SOLVE A RIDDLE〜双子の勇者たち〜

+ビーク+

「パストル、どこにも行かないで!」
少年は背中を向けた青年に向かって叫んだ。
「すまない、仕事だから」
「またカレナの所に行くんだね。仕事なんて嘘だ!!」
少年はうつむき、涙を流した。
「ビークお願いだ。困らせないでくれ。俺にとってカレナもビークも同じくらい大事に思っている」
「嘘だ!カレナとは一晩中一緒にいるくせに、僕の所には一時間だって居ないじゃないか!」
ビークと呼ばれた少年は、泣きじゃくった。
パストルは振り向き、ビークの目線に合わせて腰をかがめた。
よしよしと頭を撫でるが、振り払われる。
同じ宮殿にいながら、身分が違うだけで振る舞いを変えなければならない。
大人であれば分かることだが、まだ幼いビークには理解できなかった。

魔界を統一する宮殿。
パストルは世話係を務めていた。
主な仕事は、両親を無くし周りの大人たちに押し上げられながら国を支配する幼き王、 カレナの教育である。
まだ何も分からない小さな子供が周囲に流されないように教育しなければならない。
正直、パストルには荷が重すぎた。
しかしそれでも亡くなった王の遺言で、教育係を勤めなければならなかった。
カレナがパストルに懐いていたからだ。
パストルもカレナを可愛がり、周囲からも仲良い兄弟と認められていた。
ただ遊ぶだけだったら、ビークも誘い、寂しい思いをさせなかっただろう。

パストルはビークを抱きしめた。
「俺がいない間、お姉ちゃんと遊んで待っててくれないかな?」
「やだ!!女と遊ぶモンか!!」
ビークは鼻の穴を大きくして首を横に振った。
ついこの間までは勢い良く返事をして、言うとおりにしていてくれたのだけれど。
姉とは言え、今はオンナと遊ぶ年齢では無いらしい。
ビークには姉が一人いる。
パストルと年が近く、同じ世話を務めているが、彼女はまた違う内容の仕事のため、 空き時間が異なるのだ。
だから今までは何とかなっていた。
「弱ったな………。うーん、よし!」
パストルは意を決してビークの体から腕の部分だけ離れ、ビークの目を覗き込んだ。
「じゃぁ、今日は仕事を早めに切り上げよう」
「本当か?」
「うん。約束する」
「絶対だよ」
「うん、絶対」
パストルはビークの頭をくしゃくしゃとやった。
「よしよし。いい子で待っててくれよな?」
パストルは、ホッとため息をつき、王室へ向かった。
その背中を見ていたビークは、パストルの姿が消えると直ぐに中庭へもぐりこんだ。
中庭にはパストルとの秘密基地がある。
誰にも内緒だ。
勿論カレナにも内緒。
くすくすと笑いながら木の根っこに向かう。
腐った根っこの中に入ると少し嫌なにおいがするが、奥は空洞になっているので、それ程気にはならない。
ビークはそこで棒キレを拾い上げると、ぶんぶんと振り回した。
「早くパストルみたいに強くなるんだ!カレナなんて、ぺぺぺのぺだ!」
「叶えてあげようか?」
ふとどこからか声が聞こえた。
「誰!?」
「パストルみたいに強くなったら、カレナなんて」
「誰!!」
その場でぐるりと回ってみたが、声の主は現れない。
「カレナの事、嫌いなんだろ?」
「キライだけど………」
ビークは黙り込んだ。
いつもパストルとの時間を奪うカレナ。
カレナさえ居なくなれば。
「カレナをやっつけちゃうの?」
ビークはポツリと呟いた。
「カレナが居なくなればパストルともっともっと沢山遊べるのだよ?」
「カレナが居なくなれば………。僕、強くなりたい」
「強くなれるさ」
「どうすればいいの?」
「ビークは良い子だね。力をあげるよ。だからカレナを殺しておしまい」
ビークは白い息を吐きながら立ったまま気を失ったが、直ぐに目を見開いた。
しかしその目は普通じゃなかった。鋭く、光っていた。

