SOLVE A RIDDLE〜双子の勇者たち〜

+グロール+

「ローズ様、近頃ローズ様はグロールさんにとって邪魔な存在になっていませんか?」
サンクスはお茶を煎れながら、クスクスと笑った。
宮殿の、三十人は入れる広い食堂で、マリネと三人でお茶をしていた。
三人は、サンクスが会議室から出た後の話をしていた。
「あら、いいのよそれで。グロールは憎まれ口を買って出るような人なのよ。あのままではプレーノと仲間割れしかねないわ」
「ローズ様、それでわざわざグロールさんにちょっかいを?」
「私はもう一緒に旅をしないのですから、少々煙たい存在でもそう気にならないでしょう?」
「それはそうですが」
「彼は全部一人で背負いすぎなのです。 本人は結構頑張って隠しているつもりかも知れませんが、カレナを追う事に必死になっていますでしょう?そんな態度を悟られないようにするために何も言わない。私達に打ち明ける度に深呼吸をなさるのは、心で泣いているからなのです。ですからいつも一人で高みの見物。誰かがその高みから彼を引きずり降ろしてくれれば問題ないのですが」
「成る程、仲間とはもっと身近なもので、持ちつ持たれつ。それが宿題の回答の意味ですね!」
サンクスの言葉に、 ローズは頷いた。
「先生が解けてないんじゃ、いつまで経っても生徒の秋男さんには回答出来ませんわ」
マリネは宿題について意味が分からなかったが、話の流れで何となく分かった様子だった。
「グロールにとって、カレナの存在が私たちの中の誰よりも大きいのですね
マリネの言葉に、 ローズとサンクスは頷いた。
そう………グロールには、泣ける場所が無い。
弱音を吐ける仲間が居ない。
それは孤立を意味し、戦いにおいての弱点になる………。
「さて、雑談はこれくらいにしましょう。以上が昨日までの出来事です。マリネさん、明日からよろしくお願いします」

+++

「うわー、いかにもって感じ!」
プレーノは目の前の塔を見上げた。
蔦が絡まる、古い洋館の様なブロック塀。
大きくそびえ立つそれは、シャロット城の兵士たちが最近発見したと言う、怪しい四つの塔の内の一つだった。

シャロット大陸の北に一つの塔があった。
秋男と秋風は、マリネの気球の操縦によって、グロールやフレノール達と共に、ここへやって来た。
「四つの世界と四つの塔。確かに何か臭うよな」
プレーノが塔の周りを歩き出した。
秋男もついて行く。
「兄貴!危ないから、二人だけで行かない方がいいわよ?」
「じゃぁ、私もご一緒していいですか?」
マリネは城の中の時の姫とは違い、活発な女の子だった。
どこかコルネに似ていて、秋男はいつの間にかマリネを目で追うようになった。
「構わないよ。じゃぁ、行って来るね〜!」
「危なくなったら戻るから」
「三人なら大丈夫だよなー」
「そうですね!」
「もう、兄貴の暢気者!」
秋男とプレーノ、そしてマリネは塔の陰に消えた。

