SOLVE A RIDDLE〜双子の勇者たち〜

+グロール+

「お待ちなさい、プレーノさん」
立ち上がったプレーノを座らせ、ローズは続けた。
「空を飛ぶ道具は我が国にあります。私達は、あなた達の旅にご一緒する訳にはいきませんから、お渡しするために、 明日の朝、我が国まで一緒にお供していただけますか?」
「それはいいけど、操縦は誰もやった事ないぜ?」
プレーノがお手上げポーズを取る。
「空を飛ぶ道具の操縦は、マリネさんにお任せします」
「マリネ!?」
秋風が嬉しそうに叫んだ。
「マリネさんには伝書鳩でご連絡を差し上げました。明日の朝にはシャロット城へ到着されるはずです」
「あ、でも、どうして四つの塔に行く事になったの?姉さんの事はこれ以上調べられないって事?」
「いや、コルネさんは自然と姿を現すことになるだろう。敵と一緒にな」
秋男の問いに、グロールがさらっと言い放つと、周りの空気が一瞬凍りついた。
ローズもサンクスも、フレノールも同じ事を考えていた。
しかし、双子の前では言わないでおこうと決めていた。
それをグロールは言ってのけたのだ。
「どちらにせよ、今後も多かれ少なかれ、誰かが犠牲になるのは変わりない。さらわれるどころか、命を落とす事だってあるだろう。 しかし、例えこの先、何があってもお前は一人で乗り越えなければならない」
「そんな………」
戸惑う秋男に、言葉をかけてやれる者は、いない。
「仲間とは何か。秋男に宿題!強くなれ、なっ」
グロールは秋男をまるで自分の弟みたいに、頭をくしゃくしゃとやった。
勿論、弟でもなければ年下でもないのだが。

+++

暫く沈黙が続いていたが、二人のそんなやり取りを見て、少し安心した秋風がポンと手を叩いた。
「ねぇ、私達は幼い頃、ここで暮らしていたのよね?どうして、ここなの?お父さんがここで育ったの?」
「お父さんじゃなかったら?」
秋風の疑問に、グロールはちゃちゃを入れた。
「お父さんじゃなかったら、お母さん。ええっ、お母さん!?」
秋風は閃いた様に机をバンと叩いた。
ずるっ!
そんな秋風を見て、プレーノとグロールが椅子から落ちそうになった。
「秋男さんと秋風さんはここで、コルネさんの他に、本当のお母様と一緒にお過ごしになったのですよ」
「状況が把握しきれてないって顔してるな」
グロールがやれやれとため息をついた。
「じゃぁ、どうしてナムの村なんかに………?」
「あなた方が幼い頃、秋男さんが何者かによって狙われたのを、花華さんが庇われたのです。 危険を察したコルネさんがあなた達を連れてナムの村へ身を潜める事にしたのです」
「何故母さんは一緒じゃなかったの?何故僕達だけ?………意味がよく分からないんだけど」
「花華さんは、秋男さんを庇ったため、体が急激に衰え始めました」
「ドリーム・マスター」
グロールが呟やくと、フレノールが眉をひそめた。
しかし、そんな事は誰にも気づかれず、また、ローズも眉をひそめることなく、普通に話を進める。
「そう、そのドリーム・マスターは、例えば術者が十年と設定して術をかけると、かけられた者はその場で十年年を取るのです」
「何故そんな呪文が?」
「分かりません。もしかしたら、何か事情があって、秋男さんを成長させたかったのかも知れません。 そしてその呪いは花華さんにかかり、急激に年老いてしまった花華さんは、あなた方を守る事ができなくなったため、 やむなくコルネさんにあなた方を託したのです」
「じゃぁ、母さんは生きているの?」
「生きています」
秋男はホッと胸を撫で下ろした。
「ローズさん、母は今どこに?」
「会いたいですか?」
秋男と秋風は顔を見合わせた。
「勿論!」
そんな双子の様子を見て、ローズはにっこり微笑んだ。
サンクスが立ち上がり、部屋を出た。
ど、同時にグロールも席を立った。
「グロールどこに行くんだよ」
プレーノが慌てて呼び止める。
「こういうのは家族・・・・・・・・・」
振り返ってローズを見て言い直す。
「親族水入らずってね」
「なんだ、そういう事なら、俺らも席をはずそうぜ!!」
そう言ったプレーノに続いて、フレノールも退室する事にした。

