第八章 バラモス城

 

「すっげー!」

「いーやほう〜!」

勇気達はラーミアを甦らせ、竜の女王の城へ向かっていた。

憧れた世界で、これもまた憧れた乗り物だった。

ラーミアの卵は見上げるほどに大きかった。

オーブを祭壇に預け、妖精たちの儀式に従う。

ラーミアが孵るのに、そう時間は掛からなかった。

ラーミアは、大きな卵の殻を破り、勇気達の目の前で甦った。

勇気達は大はしゃぎ。

早速背中に乗ったのだが………。

「ちょっと、この鳥の大きさ、高度とスピード!怖くないの?」

約一名、そうでない者がいた。

「そう?」

「ずっと乗ってみたかったんだ」

「僕も」

二人がラーミアの背中を撫でる。

「山本、しがみついてないで、もっと周りを見てみろよ。ほら、海だ!」

「ラーミアの影が映ってる」

鷹哉もそう言ってはしゃぐ。

「う、うん」

雅之は二人が促すので、しぶしぶ顔を上げる。

勇気が指す方向には、海が見えた。

大きく広い海。

「わぁ。綺麗!」

「だろ?何でも楽しまなきゃ損だろ」

特に高所恐怖症ではなかった雅之は、ラーミアの背中に慣れ、少し余裕が出てきたようだった。

ラーミアの背中に顔をうずめ、嬉しそうにはしゃいだ。

こうして三人は竜の女王の城へ行き、光のオーブを入手した。

 

