SOLVE A RIDDLE〜双子の勇者たち〜

+ローズ+

「やってるやってる」
秋風は給湯室の小窓から甲板を見た。
お湯を沸かし、今日も頑張る二人のために、濡れタオルを作っていた。
「お兄ちゃん思いだなっ、それに比べてこいつは」
プレーノはフレノールの背中をドンと突いた。
「った!!あのね兄貴は練習も何にもしていないでしょ?少しは秋男くんを見習ったら?」
「へいへい」
「そろそろ終わる頃ね」
兄妹喧嘩(?)を見ながら、秋風は給湯室を出た。
剣術の邪魔にならないように、そっとタオルを置き、さっさと給湯室へ戻った。
戻るとプレーノの姿は無かった。

あの後、船でさらに二日かかった。
秋男はその間、ずっとグロールに剣術を教わっていた。
「やっぱり上達早いな。あちち、気持ちいい〜〜っ!!」
グロールが濡れタオルで汗を拭きながら腰を下ろす。
「父が戦士だったらしい」
「いや、………剣術も、戦術も、お前の父より上だ」
秋男も同じように腰を下ろそうとして、グロールを見た。
「え?」
今、何て・・・・・・・・・?
「………勘、だけどな」
「なーんだ。びっくりしたー。一瞬、父さんと会った事があるのかと思った」
「はははっ」
グロールは秋男と同じ年だった。
父、グロルフは秋男が二歳の時に、戦争で亡くなっている。
会った事は無いはずだ。
「おーい、島が見えるぞー!!」
「プレーノの声だ!」
秋男は、嬉しそうに立ち上がると、甲板へ上がった。
「わぁー綺麗!!」
そこには、一面、美しい木々に覆われた小さな島だった。
秋風が目を輝かせていると、ふと背後にグロールがついた。
「ん?」
一瞬、目を合わせ、お互いに微笑んだ。
秋男とグロールが親しくなってから、秋風とグロールの見えない距離もまた、縮まっていた。

一行は船をつけると直ぐに岸へ上がった。
「人は住んでいるのかしら?」
「誰かが歩くから、道が出来るんだよ。とりあえず道を辿って行こう」
見ると木々の間にすーっと一筋の道が出来ていた。
プレーノが秋風に答え、先頭に立って歩き出した。
グロールは列の一番後ろについた。
「この島に何があるのかしら?」
秋風の質問にフレノールは首を横に振る。
「さぁ、それは私にも分からないわ」
「秋男、出生の秘密」
「え?」
「ってか?」
全員から一斉に注目を浴びたグロールは、小さくおどけて見せ、周りにため息をつかせた。
「っれにしてもさぁー、木以外は何にも見えないぜ?」
プレーノは枝を払いながら、どんどん先に進んだ。
と、その時である。
木々が揺れた。
「!?」
たちまち、辺りは濃厚な霧に包まれた。
仲間の顔でさえ、見えなくなってしまったのだ。
「霧?気をつけろ、何かいそうだ」
プレーノは秋風を守るように立った。
グロールが秋男の背後に背中をつけた。
「秋男、やれるな?」
「うん………」
あれから船の上で何度も戦ったから、もう大丈夫。
「足手まといになんかならない」
秋男は呟き、身構えた。
ガサガサと木が鳴る。
「覚悟!!」
頭上から声が聞こえたかと思うと、二人の人影が秋男の前に立ちはだかった。
「えっ!?」
一瞬の出来事だった。
「秋男さんですね、お命頂戴します!!」
「女?」
一人は女のようだ。
懐に入られ、秋男は驚いてしりもちをつく。
逃げるのがやっとだ。
「秋男くん、援護するわ!」
フレノールが駆けつけると、なんと護る立場のグロールが、フレノールの腕を掴んだ。
「え、グロール?………何なの!?」
「面白そうだ。見学しよう」
フレノールはグロールを見た。
いつもの彼とは違い、冷酷な目をし、口元を愉快そうに歪めていた。
「え?どうして………!?」
「うわぁっ!」
秋男が躓き、転がった。
「覚悟!!」
秋男に振り下ろされた短剣が、彼の頬をかすめた。
「ああっ!」
「秋男くん!」
フレノールとプレーノが駆け寄ろうとすると、何かの力によって動きが封じられた。
「はっ、一体何が!?」
「秋風、逃げろっ!」
プレーノが必死で叫ぶ。
「お兄ちゃん、みんなどうしたのっ!?」
秋風も駆け寄ろうとすると、何者かに立ちふさがれた。
「え?」
「秋風さんは私が相手ですよ!」
もう一人は男のようだ。
「何故私達の名前を?それに、あなたは誰なの?」
相手の顔が見えない。
男だと言う事は分かるが、一体どうなっているんだ?
「正体不明な相手をしているのに、余裕ですね」
男は小さな稲妻を作り、秋風の腹に当てた。
「うっ!」
瞬間、秋風は気を失って倒れた。
「秋風!?」
プレーノが心配して叫ぶ。
「これ程度ですか………」
男は秋風を肩に担ぐ。
秋風はぐったりしたまま、目を開けない。
「てめー、秋風に何をっ!!」
プレーノ達の身が軽くなった途端、プレーノは男の胸倉を掴んでいた。

