SOLVE A RIDDLE〜双子の勇者たち〜

+カレナ+

ビークを追うと、やがて目の前に大きな屋敷が見えてきた。
庭に赤ん坊二人と女の姿があった。
「カレナ!今度こそ俺の手で!」
ビークが叫ぶと、女は双子を抱えて飛び退いた。
「何!?」
パストルはその女に見覚えがあった。
あいつはコルネ………!
じゃぁ、カレナはここにいるのか?
何年も会えなかったカレナに、やっと会えるのか!!
しかしビークがカレナの命を狙っているとは一体?………この数年の間に何があったのだ?
パストルの胸の内は、不安に支配された。

「カレナは渡さないわよ!」
コルネはそう言ってビークに杖を向けた。
先端から火の玉が飛び出し、ビークを怯ませる。
火に弱いビークを他所に、パストルはコルネに声をかける。
「カレナはどこだ!?何故ビークがカレナを?」
「パストル、お願い、ビークを殺して!もう何もさせないで」
「意味が分からない。もっと分かりやすく説明を!」
「この子はカレナの生まれ変わりよ。ビークはこの子を殺そうとしている。さぁもういいでしょう?説明している暇は無いのよ」
「意味が分からない!!」
「カレナはこの戦で命を落としたのよ」
「嘘だ」
「パストル、一緒に遊ぼうよ。カレナなんか殺しちゃってさ………」
ビークは操り人形の様に首を傾けたまま、にやりと笑った。
「ビーク?」
パストルはビークに近づこうとして、やめた。
様子がおかしい!
「一体………!?」
パストルの全身から血の気が引く。
「パストル!しっかり判断しろ!」
コルネに叱咤され、飛んできた火の玉を浴びてやっと、パストルは我に返った。
「この赤ん坊がカレナ………だったら成長させればいい!」
パストルは双子に向かって術を唱えた。
ドリームマスター。
この術にかかれば年を取る。
カレナを成長させて逃がそう。
その時、庭を見に来たもう一人の女性が、双子を女の前に立ちふさがった。
「花華さん、来ちゃ駄目!」
「パストル、邪魔をするな!」
ビークは体制を整えて、パストルに飛び掛った。
「双子を早く逃がして!ああっ!」
パストルの放ったドリームマスターは花華に直撃した。
「しまった!」
「花華さん!」
コルネは花華を呼んでみたが、気を失ったのか動かなかった。
「今度こそ邪魔させない!」
ビークが躍り出た。
しかしパストルがそれを制す。
「ビーク!もうやめて!カレナはもう死んだのよ!この子は違う人生を歩むのよ!」
コルネは叫んだ。
「これ以上やるって言うなら、私だって手加減しないわ!」
コルネは炎を使ってバリアを張った。
「お前、俺と同じく炎は苦手なはず!」
「ビーク、あなたとは姉弟ですものね。でも、私はこの炎に焼かれても………命を賭けてこの子達を守ってみせるわ」
「カレナ ガ 死ンダノニ パストル モ 姉サンモ 僕ノモノ ニ ナラナイ?」
「ビークしっかりしろ!お前はそんな弱虫じゃ無かったはずだ!」
パストルはビークの肩を掴み、前後に振った。
行方知れずになった時は、まだあんなに幼子だったのに、この数年でどうやって生きてきたんだ?
勿論 放っておいても体は成長する。
しかし、考え方はまだあの時の子供のままだ。
邪悪な心に支配されたのは、全て俺の責任か!
ふと、ビークの目に涙が滲んだ。
「絶対にカレナを殺してやる!!」
ビークは鋭い目で双子を睨んだ。
しかし女は恐がりもせず、戦闘態勢のままだ。
ビークはパストルと女を交互に見て、やがて去って行った。
「ビーク………」
崩れるように座り込んだ コルネの周りから炎が消えた。

