プロローグ
柔らかな日差しが薄いカーテンを通して、小さな部屋に注ぎ込む。
女神の形をした像が飾られ、毎日丁寧に手入れをされているせいか、古くなっているはずのその白い像は、自らの輝きを失ってはいなかった。
その像に守られるようにして一人の少年が深い眠りについていた。
もう、十六歳になるというその少年は、一年も眠りから覚めない。
十六になれば、国のために魔王を倒すと、そう子供の頃から聞かせて来た。
亡き父、オルテガの夢を継いで、戦に送り出すのだと、私が決めた………。
女は小さくため息をつく。そして少年の手を握ってみる。
暖かい手が少し、動く。
女………その少年の母、ルシアは、希望を捨ててはいなかった。
一年も眠っているのに、この子はまだ、生きている。
その生命力もまた、期待された我が子。
でも、明日、この子が目覚めなければ、この国は終る。
希望の星は、存在しないことになる。
女は毎日、清潔な布で女神の像を清め、白く細い指を組む。その横顔は、どこか淋しげだが、何かを強く信じた眼差しでもあった。
「オルテガ、明日、この子はあなたの夢を継いで、旅に出ることになるでしょう。周りから救い主と崇められ、あの子の負担になっていないか心配です。あなた、どうか、あの子を見守っていて」
目覚めて欲しい、いや、目覚めて欲しくない。
ルシアは複雑な気持ちを抱きながら、我が子を見守っていた。
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