― カレナ ヲ コロセ ―


+++


「私とした事が」
起き上がると見知らぬ部屋だった。
「寒い………」
着の身着のままで寝ていたせいか、体が冷える。
しかし、寒いのは服装のせいではないようだ。
薄暗い部屋。
部屋と言うよりも洞穴のよう。
天井からツララが伸びていた。
「懐かしいわ」
コルネは起き上がった。
「お目覚めかな?」
振り返るとビークが椅子に腰をかけていた。
氷の結晶で作られた水晶を熱心に見つめていた。
壁から染み出た水が、チョロチョロと音を立てて床に流れていった。
「何日くらいたったのかしら?」
コルネはビークに、驚く風でもなく訊ねた。
「人間界で言えば十日ばかりだ」
「そう」
「聞かないのか?」
「何を?」
「カレナの事をさ。生きてないかも知れないぜ?」
「あなたがここに一人でいるって事は、カレナは無事なんだわ」
「ふんっ」
「暇そうね。何故かしら?」
「マーザヌー様がまだお目覚めにならないのだ」
「何かあったのかしら?」
「さらに大きな力を手に入れてから、体が安定しないらしい」
「それはそれはご愁傷様。訳分かんない事してるからよ」
コルネは冷たく言い、ビークから水晶を取り上げた。
「カレナを探してるの?それともパストル?」
ビークに向かってニンマリと笑った。
「いい加減諦めたら?虚しいだけよ」
「っるっせっ!」
ビークは、からかうように言い放つコルネから水晶を取り戻した。
「天界の神の行方を追っている」
「天界?ファジーの事?」
「あぁ、あいつは厄介だから」
「そう言えばビークってば何故か嫌われてたわよね」
水晶を奪われたコルネは、くすくすと笑った。
「貴様、さっきからウロウロしてるが、立場を分かっているのか!?」
「人質なんでしょ?カレナをおびき出すための」
コルネは両手を上げた。
「おびき出すためではない、殺すためだ。カレナの死体と引き換えにお前を返す」
「返すって、誰に返すのよ」
コルネはため息をつき、続けた。
「本当に、しょうのない子ね。そんな事をしたって、彼は喜ばないわ」
「喜ばせようと思ってやっているんじゃない」
ビークは立ち上がった。
「どうしたの?」
「貴様の出番だ」


+++


「ジオラマ城からグリーンタウンまで三日。つまり、その三倍もの距離を走るとなると、 シャロット城まで一週間以上もかかるって事だ」
プレーノは仁王立ちでふん反り返った。
「何えばってんの」
フレノールは相変わらず兄には冷たい。
「秋(アル)ちゃん、俺たちの愛を育む時間には丁度良いと思うんだけど」
プレーノは秋風の隣に腰掛けた。
「兄貴、秋ちゃんって誰?」
「秋ちゃんの事だよ。みんなが秋風!って呼び捨てにするから、俺はもっと親しみを込めてだなぁー」
「はいはい。秋風ごめんね、兄がうるさくて」
「い〜え」
秋風はフレノールに向かって両手を振った。
「秋ちゃんって呼んでいい?」
「うん、いいよ」
「よっしゃ!」
喜ぶプレーノをよそに、秋風は考え事をしていた。

「………の事、まだ好きなのね」
出発前、確かにフレノールが言ってた。

グロールに好きな人がいる?
今でも忘れられない人。
それは誰?
「秋ちゃん、大丈夫?」
ふとプレーノに顔を覗き込まれ、秋風は我に返った。
「あ、うん、ごめん、何だった?」
「いや、大した話してねーけどなっ」
プレーノはがははと笑った。
出航の日、グロールとフレノールが何を話していたか。
秋風は気になっていた。
しかし、プレーノがいる限り、フレノールと二人きりで話すのは不可能で、なかなか切り出せないでいた。
また、フレノールも、隙を与えず、聞かれないように気を張っていた。

快晴。
絶好の船旅日和。
秋風達は給湯室でコーヒーを飲んでいた。
ローズとサンクスは二階の小部屋で休憩を取っている。
秋男とグロールは甲板で守をしていたが、三日目の今日、急にグロールが二階へ上がった。
暫くして、ローズとサンクスと共に、グロールも降りてきた。
そして、船を岸につけた。
「どうしたの?」
秋風達も給湯室から出てきて、全員が甲板に揃った。
「実は俺の故郷に寄ってもらったんだ。暫く空けると思うけど、シャロット城で待っていてくれないか?」
「そんな!この中で一番強いのはお前。そん次は秋男だぜ?一体誰が秋男の護衛を務めんだよ??」
とプレーノ。尤もな話である。
「でもローズ達もいるし、城に着いたらマリネも来てるだろ?もし危険な事があれば俺も直ぐに駆けつけるから」
グロールがそう言うと、皆はざわついた。
しかし、フレノールが手をパンと叩いて、それを制した。
「分かったわ。本当に直ぐに駆けつけてね。兄貴の言い分が道理に適っている以上はね」
秋男を守る事が出来るのは、確かにグロールだけだが、本当は秋風が狙われている。
秋風を守る事なら、秋男にも出来る。
つまり、暗黙の内に護衛はグロールから秋男に託されたのだ。
「じゃぁ」
グロールは秋風の目を見つめ、別れを告げた。
グロールが抜けただけで、船内は慌しかった。
今までずっと守をしてくれたグロールの穴を埋めるのに必至だ。
エイの化け物くらいなら、秋男が一人で片付けてくれるが、それ以上のモンスターが出ればプレーノは勿論、 ローズやサンクスの呪術も必要となる。
秋風もフレノールも、船を守るために必死になった。
秋風の心の迷いを、一生懸命になる今が吹き飛ばしてくれた。


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