SOLVE A RIDDLE〜双子の勇者たち〜

+コルネ+

カレナ………
お前だけは許さない………。

ナムという小さな村は、まるで発展を恐れ、隠れるようにひっそりとしていた。
だが、子供の頃から暮らして来た双子にとっては、死んだ父からの遺産であり、気に入った村だった。
兄の秋男(あきお)は気が優しいが、優柔不断なところがある。時々ボーとしているが、思いやりと責任感のある、少年だ。
妹の秋風(あるか)はしっかり者。兄をサポートするが、時々余計な事をして兄に叱られ、口喧嘩になる。
口喧嘩になれば、妹の方が強く、勝ってしまう。
そんな双子を優しく見守る母はいない。
母、花華(はな)は双子が幼い頃に死んだと聞かされていた。
そう、双子に生きた両親はいないのだ。
だが、育ての母はいる。
名はコルネ。
栗色の髪、艶やかな唇。
双子の育ての母にしては若すぎる、二四歳だ。
実の兄弟でもないコルネが、何故、自分達を育ててくれているのかを、双子は聞いたことが無かった。

秋男はいつものように洞窟の中に上がった難破船に入り、探検をしていた。
最近見つけた船で、秋男の秘密の遊び場だ。
コルネから何度も、行くなと注意されるが、構いやしない。
この村には、難破船ぐらいしか、遊び場がないのだから。
「ひゃーすげー」
落ちている道具を拾い上げる。
「腕輪?」
金ぴかのそれは、輪っかになっていて、厚みがある。
「まだ使えるのに」
秋男はそれを道具袋へ片付けた。

「待ってよ!お兄ちゃん」
秋風は先を急ぐ兄の後ろを追う。
秋男はどこか楽しげで、踊るように走り出す。
花屋の隣、パン屋の角を北に折れると双子の家がある。
秋男は秋風と合流し、その家から更に北へ走った。
「姉さーん」
小さな丘があり、コルネはそこで薬草を摘んでいた。
「どうしたの?二人とも」
コルネはいつもと変わらぬ様子で、双子を見つめる。
秋男は、その瞳にドキッとして、秋風の肘を突付いた。
「コル姉(ねえ)、二四歳の誕生日おめでとう!」
秋風が花束を差し出す。
「………年は余分だわ」
コルネは、少し拗ねたような目で秋風を見つめ、クスリと笑った。
そして、花束に顔を埋める。
「いい匂い。ありがとう」
「姉さん、僕からも………」
秋男は、光る腕輪を差し出した。
コルネが腕輪を腕に通すと、吸い付くようにぴったりとはまった。
「二人とも………高かったでしょう?」
「ううん、私はお手伝いをして、分けてもらったの」
「秋男くんは?」
「ぼ、僕は………」
あれ程行くなと言われた難破船から取ってきたなんて………。
言えない!
コルネは秋男の目を見つめ、クスリと笑った。
「ガドールの腕輪ね。古より伝わる防具のひとつよ」
コルネは腕輪を秋男に見せる。
「え?」
「また難破船ね。危ないって言ってるのに………」
「あ、あははははは」
すっかり見透かされている事に、恥じらいを覚えた。
しかし、そんな秋男を余所に、コルネは心から喜んでいるようだった。
「ふたりとも、ありがとう!」
と、コルネが二人を抱きしめようとした時!
三人に向かって火の矢が降ってきた。
「きゃぁぁぁ!」
「秋風!?」
突然降った矢で、秋風の腕が火に染まったのだ。
秋男が、布で叩き、火をもみ消す。
コルネが双子を庇うように立ち上がり、辺りを見渡す。
丘は見る見るうちに火の色に染まっていった。
「ここは危ないわ、家へ向かって走って!」
コルネが今まで見せたことのない表情に変わり、双子はドキッとする。
「早く!」
秋風はコルネと秋男に半ば守られるようにして走る。
火の矢がどんどん降ってくる。
「花屋よ!角を曲がれば………!!」
秋風が叫ぶ。
しかし、花屋の角を曲がるなり秋男が悲鳴を上げる。
「なんだよ、これ!」
三人が住んでいた家が、真っ赤な炎に包まれていた。
しかし、火はまだ点いたばかりだ。
「なんとかなるかも!」
火を消そうと上着を脱いだ。
「早く入りなさい!秋男君、さぁ秋風も!」
コルネは双子を家に押し入れ、外を振り返る。
「姉さんが行くなら、僕も行く!」
秋男がコルネを押しのけ、外に出ようとした。
が、しかし、それはコルネの強い力によって、叶わなかった。
「駄目よ!」
コルネの目が鋭く光る。
「秋男は地下室に逃げるのよ」
「なんでだよ、じゃぁ、姉さんも一緒に逃げよう!」
「駄目君、あいつらは人間じゃないのよ。秋男の命を狙っている魔族なの」
「はぁ?」
秋男は、突然言われた言葉が飲み込めずにいた。
「魔族?僕を狙ってる?なんでさ」
コルネは視線をそらせた。
「それに、どうしてそんな事が姉さんに分かるの?」
家に火をつけられたせいか、辺りが赤く染まり、三人の額に汗が流れてきた。
「説明している時間がないわ。ここはもうおしまいね」
コルネは双子を抱きしめた。
「私は殺されたりしないわ。だから地下室へ行って!」
「まだここにいるぞ」
何者かの声が聞こえる。
「危ない!」
窓が割れ、火の海が迫ってくる。
「姉さん!くそう!」
秋男が部屋の隅に転がっている銅の剣を掴んだ。
その時。
パーンと頬に何かがぶつかった。
「何度言わせるの!秋男君。あなただけは逃げなきゃ駄目なのよ!」
コルネの瞳に光るものがあった。
そして、秋風に向き直る。
「秋風、説明している暇はないの。あなたなら、分かってくれるわよね?」
秋風は半泣きになりながら、コルネの目を見つめた。
コルネの瞳が悲しく揺れる。

