SOLVE A RIDDLE〜双子の勇者たち〜

+秋男+


「しかし弱ったな………」
「えっ?」
「素直に逃がしてくれるとは思えないね」
柄の音が聞こえた。
秋男が剣を構えたのだ。
秋風は二人の邪魔にならないように離れた。
「あまり動かない方が良い」
「えっ?」
秋風は辺りを見渡す。
何もいない………。
しかし秋男は構えたまま、動かない。
そこには暫しの沈黙があった。
「来る!」
「きゃっ!」
地響きがあり、マリネの悲鳴が聞こえた。
「まだ動くな、しっかり周りを見るんだ!」
四人の足下が動いた………!
「っちっ、真下か。みんな離れろ!!」
四人は、今いる場所から飛び退いた。
直後にそこから一体の岩の巨人が現れた。
………違う!
ただの岩の塊が、意志を持っているようだ。
「なんだこれは!!」
「きゃぁっ!」
天に昇るような巨岩が風の様な早さで四人を襲った。
四人は咄嗟に構えた。
すかさず秋男とグロールは巨岩へ向かっていく。
グロールは剣先を巨岩へ預け、それを引く。
「斬れない!」
「じゃぁ、これはどうだ!剣火剣炎!!」
秋男の右手を炎が包む。
細かい刃が巨岩へ目掛けて体当たりする………。
「はじかれた!?」
同時に攻撃したマリネの短剣もはじかれる。
「畜生、何だこいつ」
巨岩の攻撃をひらりと交わし、秋男は右手から着地をし、空中で技の名を叫んだ。
「雷火剣斬!!」
地面を這う炎の攻撃だが、上手くいかない。
「ちっ、………無理か!」
右手を上手く軸にして、器用に体全体を着地させた。
着地と同時に頭上へ岩が落ちてくる。
ただ交わしていくだけでは埒が明かない。
「何とかしないと………」
「これはビークの攻撃だから、カレナに備え、火に強いのかも知れないな」
「火に強い?」
避難していた秋風が呟いた。
「お兄ちゃん、私がやってみる」
「秋風!?」
「火に強ければ水に弱いかも知れない。水の神カレアの技よ。下がってて」
秋風は杖を体の前に突き出した。
「天幻水翔!!」
シュウウウと音が鳴り、
「あれ………?」
杖から光が出たと思った途端、その威力は消えてしまった。
「どうした?」
「使えないみたい………」
駆けつけたグロールに秋風が応えると、秋男は顔を歪めて頷いた。
「あ、今の顔!出来なくて当たり前とか思ったんだ?酷い!私だって一生懸命………」
「下がってろ!」
皆まで聞かず、秋風を押し退けた。
「グロール、何か策は?」
「思いつかないな」
「………万事休すか」
巨体が三人を襲う。
「秋風さん、危ない!!」
「きゃぁっ!」
マリネは叫び、秋風を抱いたまま倒れ込んだ。
同時に髪飾りが鋭く光った。
「ルベリア石が?」
マリネは体を起こし、秋風を庇うように両腕を広げた。
膝を付き、目を閉じる。
三人の声が聞こえる。
「聞こえる。神の声と、………大地の声………!」

+++

「ルベリア石………地界の神が生み出した神器のひとつ。主な効力は邪悪な衣を抹消する。バリアをはる、傷を塞ぐなど、効力は数知れず」
ローズは気になる部分を読み上げた。
「確かにマリネはルベリア石って言ってたよな。どうして彼女が神器を持ってるんだ?」
「考えられるのは………ひとつですね」
「………そうだな」
四人は目を合わせて頷いた。
「これで、あのバリアの消し方が分かった。それとルベリア石を持つマリネ。秋男が知りたがってた謎が解決した訳だ」
そう言って、プレーノは、メモを片手で握りつぶした。