グロール達と入れ違いに、サンクスが一人の女性を連れて入ってきた。
女性は部屋に入る瞬間にビクっと体を振るわせた。
「秋男さん、秋風さん、あなた方のお母さんです」
ローズは立ち上がり、双子に花華を紹介した。
秋男と秋風は半ば混乱しながら、目の前の女性を見つめた。
「本当に母さんなの?」
「秋男、秋風、大きくなりましたね」
「お、母さんっ!」
秋風は戸惑いながらも、目の前にいる女性を呼んでみた。
「抱かせてもらってもいいのかしら?」
花華がそう言うと、秋風の方から彼女の胸に飛び込んだ。
「お母さん、お母さんっ!!」
「もう一度この腕で、あなた達を抱けるとは思っていませんでした」
花華は秋男の肩もそっと抱き寄せた。
三人は暫く抱き合い、気持ちを落ち着かせた。

「あなた方二人に言っておきたい事があります」
ローズは、花華達に席に座るように促した。
全員が落ち着いたのを確認し、サンクスが口を開いた。
「私達がこのグリーン・タウンで秋男さん達を襲った事を覚えていますね?」
秋男と秋風は頷いた。
「実は花華さんの能力で、邪悪な気配を感じたので、試させて頂いたのです」
「それって、僕が邪気を持ってるって事?」
「秋男さんではなく、別の誰かです」
双子はお互いに顔を見合わせた。
「この島には僅かな結界が張られています。十五年前、花華さんや秋男さんを襲った邪気が再び訪れることの無い様、 張られた結界なのですが、結界と気づいた途端、邪気を消した侵入者がいたと言う事です」
「それって、お兄ちゃんを狙った何者かが、既にこの島に侵入しているって事なの?」
「そうです。それも、秋男さんと一緒に、です」
秋男の背中がぞくっとした。
「例えば秋風に乗り移ってるとか考えられるわけだ?」
「そうです」
「やだ、お兄ちゃんってばっ!!」
秋風が自分で両肩を抱いた。
「あるいは、仲間の誰かが過去に襲ったという事です」
「それは無理だろう?年齢からして15年前って言うと、皆赤ん坊だからなっ」
「それで邪気を持つ人は分かったの?」
秋男と秋風の質問がほぼ同時にかぶった。
「花華さん、何かお分かりになりましたか?」
ローズが花華を指名すると、皆の視線は花華に注がれた。
「はい。この部屋に入る時にすれ違った、背の高い男性」
秋男の背中が再びぞくっとした。
背の高い男性と言うと、グロールだ。
そう言えば、剣術を習った時も、この島に着いた時もおかしな事を言っていた。
“剣術も、戦術も、お前の父より上だ”
“秋男、出生の秘密”
「まさか」
口に出して言ってみたものの、心当たりがある。
「ありまくりだ」
「秋男さん?何か気づいた事がおありですか?」
ローズが小首をかしげる。
「あ、すみません」
秋男は小さくなり、黙った。

まさか、まさかまさか!!

一番年が近くて、最近では何でも話せる仲になったと言うのに。
グロールが僕の命を狙っている?
近づいて、仲良くなって、殺そうと言うのか?
そんな!!

「背の高いほうと言うと、グロールさんの事ですわね」
「!!でも、グロールは悪い人には見えないわ」
グロールの名前を出された途端、秋風は思わず叫んだ。
「秋風、落ち着け」
秋男は、自分にも言い聞かせるように、秋風をなだめた。
「確か、身寄りが無くて老夫婦に育ててもらったと仰ってましたね。異常なまでの知識。ドリーム・マスターの事もご存知でした」
とサンクス。
ドリーム・マスターの事は、魔族の間か古文書を読んだ者しか知らないはずである。
魔法使いなど、専門書を必要とする職業の者ならともかく、肉体派の戦士が知っているなんて。
いや、知っている事はおかしくないが、極、稀。珍しい。
「でも、コル姉と一緒にいて狙われた時、コル姉はビークって言ってたわ。グロールじゃないわ」
信じたくない。
「それは」
「それに、命まで狙っていると思えない。命を狙っているとしたらさっきのローズさんの探りの時点で、 お兄ちゃんを殺してたかも知れないじゃない!?濃霧で分からなかったとか、何とでも言えるのだから」
秋風は必死に弁護した。
お兄ちゃんの成長を誰よりも願っているグロール。
それに、最近恋心さえ芽生えた。
「その通りです。だから霧の中で試させて頂いたのです。秋男さんの命を狙う者がいるのかどうか。それに、グロールさんはマリネさんの国から紹介された方ですから、
マリネさんとの面識もありますわ。グロールさんを信じましょう」
ローズは優しく言い放ち、花華に目をやった。
「花華さん、明日になればマリネさんが秋男さん達の旅にご一緒なさいます。恐らく一番頼りになる腕をお持ちでしょう」
「ローズさんがそう仰るのでしたら。二人をよろしくお願いします」
「そう、伝えておきますわ」



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