SOLVE A RIDDLE〜双子の勇者たち〜

+クミコ+

「コルネさん、大丈夫ですか?」
暖かなベッド。
「あ………?」
目を覚ますと、そこには一人の女性が座っていた。
「あなたは気を失ったんですよ。栄養失調ですわよ?」
「あ、すいません………あの………?」
「私はこの界を司る者。あなたを助けたのは、グロルフ。私の家臣です」
「それで、グロルフさんは?」
「じきに帰ってくるでしょう」
コルネは暫くボーッとして、やがてハッと顔を上げた。
「あ、クミコ様!?」
「はい?」
「あ、申し訳ありません。大声を出してしまって。失礼ですが、地界の神様ではありませんか?」
「そうですよ」
「申し訳ありません。軽々しくお名前を呼ぶなど………」
ビークは、多分これくらいの年齢に成長しているだろう。
コルネの目から涙が溢れた。
「開口一番、そんな事を気にするなんて………。あなたはもしや、他の王家と関わりを持つ者では?」
クミコはにっこり笑った。
コルネは、はっと顔を上げる。
「………私は、魔界の王の教育係です」
クミコは、目を見開いて驚いたが、直ぐに目を伏せる。
「まぁ、魔界………。それでは、あなたはカレナの行方を追っていたのですね?」
「何故それを………?」
クミコは俯いて首を横に振った。
「魔界も地界も、皆、混乱していますからね」
クミコはそう言って、コルネの枕元に置いてあるコップに水を汲んだ。
そして、それをコルネの渡してやる。
コルネは受け取り、一口の水を飲んだ。
「気がついたか?コルネ」
ふと、声と共に、例の若者が姿を現した。
「まぁ、グロルフ」
グロルフはクミコに一礼し、部屋に入った。
「顔色が良くなったな。君は三日も眠っていたのだよ」
「三日も………。グロルフさん、先日はありがとうございました。借りは必ずお返しします。なんなりとお申し付け下さい」
「元気になったなら良かった。早速だが、少し手伝って欲しい事がある」
「はい!」
コルネは起きあがった。
少しふらついたが、弱音を吐いている暇は無い。
一刻も早くビークを探し出したいと言う気持ちが、彼女を奮い立たせた。
「今すぐグリーンタウンへ向かって欲しい」
「グリーンタウンへ?」
「魔界からの襲撃宣告があった」
「ええっ!」
「君なら抑える事が出来るんじゃないかと思って」
「そんな大役………無理です」
「私の仲間を動員する」
「でも………!」
もし抑えられなくて滅んでしまったら………!
返事を出来ないコルネに、グロルフは付け加える。
「ビーク」
「えっ?」
「魔界の神よりも大切な人物。そうだね?」
「………そうです。王を探していたと言うのは、口実です」
もう何もかも見透かされている。
そんな気がした。
「正直ですわね」
隣で聞いていたクミコが相づちを打った。
「そのビークが、軍を率いて来るそうだ」
「ええっ!」
「グロルフ、それは本当ですか?」
クミコは心配そうに訊ね、そしてコルネを見た。
コルネの目は鋭く光り、悔しさを堪えている様だった。
「実は耳に入っただけで、まだ未確認の情報なのですが………」
短く答え、コルネに向き直る。
「君はまだ混乱している様だが、落ち込んでいる場合ではないぞ!」
グロルフはコルネの両肩を掴み、前後に揺らした。
そうだ、動かなきゃ。でも………。
「コルネ、事の真偽を自分の目で確かめなさい?」
クミコに優しく言われ、それでも返事をしないコルネに、グロルフは一言付け加えた。
「実は、抑えて欲しいとは口実で。ただ、私の妻と子供がいるのでね」
「まぁ」
クミコは大げさに驚いた。
「あ………」
コルネに見つめられ、グロルフは照れ笑いをした。
「それならそうと早く仰ってください!」
コルネも微笑む。
「元気を取り戻したか。良かった」
「奥様のお名前は?」
「ハナ。住所はこれだ。君には彼女の全てを任せたい」
「しっかりね、コルネさん!」
「はい!!」
コルネはグリーンタウンへ向かった。
秋男と秋風がまだ生まれていない頃の事。
カレナとビークの行方も分からぬまま、事の真偽を確かめるため………。

+++

血を流して帰ってきた弟は、悔しそうに顔を歪め、お気に入りの水晶を叩き割った。
この子の身に何があったのかは大方予想が付く。
しかしどう悔しいのかは、分からない。
何かに支配された心が、何故、そんなに悲しむのか、それは私には分からない。
もしかしたら、
もしかしたら………
それは、考えない方が良い。
期待しない方が、人は幸せになれるから―――

「いつの間に………」
コルネは物音に気づいて、夢の世界から目を覚ました。
物音の正体は、ビークだった。
ビークがカレアに破れ、無表情で帰ってきた。
魂が抜けたかのような瞳で、扉を開けるなり床に倒れた。
血が流れ過ぎたのか、顔色が悪い。
このまま………
このまま放っておけば、死ぬのかな?
コルネは冷静にそう感じた。
氷の部屋のせいか、体温を感じない。
己の心にも体温がない。
目の前の弟は瀕死なのに、助けてあげられない。
結界が張られた部屋の中で、コルネは静かにコーヒーを飲んだ。
「秋風がよく入れてくれたっけ」
呟き、冷たいコーヒーを一口。
そして立ち上がった。
このまま止めを刺せたら、少なくとも弟の愚行は止められる。
コルネはビークの近くで膝をつき、髪をなでた。
私の弟は、こんなだったっけ?柔らかい髪。綺麗な白い頬。
コルネの右手が僅かに光り、凍てつく刃が生まれた。
「ビーク、もうやめましょうね」
コルネは刃を振り下ろした。
が、それはビークの体に当たらなかった。
雷の様な光が、ビークを包み込んだのだ。
バリバリバリ!!!
黄金色の光が辺りを眩しく照らし、コルネは腰をかがめて身を守った。
辺りは再び、シンと静まりかえる。
「………何?今の」
コルネが目を開けると、ビークが立っていた。
「ビーク!?」
「姉さん………」
哀しそうな瞳でコルネを見つめた。
「な、何………?」
しかしそれは一瞬だけで、元の邪気に包まれた弟に戻る。
ビークは愛用の水晶を見つめ、悔しそうに顔を歪めた。
そして床に叩きつけた。
「くそっ!!」
「ビーク?」
暫く呆然と水晶を見つめたと思うと、今度は顔を上げて口の端を不気味に歪めた。
「………!!」
「カレナ ハ ドコダ………?」
まただ!あの時と同じ。
首を傾けて、白目をむいた。
確かに瀕死だったはず。
「ビーク、一体どうしたの?」
「カレナ ヲ サガセ」
ビークの体から黒い霧が溢れた。
「カレナ………コロセ!」
命令すると、その黒い霧は鋭い牙を持つ猛獣へと変化し、部屋から消えた。
「何が、どうなってるの………!?」
コルネの体は恐怖で動かなかった。


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