「この塔、どこか見覚えがあるんだけど。グロールは知ってる?」
フレノールは塔を見上げた。
「いいや。おかしいな?俺も見たことが無いのに」
「それって、二人とも、まだ完全に覚醒してないだけではないの?」
秋風がそう言うと、フレノールが横目でグロールを睨んだ。
「あら、パストルさんも完全に覚醒してないの」
フレノールは嫌味ったらしく言う。
グロールは視線に気づきながらも知らないフリをする。
“言わないつもり?本当の事”
「それよりこの塔、いつ、誰が、何の目的で建てたんだろう?」
“本当の事”を言うにしろ、言わないに知ろ、パストルも知らないと言う事は本当らしい。
「パストルも知らないって事は、やっぱりごく最近建ったのかしら」
「それにしては古びてるよね」
秋風は塔を見つめた。
「あれ?そう言えば、入り口ってどこにあるんだろう?」
「え?」
フレノールは塔を見つめた。
グロールは入り口に見えた部分を押してみたが、びくともしなかった。
「飾りかよ」
「ねぇ、何か紋章の様なものがついてるわ?」
秋風が壁の埃を払うと、紋章と銀色の宝石が現れた。
その宝石は輝きを増し、フレノールの体を包んだ。
「フレノール!?」
「あっ、きゃぁぁっ!」
その直後、フレノールは塔に吸い込まれてしまった。
「嘘、フレノール!フレノールってば!!」
秋風は塔をドンドンと叩いてみた。
しかしビクともしない。
グロールは秋風の腕を掴み、叩くのをやめさせた。
「何?」
秋風が振り返ると、グロールは秋風に急接近する。
「えっ?」
ドキドキしながら次の行動を目で追う。
グロールは、さっき秋風が触った銀の宝石を触ってみた。
そして、その周りの埃も払う。
紋章を全て浮き上がらせた。
「天界の紋章だ」
秋風は、ほっとため息をついた。
・・・やだな、自意識過剰・・・。
「フレノールが天界の神の生まれ変わりだから………?」
「かもな。ったく、一体どうなってるんだか」
グロールは塔を背中にし、足を投げ出して座り込んだ。
「特に危険はないだろう。秋男達も心配だが、ファジィがここから出てくるまで待とう」
「うん」
グロールは空を見上げた。
秋風はどうしたらいいか分からず、暫くうろうろしていたが、誰も戻ってこないので、思い切って グロールの隣に座った。
「ねぇ、天界の塔があるって事は、他の国の塔もあるって事よね?」
「そうかもな」
「私も、入る事になるのかな?」
「怖い?」
「だって、フレノールと違って、まだ何も思い出せないし」
「カレアの記憶、戻ってないの?」
グロールが目を見張る。
「うん。カレナと仲良く遊んでた時の記憶はあったわ。でも、それ以外は」
「………俺やビークの事は?」
「全然」
秋風は首を横に振った。
「そうか、まだ思い出してないのか………」
「ん?うん。これからどんどん思い出す事になるのかな?」
秋風はペンダントに手をやった。
グロールから受け取ったもの。
最近は、これを握る癖がついた。
秋風に取って、グロールに関係するものは、全てお守りだから。
良く見ると、紋章の様なものが刻んであった。
あの時は分からなかったけど、今なら分かる。
魔界の紋章かも知れない。
「グロール、これって」
秋風が首からペンダントを外した。
手のひらに乗せて、紋章の部分を指した。
「魔界の紋章?」
「そう」
「もしかして………」
カレナの?
そう聞こうとして、怖かった。
グロールが今もってるペンダントも同じ形になっているから。
「そう。カレナのだよ」
そんな秋風の不安も知らず、グロールは、さらりと答えた。
いや、本当はグロールも平気では無かった。
正面をまっすぐ見つめ、秋風から顔を逸らしている。
秋風には、見ていて分かる。 グロールの心の中にはカレナがいる。
そんな大事なものを、これ以上、預かる訳には行かない。
秋風はグロールに向けて差し出した。
「じゃぁ、やっぱり………これは」

返した方がいいんじゃないかと思う。

「なに?どうして返そうとするの?肩こりが酷いのか?」
グロールはクスクスと笑った。
「だって、グロールは私をカレナと思って、………」
秋風がそう言うと、グロールの顔から笑顔が消えた。
「そうだな、秋風はカレナじゃなかったからな」
秋風の言葉を遮り、グロールは真顔でペンダントを受け取った。
グロールの表情から心が読み取れない。
手から離れたペンダントを見つめ、秋風の心は寂しくなった。
「カレナを探すの?」
「そりゃ、コルネさんを無事に返してもらうために」
「そうじゃなくて」
「俺が、カレナを好きだから?」
「………」
秋風は言葉に詰まった。
出航の前日、部屋の前で偶然聞いてしまった事を、グロールはやっぱり知っていた。
「そうだよ。俺はカレナを愛してる」
たった今まで会話していたはずのグロールの声が一瞬聞こえなかった。
秋風の髪がふわりと舞ったまま静止したかのように、時間が止まった気がした。
周りの木々が、やけに騒がしい。
強い風が吹き、木の葉が舞った。
ふと遠くから秋男達のはしゃぐ声が聞こえてきた。
「やっと、帰ってきたな」
グロールは立ち上がった。


戻る 次へ

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送