「うわぁ〜。広―い。凄いね。立派だね」

雅之は、あたりをベタベタと触って歩く。

冷たい宝石や石が埋まった、その壁は、角度を変えると、人間の骸骨の形にも見える。

だが、雅之は気付くはずもなく、一人はしゃぎまわった。

「山本、何ずれた事言ってるんだ。ここはバラモス城だぞ」

たまりかねて鷹哉が注意する。

「分かってるよ。だって、さっき、何でも楽しまなくちゃって、言ってただろ?」

そういう問題じゃないぞ、山本。

山本の甲高い声でモンスターが来たらどうするんだ。

「んー、それなりに楽しんでるけど、今回、バラもスを倒すとなったらちょっと緊張するからね」

「そっか、そうだね」

雅之はやっと静かになり、鷹哉を安心させた。

「それにしても不気味な城だな」

三人は慎重に歩き出す。

バラモスに会うまで、力はなるべく温存したかった。

バラモスの玉座付近で、何か物音がした。

「た、鷹哉、あれ!」

「わぁ、モンスターだ」

あれは確か………。

「大丈夫。あれはスカイドラゴンだ、ホラ、ジパングで何度も戦ったじゃないか」

僕以外でね。

雅之は最後の言葉を飲み込み、大きく手を振り、得意げに二人をなだめる。

「バカ!あれはスノードラゴンだよ、色が違う」

「え?」

言われて気付く。

確かに色が青っぽい。

同じ形のモンスターで、色違いは、同種族でもひときわ強かったりする。

二人からドラクエの世界のことについて説明を聞いた時、そう言われたのを思い出す。

確かジパングにいたのは黄色………。

「本当だ、どうしよう」

「山本援護を!」

言うと同時に動き出す、鷹哉の素早い行動にスピードをつける。

素早いキックでダメージを与えるため、少しだけ攻撃力が高まる気がする。

これはゲームではなく、実践で感じた事。

「ええい!」

勇気も剣を振るう。

ふぶきの剣を振り上げる。

他にも強い武器があったのに、勇気が選んだ理由は、どれも重たくて使いこなせなかった。

スノードラゴンの硬いうろこを切り裂いた。

痛みでもがき、体制を整えようと体を伸ばす。

「うわぁっ!こっちへ来る!ベギラマ!」

雅之の攻撃ががスノードラゴンの鼻先へ命中する。

「よし!」

「とどめだ」

二人はそれを見逃さなかった。

鷹哉の黄金の爪と、勇気のふぶきの剣が同時にスノードラゴンをしとめた。

「ふぅ」

雅之がしりもちをつく。

「山本、やるようになったな」

鷹哉が手を差し出す。

「うん」

雅之はその手を握り、立ち上がった。

「とりあえず覚えている呪文の効果を全部試したから、戦い方が分かるようになってきた」

雅之はサマンオサで、あまり役に立てなかった事を、随分気にしていた。

これはゲームではない。

ゲームの中とはいえ、戦うとモンスターは死ぬし、明日はわが身なのかもしれない。

そう思うと、怖くなり、こっそり何度も練習を重ねていた。

「そっか、凄いんだな、山本って」

だから、勇気にそう褒められた時、とても嬉しかった。

勇気と雅之が話している間に、鷹哉が一足先にバラモスの偵察に行く。

「おい、勇気」

鷹哉の切羽詰った声に呼ばれ、駆けつけて、勇気は息を飲んだ。

「どうしたの?二人とも。あっ!」

雅之も息を飲む。

「あれは何?」

バラモスの部屋に、大きな山があった。

「ちょっと待ってろ」

「気をつけろ」

勇気は雅之と離れないように、その山に近づいた鷹哉を見守った。

鷹哉は近づいて、何かを感じた様だった。

その山は土色の肉の塊だった。

血らしい緑の液体が、まだドクドクと音を立てて流れ、鷹哉が近づくと異臭がした。

鷹哉は肉の塊を色んな角度から見つめ、ふと、バラモスの玉座に光るものを見つけた。

「勇気、これ!」

勇気は、その光るものを受け取り、全てを悟った。

「うん、間違いないね」

「何なの?」

雅之が恐る恐る二人に問いかける。

「これはバラモスの死体だ」

鷹哉が言うと同時に、雅之は辺りを見渡した。

「と、すると、バラモスより強い魔物が、こ、この辺りに?」

「いや、鷹哉の予想が外れただけ」

オルテガはバラモス打倒を僕に任せたんじゃない。

僕と一緒に戦いたいんだ。

その証拠に

「これは、オルテガの兜」

オルテガが倒したんだね。

「ストーリーがどんどん変わっていく」

それでも、オルテガは、一人で魔の島へ………。

「急ごう」

勇気達は焦る気持ちを行動に移した。

 

  

 

相変わらず賑やかしい音がするなぁ、と、勇気は扉を開ける。

バラモスが倒れた事をどこでかぎつけたのか、アリアハンは大賑わいだった。

勇気達は、最終決戦に備え、もう一人の仲間を探しに、故郷へ戻ってきた。

ギアガの大穴に飛び込む時、流石の穴の深さに内心逃げ腰になってしまった。

その時、四人で行ける所を、なにも三人で行かなくてもいいと勇気が提案したのだ。

まぁ、ちょっとした時間稼ぎとも言うが………。

扉を開けると酒の匂いが勇気達の脳を刺激し、一瞬、気が遠くなる思いがした。

「おや?」

「お久しぶり、ルイーダさん」

今日のルイーダの衣装は、前に比べて派手になっていた。

相変わらず、 衣装のあちこちからチップらしいお札が顔を覗かせていた。

「ふーん。逞しくなったもんだね」

「おかげさまで」

「で?何の用?」

ルイーダの目は悪戯っぽく笑っていた。

「もう一人、仲間を増やしたいんだ」

世界が救われたのに、仲間を増やしたい?