+++

髪飾りの光が、マリネと秋風の体を優しく包み込んだ。
「二人とも何やってんだ?逃げろ」
秋男が遠くで叫び、こちらへ向かってくる。
しかし秋男よりも巨岩の攻撃が僅かに早かった。
巨岩が襲いかかる。
「きゃぁっ!」
秋風の悲鳴が聞こえた。
「危ない!!」
マリネを直撃したと思った時、ルベリア石から虹色の七つ光が溢れた。
それは彼女達を取り囲むようにクルクルと円になって回転し、光の壁を作る。
やがてそれは黄色く光り、壁になり、二人の身を守る。
ガガガ!!
地響きと、光の壁に当たった巨岩の砕ける音が重なり合い、不協和音が響く。
「きゃぁーっ!」
「マリネ、秋風大丈夫か!?」
「………」
「マリネ!?」
返事が聞こえない。
「これが、ルベリア石の力………!!」
「マリネ!?」
巨岩はバリアに守られたマリネ達を襲うのをやめ、今度は秋男目掛けて突進した。
「来たか!」
秋男は剣を構えた。
「秋男さん、援護します」
ふと、マリネの声が聞こえた。
「無事か!」
「さっきの技をもう一度お願いします!」
彼女の姿は見えないが、どうやら無事の様だ。
秋男は安堵のため息をつく暇もなく、マリネの声だけを頼りに敵を見据える。
何か策があるに違いない。
彼女の言葉を………信じよう!
「分かった!!」
秋男は地面に右手を付ける。
ゴゴゴ………
激しい地響きが起こり、乾いた地面が盛り上がった。
「今です!」
「雷火剣斬!」
盛り上がった地面を、まるで天から降る落雷の様に、巨岩目掛けて炎が上がる。
秋男の技が地面を這う。
ガガガガ………!!
巨岩から腕のように延びた岩が、マリネを飛び越え秋風目掛けて飛んできた。
「て、天幻水………」
秋男は全部言うまで待たずに、彼女の体を抱えて飛び退いた。
「お兄ちゃん、私だって戦える!」
「今の秋風には無理だ」
マリネはさっきの攻撃でボロボロに崩れそうになってきた巨岩を見上げた。
「秋男さん、今です!!」
半壊した巨岩は炎に包まれたまま、うなり声を上げている。
さっきまでとは違う!
マリネの力が加わっただけでこんな威力が?
"もしかして、地の神様って………"
秋男は炎に包まれた巨体に突進した。
シュウウウと音を立てて、溶けるように巨体の体が崩れていく。
「お兄ちゃん!!」
秋風が心配そうに見守る中、巨岩の急所を捉えたのか、凄まじい断末魔が聞こえた。
やがて周りを見渡せるようになり、マリネの姿が見えた。
「僕は、大丈夫だよ………」
秋男は巨岩から顔を出し、そう告げた。
「汗が凄い………」
秋風がそう言って布を取り出したとき、
「待て、まだ………!?」
グロールの視線の先には、巨岩を突き抜けた技が、バリア目掛けて突っ走っていた。
「威力が強すぎたって事?」
「バリアに当たったら大事だぞ!衝撃を受ける前に避難だ!」
「うん!」
四人は近くにある大きな岩の陰に飛び込んだ。
体を重ね合い、息をのむ。
やがてもの凄い爆音と共に、土煙を浴びた。
「げほっ、げほっ………大丈夫か?みんな」
「うん………ごほっ、何とか」
「みんな!見ろ、あれを!!」
「………」
秋男が指す方向を見る。
「バリアが………消えた?」
「今の衝撃で………洞穴が?」
グロールは上半身だけ起こすような格好で、洞穴を見据えた。
そして起きあがろうと手を着いた。
「駄目だよ、グロール!!」
秋男が慌てて、後ろから腕を掴む。
「………放せっ………」
「放さない!………グロール、落ち着いてよ。ビークは確かにここにいる。だけど、だけどね、今の僕達には彼を倒せない。何故倒せないかは、お前が一番分かってるだろ………?」
秋男は上半身起きあがってしまった彼の体を、後ろから抱きしめた。
「倒すんじゃない!」
「あぁ。救うんだ。救うんだろ?」
秋男はグロールを強く抱きしめて続けた。
「グロール、勝てなきゃ救えない。グロール聞いて!!弱い奴が強い奴を救う事は出来ないんだよ!」
グロールの体から力が抜ける。
「悔しいけど、そういう事なんだよ………。僕も助けたいよ。でも、今の僕達じゃ無理だ。分かって、グロール」
