SOLVE A RIDDLE〜双子の勇者たち〜

+グロール+

フレノールが戻ってきたのは、辺りが暗くなった夜だった。
一旦シャロット城へ戻る事になった一行は、気球に乗り、マリネの操縦で移動した。
「結局、塔の中で何があったの?」
秋男に尋ねられ、フレノールは首を捻った。
「覚醒したと、思う」
「覚醒!?」
「前世の記憶が頭の中に流れてきて、記憶が戻ったというか。でも、どうしても思い出せない部分とかあって」
「じゃぁ、何か変化は?」
今度はプレーノ。
「戦うとか、そういう怖い事は無かったよ」

覚醒すれば、秋風は、カレアの記憶を完全に取り戻してしまう。
グロールは少し焦った。
待てよ。
逆にカレナを探し出すチャンスにも繋がるわけだ!
秋風の事はフレノールに任せて、俺は………。

「ふ〜ん、でも無事で安心したよ。秋風も多分塔の中に入る事になるだろうから、あいつ、一人で戦えないし、危険だったらこえーなーって」
「そうよね。秋風も一人で大丈夫だと思う」
「良かった〜」
「その事だけど、それだけ安全なら、時間のロスだし、二手に分かれて行動しないか?」
グロールは提案した。
「いいけど、どうするの?」
「秋風が塔へ行ってる間、そんなに危険でもなさそうだから、プレーノとフレノールで周りを見張って て欲しいんだ。俺は秋男とマリネの三人で、カレナを探そうと思う」
「でも、気球はひとつしかないし」
「大丈夫。まず皆で妖精界の塔まで行き、秋風が入ったらプレーノとフレノールを残して、俺らは カレナを探す。カレナ探しの方が危険だし、秋男と一緒なら俺も安心できるし。どうだろうか?」
グロールの意見をぼんやり聞く。
グロールの首から下がった、二本のペンダントが揺れていた。
くっついたり離れたり。
まるでカレナを探しているグロールの様に。
グロールを追う、秋風の様に。
秋風はぼーっとそれを見つめ、ため息をついた。
返すんじゃなかった〜。
返してって言われるまで持っておけばよかった。
秋風は会議中にぼんやりと昨日の事を考えていた。

+++

ファジィが塔に吸い込まれてから、もう何時間と過ぎていた。
「遅っせーなーフレノールの奴」
プレーノがいらいらと立ったり座ったり動き出していた。
円になり座り込んだグロールの隣には相変わらず秋風が座っていたが、顔は見えなかった。
いや、あの時笑顔が消えて以来、顔を見るのが怖かった。
「秋男、塔の裏側どうだった?」
グロールは正面に座っている秋男に訊ねた。
「特になんにも。あ、でもマリネが………」
「あー言わないで下さい!」
マリネが突然秋男の体を突き飛ばした。
「いてて、マリネの乱暴者!」
秋男とマリネがじゃれ合っている。
これって………!?
「姫が?どうしたの」
マリネがとても嬉しそうに秋男の背中をペチペチと叩いた。
カップル成立?いつの間に!?
「いや、魔物が出たんだよ。僕達が身構えるよりも早く、マリネの短剣がすっ飛んで来て」
「そうそう。びっくりしたよ。マリネって瞬発力抜群!」
プレーノが半ばからかうようにマリネを褒める。
「へぇ、マリネって凄いのね!」
秋風が微笑むと、マリネは顔の前で両手をぶんぶんと横に振った。
「どうしたの?」
「だって………」
「プレーノ、やめてあげよう。マリネは女の子なんだから」
「だっけどよー」
プレーノは笑い転げた。
マリネはそんなに嫌だという風でもなかったので、秋風は思い切って聞いてみた。
「マリネ、教えて?」
「グロールの前ではちょっと」
マリネは顔を真っ赤にして俯く。
「あ、もしかして………?」
プレーノが顔をのぞき込むと、マリネは慌てた。
「違います!そうじゃないです!」
「そうじゃないって〜何が?俺は何も言ってないぜ〜?怪しい〜なぁ〜」
プレーノに突っ込まれ、マリネの顔はますます真っ赤になった。
「私の前では駄目ですか?姫様」
グロールは、相変わらず誰とも目を合わせようとしない。
「グロールって、マリネの前では言葉遣い変わるよな」
「だって姫だから」
「グロール、旅している間は仲間なんですから、ローズと同じ扱いにして下さい」
「ではマリネ。旅の仲間なら、俺の前でも言って頂きましょう?」
「良く言った、グロール!」
プレーノが嬉しそうに手を叩く。
秋風の心は揺れた。
パストルはカレナに仕えていた。
グロールはマリネに仕えている。
パストルのカレナに対する気持ちは、グロールのマリネに対する気持ちと、さほど変わらないのではないか?
マリネは、そんなグロールの気持ちを知ってか知らずか、顔を赤くしたまま、チラチラと彼の横顔を見る。
「それは、その………」
「マリネ!無理して言わなくていいよ?」
秋風は思わず口を挟んでしまった。
妬けたから、かも知れなかった。
見て、いられなかった。
「はい。そうですよね、秋風さん!」
マリネは嬉しそうに笑い、秋風は酷く後悔した。