何があったの?

どうして一緒に居られないの?

秋風の頭の中で問いかけては消える。
秋風は涙をこらえて、コルネを見た。
そして、どちらともなく、お互いがうなづいた。
「秋男くんを絶対守ってね。さぁ、地下へ!」
秋風は兄の腕を掴んだ。
「秋風!お前まで!」
秋風は涙を流しながら、必死に兄を引っ張った。
その背中にコルネは言葉を投げる。
「秋風、あなた達のお父さんと一緒に戦った英雄の子供を捜すのよ!」
コルネが火の矢が飛ぶ元へと向かっていく。
「いやー!コル姉ー!」
秋風が叫ぶ。
だが、その言葉は火の海にかき消された。

「貴様、カレナをどこへやった!」
頭上から声がした。
「ビーク………!」
コルネは悲しくなる。
宙に浮いた、その不思議な人物はビークと言った。
ビークの姿はどこか秋男に似ていた。
「どこから逃がした?」
「………久しいわね、ビーク」
コルネは搾り出すような声で、相手の名前を呼ぶ。
「何年ぶり、いや、何百年ぶりかしらね」
「誤魔化すな」
「あの子をどうするつもり?」
「さぁね。渡すだけでいいんだ。貴様は知らなくていい」
「貴様………ね」
コルネは含み笑い、そして目を閉じた。
体の中心から白いオーラがあふれ出す。
コルネの右手に杖が現れ、コルネはその杖を強く握り、ビークを睨みつけた。
「あなたは私の手で殺してあげるわ!」
「面白い!」
火の海の中、空中で悲しい闘いが始まった。


秋風は歯を食いしばり、秋男の腕を引っ張る。
「秋風、何か知ってるのか?」
「知らないわよ。何も知らない。でも………」
地下に降りる。
扉を閉めると、ひんやりと気持ちがよかった。
「でも、コル姉の言う事は、いつも正しい。それだけ………」
秋風は、そう言うと何かを探し始めた。
「何?」
「コル姉が地下へ行けって言ったわ」
「うん」
「地上は火の海、お兄ちゃんは生きなければならない」
「うん?」
「気づかない?地下にずっといれば、このまま私たちは死んでしまうわ」
「あ………」
「そう、地下に何かあるのよ」
秋風は、そう言いながら『何か』を探す。
「何だろう………きっと呪文の書物とかが、どこあにあるのよ」
二人は書棚を懸命に探った。
秋男がふと手にした書物に目を落とした。
「秋風、これ………この本………」
秋風が覗き込んだ瞬間、秋風の周りが光りだした。
「秋風?」
秋風の目に光が無くなり、左腕に何かのマークが浮かび上がる。
「秋風………!?」
秋男は手にした書物を小脇に抱えたまま、秋風の体を揺すってみた。
秋風は秋男に気づかないらしい。
目の焦点が合わない様子で、何かを呟いている。
「一体どうしたんだよ、秋風?」
ふわっと二人の体が軽くなり、次の瞬間。
「わぁぁぁ!」
秋男は悲鳴を上げた。
二人はそのまま気を失った。


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