SOLVE A RIDDLE〜双子の勇者たち〜

+ビーク+

「カレナ、ちょっと来てよ」
カレナは、パストルと稽古をしていた。
ほんの少しの休憩中の出来事だった。
パストルは少し席を外していて、カレナは庭に一人だった。
「ビーク?どこから入ったの?」
「あとで教えてあげる。それより今すぐ来てよ」
カレナはビークを嫌ってはいなかった。
カレアと三人で仲良く遊んだ事だってあるのだ。
カレナは何の疑問も持たず、ビークについて行った。
そして宮殿を抜けた。
「ねー、どこまで行くの?僕今稽古中なんだ。あまり遠くまで行くと、パストルに叱られちゃうよ」
「そのパストルが呼んでるんだ」
「え?パストルが?」
カレナの声のトーンが上がった。
「そ、パストル、会いたいだろ?」
カレナは首を思いっきり縦に振り、ビークについて行く。
辺りはすっかり暗くなってしまった。
「ねぇ。本当なの?」
ビークは黙ったまま、カレナの手を引いていた。
やがて人気の無い荒野に出た。
「ここにパストルが?」
「そんなの、嘘に決まってるだろ。くっくっく」
「どうしたの?ビーク!?」
叫ぶと同時に、ビークはカレナの喉元に手を掛けた。
「えっ、やぁ!」
カレナは身を怯ませる。
ビークの手に力がこもり、二人とも顔を真っ赤にしていた。
「死ネ カレナ オ前ハ 邪魔ダ!」
「変だよ?ビー………ク。がはっ!」
気管がむせ返る。
「うぐぐ………」
カレナはパストルから習った事を思い出した。
王の身である以上、命の危険を伴う出来事に巻き込まれる可能性が非常に高い。
パストルがいない時は自分で自分を守らなければならない。
ビークの手を掴み、爪を立てる。
これでは駄目だ!なんとかしなくては。
ビークはカレナより少しだけ体が大きい。
力で適う相手ではない。
“剣火剣炎”(けんかけんえん)
カレナが心で唱えると、右手に炎の刃が現れた。
カレナの右手を守るかのように、刃の様な炎が飛び交っている。
「ビーク、ごめん!」
その手をビークの腹へと向けた。
「ぐはっ!」
ビークの手が離れた。
「はぁ、はぁ」
カレナは口元を左手の甲で拭い、ビークとの距離を置いた。
「どうしたの?ビーク、なんだか変だよ?」
目の前にいるのは確かにビークなのに、いつもと様子が違う。
ビークはこんなに意地悪じゃないもの!
「くらえっ!」
ビークはカレナの心配を余所に、今度は氷の刃を投げてきた。
「わっ、やめ、やめてビーク!」
カレナが後ろへ後ずさると、その距離の分だけ迫ってくる。
カレナの目に涙が滲んだ。
パストル、どうすればいいの?
「助けて!パストル!」
「カレナはいつもそうだ。困った時、パストルを呼べば解決する!」
「そんな事無い」
「いつもそうだ。パストルはカレナの事ばかり!貴様が王で無ければ良かったんだ!」
「違う!パストルはビークの事ばかり考えてるよ!」
「うるさい、冷脚!」
ビークはカレナの頭めがけて足蹴りをした。
「うぐっ!」
何とか腕で止める。
冷たい!気づけば腕が凍っている。
「わぁぁ!」
ズキズキと痛みが走る。
カレナは自分で自分の腕を抱いた。
「………」
目を閉じて心を落ち着かせる。
パストルに習ったとおり、冷静な気持ちを保てば、きっと何とかなる。
カレナの体から蒸気が発生した。
凍った腕が体温で溶けていく。
そうだ。
僕は火を司る王なんだ!
「うわぁぁ!!」
カレナの体から炎が溢れる。
「カレナの火か、俺の冷気か、どっちが強いか試してやる!」
カレナは炎に身をまとい、ビークに向かって体当たりした。
「カレナなんかに負けない!」
「ビーク!ビークの分からずや!」
炎に身を包んだカレナを、冷却したオーラで、ビークは何とか押さえ込んだ。
「ビークは全然分かってない!パストルはいつもビークのために考えてる!」
「嘘だ!」
「嘘じゃないもん。パストル言ってたもん。ビークと、いつ遊ぶか、いつも考えてたもん」
カレナは瞳いっぱいに涙を溜めた。
「僕だって寂しいよ。ビークと一緒に遊べなくて寂しいよ!」
「カレナ………」
ビークの手が一瞬緩んだ。
「パストルが、本当に?僕のために?」
ビークは視線を落とす。
「うん。だから、一緒に帰ろうよ」
カレナがビークの手を掴む。
「僕………カレナ嫌いだ」
「僕だってビークが嫌いだ」
ビークが顔を上げると、カレナは笑っていた。
「そんな顔して嫌いって言うなよ!」
「ビークだって、僕にカレナ嫌いだなんて言うな!」
「なんだとー?」
ビークはカレナの胸倉を掴んだ。
カレナも負けずにビークの髪の毛を掴む。
転がってもみくちゃになった。
「カレナ、泥だらけ!」
「ビークも泥だらけだぞ」
「カレナなんか鼻血出てるぞ」
「ビークだって鼻血出てる」
二人は顔を見合わせてクスクス笑った。
「さぁ帰ろうよ」
「うん」
二人は手を取り、宮殿に向かった。