+++

もしかしてマリネは、お兄ちゃんじゃなく、グロールを好きなんじゃないかしら。
「はぁ」
秋風は思わず声に出してため息をついた。
「面白いね、秋風は」
ふと気づくと、目の前にグロールが座っていた。
「えっ、あの、会議は!?」
「とっくに終わったよ?」
言われて辺りを見渡すと、グロールと二人っきりになっていた。
「ずっと、コレ見てたね」
グロールがペンダントを指す。
「そ、それは、その」
「返してしまったから、後悔してる?」
「えっ!?」
グロールは秋風の目をまっすぐ見つめ微笑んだ。
「そんなつもりでは………」
“見られてたんだ”
恥ずかしくて、秋風は立ち上がった。
さっさと扉まで向かう。
「どうして、カレナに拘るの?」
「どうしてって」
背後から声を掛けられ、思わず立ち止まる。
「秋風はカレナじゃなかった。それは事実だろ。どうしてがっかりするの?」
「だって、それは………」
あなたが好きだから。
「カレナになりたかったのか?」
「そ、そんな事」
「どうして自分がカレナだったらいいと思うの?」
秋風は返事に困った。
カレナだったら、グロールの支えになれると思った。
けれど、今はマリネがカレナかも知れないのに、そんな厚かましい事、言えない。
秋風が何も言わないので、グロールがもう一度口を開く。
「じゃぁ、何故、………何故………」
グロールは言葉を選び、しかし適切な言葉が見つからなかったらしく、首を左右に振った。
「まぁいいや。お目付け役もいる事だし、また今度にしよう」
「お目付役?」
グロールも立ち上がり、秋風をすり抜け扉を開けようとノブに手を掛けた。
「と、その前に………秋風、カレアの記憶はまだ蘇ってないんだったよな?」
「えっ?………うん」
「じゃぁ今の内だな」
グロールはくるりと振り返り、秋風の肩を抱き寄せた。
そして彼女の唇に自分のそれを重ねる。
「!?」
抵抗する余裕もなく、ただ呆然とした秋風の首に、ペンダントのひとつをかけた。
「秋風がカレナだったら良かったのに」
耳元で囁いた。
「馬鹿にしないで!」
秋風はグロールの体を押しのけ、扉のノブに手を掛けた。
ドアを開けるとそこにはフレノールが立っていた。
「あっ」
秋風は咄嗟に口元を押さえた。
「ほら、お目付け役」
背後からグロールの声が聞こえたが、秋風はそのまま振り返らず、フレノールの脇をすり抜けて部屋へ駆けていった。
「お目付役さん、何か用事?」
「秋風にね。でも彼女は出て行ったし。グロール、あなた最低ね!」
フレノールはドアを勢いよく閉めて去って行った。

グロールは会議室に一人取り残された。
カレナの正体はもう分かっている。
明日、塔まで行って覚醒させるのみ。
グロールは深く息を吐いた。
しかし変だ。
カレナが危険にさらされる度に、秋風からカレナのオーラが発生したのは何故だったんだろう。
「お陰で計画崩れ。カレアの奴………!!」
グロールは憤りをぶつける場所も見つけられず、頭を掻きむしった。


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