濃厚な霧が晴れ、相手の顔がくっきり見えた。
一人はまだあどけない少女。
年齢はマリネと同じくらい。
栗色の髪。セミロング。綺麗な内巻き。
もう一人の男性は、プレーノよりもずっと年上っぽい。
二人とも、落ち着いた気品を漂わせている。
「さて、人質を取られました。秋風さんを返して欲しいですか?」
「ったりめーだろっ、秋風を離せ!」
プレーノの右手から氷の槍が現れ、男に向かって振り上げられた。
しかし、それは男の体には当たらなかった。
何かによって弾かれたのだ。
「バリア、いつの間に!?」
「秋風を、どうするつもりだ?」
秋男が牙を向ける。
「さぁ、どうしましょう?」
「秋風さんを取り戻したいなら、ついて来なさい」
秋男とプレーノは顔を見合わせた。
「あの人たち“秋男さん”“秋風さん”って言ったわ」
フレノールが呟くと、グロールが薄く笑った。
「秋男、行ってみよう、悪い奴ではなさそうだ」
「お前の腕を信じていいのやら」
秋男は呟いた。

+++

門をくぐると、そこにはまた小さな森があった。
秋風を抱えた男を先頭に、少女、プレーノ、秋男、フレノール、最後にグロールと続いた。
「てめー、いつまで秋風を抱いてやがる」
「おや、秋風さんに惚れているのですか?クスクス………」
男にあしらわれ、プレーノは黙ってしまった。
「こちらです」
促された先に大きな屋敷がある。
「ここは?」
秋男が目を見張る。
どことなく、懐かしい景色。
懐かしい、コルネの匂い。
少女は振り返り、「あなた方の故郷です」と言った。
「え!?」
屋敷の中に入り、大きな広間に通された。
「どうぞ、座りなさい」
少女はぴしゃりと言い放ち、全員は言われるがままになった。
気を取り戻した秋風は、男の肩から降ろされる。
「秋風、大丈夫か?おい!!」
駆け寄るプレーノを片手で制して、男は静かに問うた。
「秋風さん、大丈夫ですか?」
「・・・・・・・・・」
秋風は無言で頷いたが、まだボーっとしている様子だ。
目の前にいるのがさっきまで戦っていた相手だとは思ってない様だ。
「まず、お前達から名乗るんだな」
プレーノはムスっとして、再び椅子に腰掛けた。
「このお方は、ローズ・ド・シャロット様」
男が少女を紹介した。
「ローズ・ド・シャロット。大層な名前だこと」
プレーノは踏ん反り返り大声を上げたが、直ぐに黙り込み、眉をしかめた。
「シャロットってぇ、あのシャロットぉー!?」
プレーノは椅子から落ちそうになった。
「え、何?」
秋男が尋ねると、フレノールが小声で説明した。
「シャロット城よ、世界一大きい大陸を持つ国よ」
「へぇ………」
秋男は、何が凄いのか全く分からない様子だった。
「ローズ様は第一王女です」
「秋男さん、先ほどは失礼な事をしましたね」
「はぁ………」
返事のしようがない。
「あなた方のお父様は、わたくしの兄。つまり、わたくしは、あなた方の叔母にあたります」
「叔母さんだって!?」
「彼はサンクス。わたくしを守っていただいております」
「成る程。秋男を守るために城から出てきたと。さっきのアレは調べだな?」
黙って聞いていたグロールが、ぶっきらぼうに口を開くと、ローズの視線はグロールに注がれた。
「あなた、お名前は?」
グロールは暫く黙り込んで椅子から降り、やがてローズの元へ歩み寄った。
ローズは黙って立ち上がり、グロールを見た。
グロールはひざまづき、頭を垂れた。
「面をあげなさい」
ローズがそう言うと、グロールは顔を上げ、ひざまづいたままローズに挨拶をした。
「私はグロール。スリー・ベリー・タウンの外れ、身寄のない私に、老夫婦から授かった名にございます」
「………!?」
初めて聞かされ、仲間達は心の中で戸惑った。
「そうですか。武術に覚えがある、だけではないようですね」
「お互い様でございます」
二人は目を合わせ笑った。
「!?」
目を丸くする秋男達を余所にローズはどこか楽しそうだ。
「グロールさん、秋男さんを宜しく頼みましたよ」
「はい、仰せのままに」
グロールはもう一度深く頭を垂れ、元の席に戻った。
その後、ローズの希望で、フレノール達も簡単な自己紹介をした。
マリネに会った事や道中の出来事も、彼女に質問され、秋男やプレーノがポツポツと答えた。
「皆さんの事は分かりました。兄と共に雄志を抱いた戦士達のお導きなのかも知れませんね」
「あの、お姫様・・・・・・・・・」
「ローズと、お呼びなさい」
秋男の言葉を制し、ぴしゃりと放った。
これが姫、というものなのか。
それにしてはマリネとはまた違う雰囲気がある。
マリネはどちらかと言うと庶民的で、もっと身近に感じる。
でも、ローズは威厳こそあるが、強い感じはしない。
口調はあくまでも優しくソフトなのだ。
「じゃぁ、ローズ、さん。質問、よろしいですか?」
秋男は緊張してか、敬語と普通の言葉をちゃんぽんで使った。
勿論、無意識だ。
「僕達の故郷ってどういう事、ですか?」
秋男の言葉に秋風がびっくりし、彼女が気を失っていた時の事をフレノールが耳打ちで説明した。
「あなた方は十五年前までは確かにここで暮らしていたのです。花華(はな)さんとコルネさんとあなた方二人」
「コル姉を知ってるの?」
「会った事は一度もありません。しかし、コルネさんは大変優れた賢者で、兄の右腕にあたる人物だと伺っております」
「コル姉がそれだけ強いなら、きっと無事よね?」
秋風は元気を取り戻したようだった。
秋男がビークに襲われた事、双子を庇ったコルネの事を、双子は説明した。
「そんな事があったのですか。でも、コルネさんならきっと大丈夫でしょう。問題はあなた方です」
「えっ?」
「これだけ仲間がいながら、秋風さんはあっさり私達に捕まってしまった」
「それはっ」
フレノールの言葉を制し、ローズは続けた。
「どんな理由があったにせよ、負けた事には変わりありません」
「はい」
「秋男さん、また敵が襲ってきたらどうするのですか?また、コルネさんの時と同じように、他の方に戦いを預けるのでしょうか」
「そ、そんな事考えてないっ!」
どうしてだろう?何もかも敵わない気がする。
「それだけ、平和だったという事ですね」
ローズは少し考え、改めて姿勢を凛と正した。
「敵はいつ来るか分かりません。私達も明日生きているか分からないのです。 秋男さんを護るだけでなく、コルネさんの行方を捜すためにも、学ばねばならない事が沢山あります」
秋男を初め、皆は黙って頷くしかなかった。
「従って、私も旅の仲間として、力になりましょう」
「ローズ様!?」
一番驚いたのはサンクスだった。
「とは言え、私が旅に出るとなると、お父様が何と仰るでしょう」
「そうですよ!秋男さんをお守りするためとは言え、きっとお許しになりませんっ」
「ですから、空を飛ぶ道具をお貸ししましょう」
ローズはサンクスの言葉を遮った。
「え?」
サンクスは豆鉄砲を食らった様な顔をした。
「既にフレノールさんが、お話しになりました様に、この世は四つの世界から成り立っています。 我が国では学者が常に研究を重ねており、先日、新たな事実が判明したのです」
「新たな事実?」
興味なさそうにしていたグロールが復唱した。
「ローズ様に代わり、ご説明します」

