第十一章  願い

 

勇気達は、オルテガをラダトーム城下町の空き家に寝かせた。

誰にも見つからないように、毛布を掛ける。

ラダトーム王に呼ばれた一行は、列を成して城の門をくぐる。

人々は喜びに満ち、歓声を上げる。

小さな子供が『ゆうしゃさま ありがとう』と、母から口伝えに伝え、花の首飾りを差し出した。

勇気は鷹哉に茶化されながら、膝を付き、頭を垂れた。

歩く度に、体をベタベタと触られ、酒を吹きかけられたりもした。

城へ着くとラダトーム王が迎える。

「しずまれ、皆の者」

王が片手を挙げると、歓声はぴたりと止まった。

「よくやってくれた、勇者、勇気よ!」

「ぷっ、勇者勇気よ」

「しっ!」

鷹哉が小さく笑い、勇気は肘で突付いて止めた。

「そして、その仲間たちよ、知らせを受け、そなたらの帰りを待ちかねていたのじゃ」

王様の言葉に、勇気・鷹哉・和歌奈が顔を見合わせ、目で笑った。

ゲームと全くの同じ言葉。

「よくぞ魔王を倒した」

鷹哉がラダトーム王に合わせてセリフを重ねて声に出す。

「そしてよくぞ無事に戻った。心から礼をいうぞ」

何度も遊んだゲームだもの、これくらいのセリフ………。

勇気、和歌奈も鷹哉に習った。

王様と共に、三人の声が重なる。

「この国に朝が来たのも全てはそなたのお陰じゃ」

そして子供たちの声は次第に大きくなり、ラダトーム王の言葉より大きく、早くなる。

「大魔王が滅びたためか、別の世界に通じていた穴はとじてしまったようじゃが」

三人の声に気付き、ラダトーム王は、ちょっと考えて黙り込む。

「ここ、アレフガルドも光ある一つの世界として歩み始めるであろう。全てはそなたらのお陰………」

これから言う言葉を先に取られた王が、思わず笑い出した。

「気に入ったぞ、そなたにこの国に伝わる真の勇者の証、ロトの称号を与えよう!」

歓声が上がる。

「勇気、いや、ロトよ。これからはラダトーム王として」

「お言葉ですが王様!僕には」

勇気はCDシアターで覚えた断りの言葉を出してしまった。

勿論、無意識で。

「ふむ、ではロトよ、帰る場所が無い今、どこへ行こうとする」

王様が言う『帰る場所』とはアリアハンの事!

だけど………。

「はい、僕達が行く場所はたった一つしかありません。それは僕達を待つ、両親や友達のところです」

そう、現実の世界の父さんは生きている。

母さんだって、きっと心配している。

「じゃが、そなたらの世界は………」

ラダトーム王は、勇気達を見つめた。

誰一人、自分の世界へ帰れなくなった事など、気にしていないのか?

それとも、帰れると確信があるのか?

「あい分かった。何も言うまい」

ラダトーム王は立ち上った。

「勇者ロトよ、そなたの働きは永遠に語り継がれるであろう」

 

それぞれの物語があった。

世界を回った。

いろんな人が居た。

いろんな人を助けた。

いろんな人に助けられた。

オルテガを知る者、知らぬ者。

それらが全ての人々の心に残る。

勇気は両の手のひらを見た。

まめが潰れて赤くなっている。

剣を持ったことは無かった。

盾も、兜も、鎧も、初めて感じた『重み』。

心に残る限り、語り告がれるだろう。

永遠に・・・・・・・・・。

そしてそれは伝説へと変わる。

 

・・・・・・・・・そして伝説へ ・ ・ ・ ・・・・・・・・・

 

勇気は小さくつぶやいた。

ラダトーム王は両手を挙げる。

「勇者ロトに栄光あれ!」

「栄光あれ!」

わーっと歓声が巻き起こる。

国民は皆、祝杯をあげていた。

そんな中を誘われ、勇気達は少し歩いた。

「山本君、終わったね」

「うん。凄く怖かったけど、楽しかったよ。ドラクエって面白いんだね」

「言ったでしょ」

和歌奈はブイサインをする。

が、その指が一瞬消える。

「!?」

「何だ?俺達の体が光りだした」

鷹哉が悲鳴を上げる。

「そうか、帰れるんだ!」

雅之が嬉しそうに飛び上がる。

「マジ?」

だが、雅之の表情とは逆に、鷹哉の顔が曇りだした。

「待って!まだ神龍に!」

和歌奈も叫ぶ。

そうだ、神龍にオルテガを生き返らせてもらうんだ。

「駄目だ、体が透き通っていく!」

雅之が自分の体を抱きしめる。

「くっ!間に合って!!ルーラ!」

とっさの出来事だった。

和歌奈はゲームで見た神龍の神殿を思い描き、勇気達を連れて、瞬間移動を試みた。

「うわっ!」

がくんと体が振るえ、雅之がしりもちをつく。

そこは、勇気達には見慣れた神龍の神殿だった。

「神龍!」

鷹哉は勇気の手を引き、神龍の元へ走る。

勇気は鷹哉につられて、少し早く走る事が出来た。

「神龍、お願いだ、父さんを!」

「願いを」

神龍は願い事を促した。

「やり!勇気」

鷹哉がドンと勇気の背中を叩いた。

「う、うん」

「但し、願いを叶えられるのは、この世界に留まる者のみ」

勇気達はハッとなって、顔を見合わせた。

「元の世界へ帰れなくても良いか」

「そんな!」

和歌奈が声を上げる。

「二度と元の世界へ帰れないの?」

ここで言うもとの世界とは、現実の世界。

これが終わったら、帰れると思っていた。

和歌奈と雅之は顔を見合わせた。

「みんな」

勇気が皆に、呼びかける。

オルテガのためなら、僕は残るよ。

でも、霧島と山本は

「いいよ」

ふと、雅之の声がした。

「私も」

声のするほうを見る。

霧島、山本?

「願ったりだ」

そして鷹哉・・・・・・・・・。

「皆・・・・・・・・・ありがとう」

勇気はそう言い、神龍へ向き直る。

「神龍、オルテガを」

「待ちやがれ」

え?

「カンダタ?」

四人は一斉に振り向いた。

そこには紛れもなく、カンダタの姿が!

「どうしてここに?」

「ルーラで勝手に連れてきておいて、よく言うぜ」

「あ」

和歌奈は夢中で気付かなかったが、どうやらカンダタまで一緒に連れてきたらしかった。

「オルテガ殿を生き返らせて欲しい。だが、それはこの俺様の願いだ。勇気達は下の世界へ戻してやってくれ」

「カンダタ!俺は元の世界に帰りたくない」

「鷹哉!」

カンダタは振り返る。

「どんな事にも背を向けるんじゃねぇ。この戦いで経験したはずだ。それに、仲間の気持ちも考えろ」

「でも、カンダタ一人でかなう相手ではない!」

「ふん、男を立ててくれや、鷹哉さんよ?」

「ごめん」

「神龍、いいな?」

神龍は頷く代わりに大きく伸びた。

「用意はいいか」

「いつでも掛かって来い!」

いつの間にか勇気達の姿は見えなくなっていた。

 

 

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