宮殿に、 向かったはずだった………。
「ビーク、こっちであってるの?」
「分からない」
「分からないって、ビークが連れてきたんだよ?」
「お腹空いた〜」
「ポケットに入ってたおやつ、食べちゃったしね」
「何日くらいたったのかなー」
「分からないけど、お日様を十回以上見たと思うよ」
「二十回くらいじゃない?」
「そうかなー。ずっと寝てた日もあったから、わかんないや」
ビークは、すっかり元の幼い子供に戻っていた。
操られていた時のビークが連れて来たこの場所を、二人は知らない。
戻り方も分からず、二人は迷子になっていた。
「何日くらいかなあー。パストル心配してるだろうなー」
二人は火や氷を上手く使い、川の魚や森の実を食べて命を繋いでいた。

しかしそんな日も長くは続かなかった。
「おい、あいつ、魔界の王じゃないか?」
二人組の男が、子供達を見つけた。
魔界の王が行方不明になってから、王の座を奪う輩がどんどん増えていた。
しかし魔界はパストルが守り抜き、反乱者の中には混乱に紛れて他の国でもいいから、とにかくどこかを支配しようとする奴も少なくなかった。
ここに現れた二人組もそれで、地界のクミコは女性だから簡単に国を落とせると企んでいる輩だった。
ところが思わぬ所でカレナの姿を見つけた。
子供なら簡単に落とせる!首を持って帰ると、国は落ちる!!
そう考え、男達は興奮気味で声を掛けてきたのだ。
「坊や達、魔界の王様知らないかなぁ?」
カレナとビークに近づき、カレナに手を伸ばす。
「し、知らない!カレナ、走れ!!」
「やっぱりそうだ!おい、魔界の王を見つけたぞ!!」
「本当か!?」
二人組だと思っていた大人達は、もっと他にもいた。
ビークは林の中にカレナを隠した。
「ここは俺が巻く。カレナは逃げろ!」
「どうして?」
「王様だからさ。殺されるぞ?」
「嫌だ!ビークだって友達だろ?」
「馬鹿、王様と友達は全然違うだろ!」
ビークが怒鳴った時、激しい落雷があった。
辺りが白く光り、身近にある一本の木が燃えた。
その木は燃えながら、二人の間に倒れた。
「ビーク!」
向こう側は見えても、近づく事が出来ない。
ビークは気を失っているようだった。
「ビーク!ビーク!!」
カレナが何度か叫ぶと、ビークは起きあがった。
「ビーク!無事だったんだね!」
「カレナヲ 殺ス」
「えっ………」
ビークは、信じられない程の馬鹿力で木を押しのけた。
周りの木々をなぎ倒す。
「あそこにいたぞ!魔界の王を捕まえろ!」
「嘘だろ?」
カレナはこれ以上にない恐怖を感じた。


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