「なるほど」

ルイーダの目は、鋭くなった。

「だったら、いい人が居るわ」

「よぉ!」

ルイーダに呼ばれて出てきたのは、勇気も鷹哉も顔なじみのカンダタだった。

「何がどうなってるのか、世界の大悪党、カンダタが勇者を待ってるなんてさ」

「僕を?」

「勇気、会いたかったぜ」

「カンダタ、船乗りの骨、持って行っただろ」

「なんだ、もうばれてたのか」

「俺の一言でここまで変わるとはね」

「俺だって、役に立ちたかったんだ」

カンダタが頭をかく。

「何はともあれ、この上ない、強い仲間が出来たね」

「だ・な」

勇気と鷹哉は目を合わせて微笑んだ。

「カンダタ、覚悟はいいね」

「あぁ」

そう、戦いはまだ終わっていないのだ。

 

勇気達はまず、太陽の石を入手するため、ラダトーム城へ来ていた。

「おっ、ここにその大事なお宝があるってぇのかい?」

「うん」

カンダタは宝と聞いて黙ってはいられなかった。

「よし!俺様が見つけてやろう」

カンダタは腕まくりをし、ごそごそと部屋の隅を触りだした。

「ぷっ」

鷹哉が笑いそうになり、勇気は肘で突付いて黙らせる。

勇気も鷹哉も、アイテムの在り処を知っている。

だが、ここはカンダタの顔を立てようと、黙って見守ることにした。

「よし、俺様の優れた盗賊の鼻で………」

カンダタはその内部屋から飛び出し、見えなくなってしまった。

「あははっ」

「そっちじゃね〜のに」

姿が見えなくなった途端、二人は腹を抱えて笑い出す。

「二人とも、カンダタに悪いよ」

「分かってるんだけど。あはっ」

笑い上戸の勇気は、一度笑い出すと止まらない。

鷹哉もつられて笑う。

一体何がおかしいのやら。

雅之はため息をついた。

「あれ、おっかしいなぁ。この辺りにあるはずなんだけど」

カンダタが戻ってくる。

「カンダタっ、そっちの方が、あ、あ、あはっ」

「ん?」

「いや、カンダタ、勇気が、そっちの方が怪しいって言ってるぜ」

鷹哉が代弁する。

「お、そうか。勇者が言うことに間違いは無いはず………おっ!あった!!」

カンダタがそれらしい物を見つけてくれた。

鷹哉が鑑定し、攻略本等で見たアイテムに間違いないことを確認した。

「へん、こんなもんよ」

カンダタは得意げになり、残った三人は礼を言う。

「だけど………」

「へ?」

カンダタが急に落ち着いた声で呟く。

「今、見つけたのは勇気のお陰だ」

「カンダタ………」

「畜生、俺も、もっと勉強しておけば良かったなー」

勇気達は顔を見合わせ、首を傾げた。

「こんな事なら、先公にピオリム掛けて早退させたり、ラナルータで学校を休んだりするんじゃなかったよ」

「あは、カンダタ」

勇気は腹を抱えて笑い出す。

「そんな事したの?」

「まぁな、お前らは、しねぇのかよ」

「いや、出来ねぇって、俺らは」

鷹哉も笑い出す。

「ねぇ、もっと聞かせてよ、カンダタ」

「おうよ、学校の創立記念日ってあるだろうよ?」

「うんうん」

勇気達は、暫くの間、休息を味わう事にした。

 

少し遅れた分、ゾーマ城に向けて先を急ぐ。

途中、強いモンスターが出てきたが、もう勇気達の敵ではなかった。

オリハルコンで王者の剣を作り、重要なアイテムをどんどん入手していった。

その度に勇気と鷹哉が感動の声を上げる。

精霊神ルビスの封印を解く。

そのルビズの綺麗な光に心が躍り、何でもやり遂げられる気がした。

今、勇気達は自由だった。

ゲームをやっている気分で、この世界で暮らせたらいいのに、と、本気で思った。

ここなら勉強しろとは言われない。

サッカーも、好きな時に出来る。

友達も、ずっと一緒なのだ。

だが、そう思えば思うほど、現実から逃避し、また、この世界から逃れられなくなっていく事に、三人は気付いていなかった。

 

 

戻る   次へ

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送