「ごめん………。お前の言うとおりだ」
我に返ったグロールは、そう言って髪を掻き上げ、辺りを見渡した。
するとそこには、泥だらけの秋風とマリネが心配そうに二人をみていた。
「今日は格好悪い所見られてばっかだな」
「ちょっとは、仲間らしくなったって証拠なんじゃない?」
「え?」
聞き慣れた男の声がして振り返ると、そこにはプレーノがいた。
フレノールもいる。
「って、お前すげーな?」
あっけにとられている四人を余所に、プレーノは突然感激する。
フレノールに向かって褒めているのだ。
突然現れて、意味不明に感激されても、どうしようも無いので、今はチョット無視をして、と。
「二人とも、どうして?」
秋男はフレノールに訊ねた。
自分の体をマジマジと見て、いちいち感激する兄を余所に、フレノールは秋男達に向かって微笑んだ。
「私がファジィだって事、お忘れ?」
天界の神、ファジィは一瞬で遠いところへ移動するテレポが使える。
それは分かっていたが、特に前世の記憶が蘇らなかった彼女が、何故?
秋男が尋ねると、フレノール自身も首を傾げた。
「そうなんだよ。急に閃いたみたいに”使えるかも!”ってコイツが言うから試したら、本当に出来たんだ」
プレーノが興奮して鼻の穴を膨らませた。
「そうだ、色々と話したい事がある。ここじゃ何だな………」
「いいえ、大体分かってるのよ。マリネがクミコだったんでしょ?」
「どうしてそれを?」
「資料庫で調べたら出てきたのよ。そのルベリア石の事がね」
「そのルベリア石は、地界の神が作った物で、それを装備出来るのは、本人しかいないって書いてあった。コイツが覚醒して急にテレポとやらが出来たのは、マリネがその力を使って覚醒を促したと、俺は睨んでるんだが」
「力を使った順番で言えば、秋風が一番だ。それに対しては矛盾した回答になるが?」
「………それなんだよな〜。やっぱりコイツが急に目覚めたのは、単なる偶然だったのか?」
プレーノは妹の頭を小突いた。
「いや、プレーノの言う通りかも知れないよ。僕の力は、マリネによって増幅された。マリネが覚醒しなければ、さっきの巨岩だって倒せなかったかも知れない」
「この石に、そんな秘密が隠されていたなんて………」
「マリネ、あなたもまだ完全に覚醒した訳ではないのね。そのルベリア石は、地の神こそが使いこなせる石ではなるけれど、他の神の力の手助けも出来るそうよ。それと、バリアを破る力があるんですって」
「バリア?じゃぁ、さっきのは私が?………ごめんなさい」
「謝らなくていいよ」
秋男はマリネの背中をポンと叩いた。
「あそこにはビークが?」
フレノールは視線を洞穴に向けた。
「あぁ」
「てめーら二人の気持ちは良ーく分かった。でもよ?お前らのやり方ではコルネさんを助ける事は出来ない。今までどんだけボーッと過ごしてきたか、振り返ってみなよ?グロールは過去に囚われすぎ。秋男は気を使いすぎ。そんなんで俺達はどっちへ向かえばいいか分かんねーだろ?」
「………」
「今から俺がリーダーな?」
「………」
「文句あんのかよ?」
プレーノは黙り込んだ秋男とグロールを交互に指さした。
そんな彼を見て、二人は顔を見合わせて笑った。
「じゃぁ決まり。早速だけど地界の塔まで行こう」
「え、全員で?」
「そうだよ?」
「でも時間の無駄が………それに俺は行きたいところが………」
「まったっか〜?グロールもう好き勝手させないぞ?とりあえず地界の塔まで一緒に行くんだ。別行動はそれから話し合って考える。いいか?分かったな?」
「………分かったよ」
グロールは大きくため息を付いた。
「気球はシャロットの兵が取りに来るって話だから、俺達はフレノールのテレポで移動する。いいか?」
「嫌だって言ってもどうせそうなるんでしょ?兄貴は人遣いが荒いから」
「愚痴愚痴言うなよ。いくぞ、みんな」
一行は地界の塔へ向かった。



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