SOLVE A RIDDLE〜双子の勇者たち〜

+秋風+

塔の前で約半日が過ぎた。
とっぷりと日が沈み、辺りはシンと静まりかえっていた。
「マリネ遅いわね」
「お兄ちゃんの時と同じ、数日かかるのかしら」
秋男、秋風、フレノールは塔の前で待ちぼうけ。
グロールもプレーノも帰ってこない。
「二人共無事かな?」
「あのパストルが付いてるし、何かあったら私達も危ない目に遭ってると思う。だから大丈夫よ」
フレノールは秋風を宥めた。
と、そこへグロールが傷ついたプレーノを抱えて塔の前までやってきた。
「兄貴!?」
「プレーノ!」
「プレーノどうしたんだ一体!?グロール、何があったんだ?」
「血が出てるじゃない!?」
秋風が半ば取り乱したようにグロールへ問いかける。
「済まない。訳は後だ。それより姫さんは?」
「マリネはまだだよ。でも多分相当の体力を使って出てくると思うから、今日シャロット城へ戻るのは無理だと思う」
「じゃぁジオラマ城だな」
ジオラマ城はマリネの生家であり、部下のグロールは顔を知られているので、出入り自由だ。
フレノールはグロールに言われたとおり、ジオラマ城で暫く過ごすことを洋紙に書き、伝書鳩を飛ばした。
これはファジィのお得意とする術の一種だ。
「さてと。じゃあ俺は一旦こいつをジオラマ城へ連れて行く」
「私も行く!」
秋風の言葉に、グロールは口を閉ざした。
秋男が何かに感づき、言いかけるよりも先にフレノールが口を開いた。
「待って。私が行くわ。あなたは秋男君と二人で残って」
フレノールはそう言うと、プレーノ、秋風と共に姿を消した。
残された二人は、塔がよく見える位置にある、大きな岩の塊に腰を掛けた。
「秋風とうまくいってないの?」
「お前には隠し事できないのな」
「まぁ。ずっと………見てるからね」
二人はそれ以上、何も話さなかった。

一方、秋風とフレノールはジオラマ城へ一瞬で到着し、直ぐにプレーノの部屋を手配させた。
「とにかくシャツを………」
フレノールは傷口を見て絶句した。
フレノールの様子がおかしいのに気づいた秋風は、湿らせた手ぬぐいを絞りながらプレーノの傷跡を見た。
迷いのない一太刀。
「………」
秋風は何も言わずにその場に座り込んだ。
腰を抜かしたのだ。
「今は手当が先よね」
フレノールは気を取り直し、傷口に軽く手を当てた。
ふんわり柔らかな光が発生し、プレーノの傷跡を消した。
「フレノール、こ、こ………」
「しっかりしなさいよ、秋風。私は初めから信じていなかったわよ。あんなヤツ」
秋風の腕を掴み、引っ張り上げた。
「はい。ここに座って。もうじき兄貴が目を覚ますと思うから、目を覚ましたら私達が戻ってくるまで適当に喋ってて」
「え?フレノールは?」
「塔の様子を見てくるわ」
フレノールはそう言うと、さっさと部屋を出て行った。
秋風は深呼吸を何度も繰り返す。
確かにあの傷には見覚えがある。
最近ではない、遠い昔………。
あれはパストルが持っている剣で付けた傷。
「グロールがプレーノを?仲間なのに………」
秋風の顔は真っ青で、血の気が無かった。

暫くして部屋の外が騒がしくなった。
誰かが部屋へ入ってくる。
フレノールかな?
秋風は迎えようと席を立つと、そこから現れたのはなんとグロールだった。
「あ、グ、グロール………」
確かグロールには何か確認しなければ成らないことがあった。
それは何だったか………。
「ヤツの様子は?」
「あ、うんよく眠ってるから」
「そうか」
思い出した。
プレーノに付いた傷はグロールが付けたものか確認しようと思ったんだ。
「プレーノに付いてた傷。あなたが付けた傷………?」
「そうだけど」
グロールはあっさり頷き、秋風の目を覗き込んだ。
「さあどうする?」
ごく当然の様に返事をしたグロールに、怒りが込み上げてきた。
「どうする?って………どうしてそんな事したの?」
「どうしてって。別にこいつ一人の戦力が落ちたぐらいで困らないだろう?」
「………信じられない………。プレーノはね、あなたとは違うのよ?普通の人間なんだよ。なのに酷いじゃない!!」
秋風が手を挙げようとした時、後ろから手首を掴まれた。
「………プレーノ?」
振り返るとプレーノが目を覚ましていた。
「良かった。生きてた」
プレーノは深いため息をついた。
「大丈夫なのか?」
秋風の頭を通り越し、グロールが言葉を投げる。
「ああ、何とか。この傷は妹が治してくれたのか?正に神様なヤツだな」
プレーノは秋風から手を離し、傷があったはずの場所をさすりながら渇いた声で笑った。
「秋ちゃん、頼むからこいつを殴るとかしないでくれ。これは俺が望んだ事なんだから」
「望んだ?どういう事なの?」
プレーノはちらりとグロールを見た。
只ならぬ雰囲気を察知したグロールが、部屋から出ようと振り返ると、逆にプレーノが引き留めた。
「あ待て、違う。お前も聞いてて」
そう言って秋風に視線を戻す。
「………俺、秋ちゃんの事好きだから」
「えっ!?」
秋風は突然の告白に目を白黒させた。
「秋ちゃんは?俺のこと」
秋風はグロールをちらりと見た。
その姿は、グロールの目にもプレーノの目にも映る。
「………好きか嫌いか。それくらいなら答えられるだろ?」
「す、き」
「じゃぁ、そいつの事は?」
そいつとは、勿論グロールの事。
秋風は今度は誰の事も見ずに、黙っていた。
「好き。だろう?」
プレーノの言葉に秋風は顔を上げた。
「俺はこいつとはフェアでありたい。普通の人間だからとか、こいつを見損なったとかで、俺の株が"上がってしまう"のは正直嬉しくないんだ」
"あなたとは違うのよ?普通の人間なんだよ"
「あっ………」
ついさっきの言葉を思い出し、秋風は顔を赤くした。
「ごめんなさい」
プレーノは満足げに微笑んだ。
グロールは嬉しそうに目を伏せ、話を切り替えた。
「さて。姫さんが戻ってるんだ。様子を見に行こうと思うんだが」
「俺はもう少し休むよ。宜しく伝えてくれ」
「了解」
グロールはくるりと回転し、ドアノブに手を掛けた。
「あ、マ、マリネの様子が気になるから、私も行く………」
そして二人は同時に姿を消した。
「くっそー。逃げられたか………」
プレーノはちょっと嬉しそうな顔で呟き、ベッドから飛び出した。


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