サンクスは地図を広げた。
「これが、この地上の地図です。私達が今居るここ、グリーン・タウンは中央からやや南西の大きな大陸に寄り添うようにある、小さな島にあります」
「じゃぁ、俺達が通ってきた町や城も教えてくれよ」
プレーノが割って入る。
「まず、皆さんが知り合われたジオラマ城は、このグリーン・タウンから直ぐ北のジオラマ大陸の東側にあります。
秋男さん達のナムの村は、グリーンタウンから まっすぐ東の孤島………ここです 」
「俺たちのラムルの村は?」
「プレノさんのラムルの村は、ナムの村からすぐ北の、この大陸です。昔は陸続きになっていたらしいです。そして、グロールさんのスリーベリータウンは………」
「グリーン・タウンの北」
「そうです。ジオラマ大陸の中心にある小島です。グロールさんも地図が読めるのですね」
「まぁ、な。それで?新たな事実って」
「この地図に散らばった四つの点、学者がつけた物ですが、ここに何かがあると言われています」
「何かって?」
「我が国の軍の調べでは塔があるそうです。しかし相当、武術に長けていないと、近づく事が出来ないそうです」
答えたローズの言葉に、
「戦争を抑える鍵の様な物が隠されているのではないでしょうか」
と、サンクスが付け足した。
「根拠は?」
「ありません」
サンクスはきっぱり言い放った。
「ただ、古からの存在にもかかわらず、発見がつい最近という。私には、空からしか行けないという事が気に掛かります」
「成る程。誰も行く事が出来ない場所だからこそ」
「そうです。皆さんなら調べる事が出来るのではないでしょうか」
「成る程ねー」
プレーノが背伸びをする様な格好で、両腕を上げた。
「でも、俺達に関係するのかどうか分からないんだろ?行く価値あんのか?フレノール?」
「行く価値はあると思うわ。何が隠されているのかは分からないのだけど」
プレーノが不満げにため息をついた。
「よし!空から探りを入れっか!!」
プレーノは立ち上がった。


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