SOLVE A RIDDLE〜双子の勇者たち〜

+アルカ+

秋風は、夜風に当たろうと、そっとベッドから抜け出した。
近くの丘まで出て、月夜を浴びる。
昼間、母が言った言葉が気になる。
グロールがお兄ちゃんを狙ったの?
でも、あの時コル姉はビークって言ってた。
姿は見てないけど、グロールがビークと同一人物だとしたら、グロールは魔族?
お兄ちゃんの事を一番に考えてる。
護衛として、一番相応しいグロール。
悪い人に見えない。
船の上で、幾度かの戦闘に巻き込まれて来た時も、お兄ちゃんに剣術を教えながら戦っていた。
秋風はぶんぶんと首を振った。
「やっぱり悪い人には見えないよ」
ふと、呟き、背後に気配がして振り返った。
「グロール!?」
吃驚して声がひっくり返る。
「眠れないのか?」
「まぁね」
秋風は、暗闇にぼんやり見えるグロールを見つめた。
「お母さんとの再会、どうだった?」
「うん、嬉しかった。たいした事は話せなかったけど」
「良かったな」
秋風は微笑みで返事した。
「不思議なの。ついこないだまでナムの村から一生出る事は無いだろうって思ってた。私達にとって、ナムが全てだった」
「分かるよ」
「コル姉に会いたい。けど、会った時に何が起こるのかしら?少し怖い」
「ああ」
グロールは目を閉じ、息を長く吐き出した。
秋風に向き直り、切り出した。
「聞きたい事があるんだ」
「は、はい」
秋風は突然の事に驚き、グロールを見た。
「本当は・・・・・・・・・どっちが狙われてるんだ?」
「えっ!!」
秋風の心臓が鳴った。
ずっと胸に秘めていて、誰にも言わなかった。
幾度かの戦いで思っていた。本当は、私が狙われてるんじゃないかと。
ナムの村で火に包まれたのは私だった。
でも狙いが外れただけかも知れない。断定できなかった。
「コル姉も、フレノールも、お兄ちゃんが狙われてるって言ってたけど」
「けど、お前の方が危険な目に合ってる・・・・・・・・・だよな?」
秋風は、高鳴る胸を押さえ、小さく頷いた。
どうして?誰も気づかなかった事を・・・・・・・・・?
断定できなかった事を、グロールは言い切った。
“どうして?”
「秋男は、気づいてるのか?」
「よく、分かんない」
グロールは、秋風を見つめた。
“やはり、感じていたんだな”
そして自分の首に下がっているペンダントをはずし、そのまま秋風の首にかける。
「え?」
「はっきりするまで、混乱を招くだけだから、あいつが狙われている事にしておこう。
その間これを身につけるといい。大した効果はないが、防御のたしになるだろう。外すなよ」
「でも、大事な物じゃないの?」
ペンダントには宝石が埋め込まれていた。
裏には紋章の様なものが刻まれている。
「うん、大事」
「やっぱり。私はいいから」
「じゃぁ、言い方を変えよう」
「預かってくれ。肩こりが酷いんだ」
そう言い、預かったからには返してもらうぞ?と付け足した。
「分かった。ありがとう」
「渡せてよかった。じゃぁ、お休み」
「あ、・・・・・・・・・ねぇ、待って!!・・・・・・・・・何故?」
去ろうとするグロールに、秋風は呼び止める。
彼の背中に問いかける。
「何故、あんな事聞いたの?本当はどっちが狙われてるかなんて・・・・・・・・・誰もそんな事聞かなかったわ」
「時が来れば、分かる」
「あ、待って!」
先へ進もうとするグロールに再び投げかける。
「もうひとつ!………ビークって、知ってる?」
知っていたらどうなんだろう?
秋風は言ってから後悔した。
母が言うように、グロールが兄の命を狙っていたら何だって言うのだろう?
秋風の心はもう決まっていた。
もし本当に兄の命を狙う魔族だとしても、きっとまだ好き。
だから本当は、どうだっていい事なのに。
直ぐに答えを返さないグロールの背中が、秋風には遠く見えた。



朝。
秋風は目を覚まし、昨日グロールから貰ったお守りを握り締めた。
グロールはビークなんかじゃなかった。
ナムの村でお兄ちゃんを狙った魔族ではなかった!!

