。
「ははは。やっぱり駄目か」
「秋男さん………」
「何?」
「辛くないですか?」
「辛いよ」
「………」
「でも、秋風を守りたいから。あいつの笑顔を見ていたいから。それに、マリネが秘密を共有してくれたから」
「………」
秋男はむくりと起きあがった。
「だから、僕はカレナであり続けられる。ありがとう、マリネ」
「はい」
マリネの頬から、再び大粒の涙がこぼれ落ちた。



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