「コルネ、お前達姉弟を戦わせてしまって申し訳なかった」
「いいえ、あの子はもう完全に邪気に支配されている。それより、ドリームマスターなんて乱暴ね」
パストルはコルネに手を差し伸べて、立たせた。
「すまなかった。これしか思いつかなかった。あの女性は?」
「花華さん。地界の神、クミコの護衛隊長グロルフの奥さんであり、カレナの母親」
「カレナの………」
コルネは双子を一旦、ハンモックに寝かせ、花華をベッドに運んだ。
「大丈夫?」
「術に殺す程の威力はないわ。大丈夫よ」
そしてコルネは双子を抱えた。
「どこへ?」
「教えない。私か花華さんのどちらかの身に何かあった時には行くように言われてるけど、あなたには教えない。だって、この子達は地界の住人として、新しい人生を歩んでるんですもの」
「本当に、カレナなのか?」
「ええ。ほら僅かにオーラを感じるでしょ?この子達が危険な目に遭うと、カレナが必死でオーラを発する。守ろうとしてるんだわ。新しい自分を」
パストルは静かに双子を見た。
成る程、カレナのオーラが出ている。
「少し、触らせてくれない?」
「少し、ね」
パストルは双子の頬を指先で触ってみた。
さっきまで泣いていたはずが、抱かれるとピタリと泣き止んだようだ。
「カレナ………どっちが?」
パストルは双子を指した。
どちらかがカレナで、どちらかは違うはずだ。
「それも、教えない」
コルネは首を左右に振った。
「ビークを元に戻せるのはあなただけよ。ビークを、弟を頼むわ」
「良かった」
「何が?」
「さっきは殺してって」
「さぁ、どっちが本音かしら」
コルネは優しく笑い、パストルの前から姿を消した。

+++

パストルは魔界に戻った。
「なんだこれ………」
宮殿が焼かれている。
何年も前に廃墟になったかのように、シン………と静まり帰っていた。
たった数時間の間に、一体何が起こったのだ!?
「パストル………様………」
「お前は!」
「申し訳ありません。お守り出来なくて………」
一人の兵士が傷つき、息も絶え絶えに城門のあたりでパストルの帰りを待っていた。
「宮殿が滅びた!?何故だ!………そうだ、パレオは?」
「パレオ様ももう………」
「これはビークでは無いな?天界をやったのもこいつの仕業か。誰が一体………!?」
「かみ………なりが」
兵士は涙を流し、そのまま息を引き取った。
かみなり………?
ただの雷にこんな力は無い。
パストルは宮殿に入った。
宮殿中を走って、生き残りを捜したが、誰一人見つからなかった。
黒く炭になった遺体………。
「ぐっ………げぇ………」
パストルは水を求めて噴水に向かった。
カレナと良く遊んだ噴水………。
そこには、あの頃の面影が殆ど無かった。

「僕が作ったんだよ」

ふと、頭の中でカレナの声が聞こえた。
噴水の脇に、幼き頃のカレナの姿が見えた。

「僕が作ったんだよ」
カレナがこちらに向かって微笑みかける。
「紋章が入ってるぞ?これ」
「いいのいいの。だってこの紋章は僕のだもの」
「しかし、参ったな。紋章入りの品物を勝手に作ってしまうなんて」
「これは僕の魔力を込めたお守りなんだよ。はい、パストル」
「私に?」
「うん。お守りだからね。僕がパストルを守ってあげるからね」


パストルは首からさげた、そのペンダントにそっと触れる。

死んだだと?

地界の民に生まれ変わっただと?

もう新しい人生を歩んでいるだと?

体が崩れ落ちる。
両腕からするりと抜け落ちる。
全てが幻だったかの様に、手に触れずして失った!!
パストルは倒れ込み、地面に拳を叩きつけた。
何度も、何度も、何度も叩いた。

ふざけるな!
こうして悲しんでいる俺をおいて。
俺の事を忘れたなんて。

嘘だ。

嘘だ嘘だ嘘だ!!


パストルは声を上げて泣いた。
あの美しかった宮殿も、天界も、憎らしかった天界の王も、戦友パレオも、ビークも………。
みんな失った。

カレナ!!

何よりも王を守りきれなかった事。
「亡くなった先代に何て………畜生!!」
好きなもの、大事にしていたもの、全て、全て己の知らないところで失った!!
かつて美しく在った噴水の周りは、白いコンクリートが割れ、水が溢れ流れていた。
パストルは拳を叩きつける。
やがて血が滲み、水と、泥と、一緒になった。
痛みは感じない。
パストルは、 叩くことをやめなかった。
やめられなかった。


“僕がパストルを守ってあげるからね”


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