秋風は夕べの事を思い出した。
「そのビークってヤツが、コルネさんを連れてくるよ、絶対にな」
あの後、グロールは振り返らずに、寂しげな背中で去っていった。

「良かった」
秋風はホッとため息をつき、呟いた。
「何が良かったの?」
隣で寝ていたはずのフレノールがいつの間にか起きていて、着替えていた。
「あ、うん、ちょっとね」
秋風も着替えようとした時、フレノールが近づいてきた。
「あ、それどうしたの?」
「あ、これは・・・・・・・・・」
フレノールの視線は、秋風の首からかかっているペンダントを指していた。
「もしかして、秋男、くん、から、貰ったの?」
「うん、まぁ、そんなトコかなっ。早く朝食を取りましょう」
秋風はフレノールの表情に気づかずに、さっさと食堂へ向かった。

「では、一時間後に広間に集合して下さい」
食事が終わり、皆はシャロット城へ行く準備に取り掛かった。
そんな中、フレノールはグロールの部屋へ向かった。
ノックをすると秋男が出てきた。
「あら、グロールと同じ部屋だったの?」
「いや、プレーノと三人。プレーノは準備終わったって、広間に行ったけど?」
「兄貴じゃなくて、グロール呼んでくれる?」
フレノールが部屋を覗き込むと、グロールが「何?」と促した。
「秋風のペンダントについて」
「色々思い出した?」
グロールは小さく微笑んだ。
「色々ではないわ」
フレノールは冷たく言い放った。
「秋男、ちょっと席、外してくんない?」
「いいけど。じゃぁ荷物持って先行くよ?もうじき出発だから、手短にね」
秋男は荷物を持ち、広間へ向かった。
フレノールは扉を閉め、グロールと向き合って腰掛けた。
「ペンダントについて、何?」
「あれは、大事な物なんでしょ?どうして秋風に持たせたの?」
「預かってもらったんだ。肩こりが酷いから」
「嘘つくのヘタね」
「同じ嘘で秋風にも笑われたよ」
「断片的にだけど、あのペンダントを見て、少し思い出したの。あなたの事を」
「秋風は思い出さなかったぜ」
「そう。え?秋風?」
「そ、秋風。あ、思い出した話を少し聞かせてくれないか?」
「いいわよ」


+++


広間には、グロールとフレノールを除く仲間が集まっていた。
「もう時間なのに」
「フレノールは化粧でもしてんのか?」
プレーノが苛立ちを見せた。
「お兄ちゃん、何か知ってる?」
「あ、うん。二人とも僕達の部屋で話し込んでるよ」
「どうして?」
どういう組み合わせ?
一瞬、ローズと秋風の目が合った。
「あ、それ、」
秋男は秋風の胸元を指した。
「そのペンダントがどうとか」
「これ?」
「うん、何か思い出したとかなんとか」
秋風は今朝のフレノールの様子を思い出した。
フレノールは、私がグロールからもらった事に気づいていたの?
だったらどうしてお兄ちゃんからもらった?なんて聞いたのだろう?
「あいつら、時間忘れてるのか?ちょっと見てくる!」
「あ、待って!私が」
プレーノよりも早く、秋風は広間を飛び出した。

秋風は扉の前で息を整えた。
「………の事、まだ好きなのね」
フレノールがそう言った時、グロールの眉はピクっと動いた。
彼女は見逃さなかった。
「時間だ」
「そう、ね」
フレノールは扉を開けた。
「皆怒ってるかもね。荷物がまだ部屋にあるから、先に行くわよ」
フレノールはさっさと行ってしまい、グロールも荷物を持って部屋を出、扉を閉めた。
「驚いた。そこにいたのか」
グロールは実は驚いた風でもない様子で、柱の陰にいる、秋風に言葉をかけた。
「う、うん、皆待ってるわよ」
「待たせて済まなかった。さぁ、行こう」

広間に戻ると、フレノールも今ついた風だった。
「よし、皆揃ったなっ、船に乗り込むぞ、おー!」
張り切って最初に乗り込むプレーノに、皆は笑いながら続いた。
「秋男、秋風!」
振り返ると、花華が立っていた。
船に乗り込んですぐの事だ。
「お母さん!」
「皆さんと仲良くね。元気でね。早く、帰ってきてね」
「はい。行って来ます!!」
秋男と秋風の声が重なった。


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