第七章 ガイアの剣

 

「うわぁ。綺麗ー」

雅之が歓声をあげる。

「鷹哉!」

その声とは反対に、勇気は驚きと戸惑いの声を上げた。

「何だ、これは?」

鷹哉も唖然となって、辺りを見渡す。

緑に囲まれた、その町の入り口には、カナエバーグと立て札が埋め込まれていた。

町の中央に噴水やベンチがあり、それらを取り囲むように店があった。

どちらかと言うと、公園の中に出店があると言った感じだろうか………。

「これが霧島さんにそっくりなカナエさんが作ったという町」

「山本、ヒトコト余分なんだよ」

鷹哉が足を振り上げると、雅之は顔をしかめた。

「どーも、町と言うより、公園だね」

「だな」

勇気と鷹哉はそう頷くので、雅之は訳が分からなくても、同じように頷いてみた。

「山本、カナエの前でンな事言うなよ」

「う、うん」

と、そこへタイミングよく、聞きなれた声が耳に飛び込んできた。

カナエだ。

髪を短く切り、動きやすい格好をしていた。

勇気は名前を呼ばれ、カナエの方へ向かっていく。

「カナエちゃん、元気だった?」

勇気はそう言って、カナエに笑われた。

ちゃん付けにしたのは無意識だったのだ。

「ええ。勇気さんもお元気そうで何よりです」

「あら?アルカは?」

勇気はカナエにアルカの事を簡単に説明した。

「そうですか」

勇気は鷹哉にも何か喋れよ、と、促そうとしたが、鷹哉がついてきていなかった事に、やっと気づいた。

「あれ?鷹哉の奴………あぁ」

向こうの方で、鷹哉と雅之がこそこそと話をしていた。

カナエと和歌奈に似てるとか、そういう話をしているのだろうか?

「あ、鷹哉を呼んでくるよ」

「いえ、いいんです」

「え?だって」

カナエは鷹哉に会いたがっているはずで。

「私、振られたんです」

「え?鷹哉そんな事ちっとも」

少し膨れた勇気に、カナエはフォローを入れる。

「あ、鷹哉さんは振ったつもりないかも」

「え?」

勇気には意味が分からなかった。

「よお」

「鷹哉さん、お久しぶりです」

カナエは鷹哉を見るなり、元気良く挨拶をする。

『振られたんです』?あれが?

「カナエ、元気にしてたか?」

鷹哉の優しそうな目。

振ったのか?

「はい。見ての通り」

カナエは元気にはしゃいでみせる。

勇気は腑に落ちない気持ちを抱きながら、まぁいいや、と流すことにした。

「そちらの方は?」

カナエが小首を傾げる。

鷹哉の後ろに隠れるように立っていた雅之が、ひょっこりと顔を出す。

「僕だよ、霧島さん」

「え?」

カナエと鷹哉の目が一瞬合い、即、そらされる。

あぁ、そうか。

勇気はその表情を見逃さなかった。

「あ、さっき聞いたばかりなのに」

雅之は顔を赤くして頭をかく。

そんな雅之を、カナエはクスクスと笑う。

「私って、よっぽどキリシマって方に似てるんですね」

「や、気にしないで」

鷹哉はそう言い、 慌ててカナエを見るが、気にする風でもないカナエの表情を見て、鷹哉は少し寂しくなった。

もう、気にしないのかい?

これで、良かったのかな………。

「こいつは山本」

「は、初めまして」

雅之が恥ずかしそうに会釈をする。

「初めまして、ヤマモトさん」

そう言えば、苗字だよなぁ〜

勇気と鷹哉がドラクエをする時、下の名前を入れ、『勇気は呪文』とか、『鷹哉は攻撃』とか言ってたから、お互い名前で呼び合って………

でも、山本の場合は、そんな風に呼ばないし、紹介する時も苗字だったから、勇気や鷹哉のように、キリシマもヤマモトも苗字のままって事なのかな。

なんて事を考えながら、勇気とカナエがアルカの事について何か話しているのを横目に、町を見渡した。

「へぇ。立派に町作りをしてんじゃねぇか」

「はい」

鷹哉が呟くと、カナエが嬉しそうに返事をした。

「鷹哉さんに言われたとおり、町の皆さんをいたわる様に、公園も作ってみたんです。でも、公園が主体になってしまって」

「へぇー、鷹哉、頭いーねー」

勇気が肘で突付く。

「ちゃかすなよ」

鷹哉は足で防御するふりをし、顔をしかめた。

「でも、公園主体のこの町じゃ、余り人が寄り付かないんじゃないか?」

そう、ここでイエローオーブを手に入れるには、町が発展していないと駄目なのだ。

「そんな事ないですよ。お年寄りとか、親子連れとか、いろんな人が来ます」

勇気と鷹哉が目を合わせる。

「大金持ちとか、商人とかは?」

「いえ、来ません」

恐る恐る聞いた勇気の質問は、きっぱりとそれを否定された。

「とするとだ。イエローオーブをどうやって探すかだ」

「だね」

また鷹哉の台詞でストーリーが変ってしまった?

勇気と鷹哉は顔をしかめ、その表情に気付かず、カナエは、カバンの中からごそごそと黄色い玉を取り出した。

「オーブ?そうそう、オーブなら預かっています。これを勇気さんへと」

「わぁ。オーブ?綺麗だね」

ずっと黙っていた雅之がそう言いながら、カナエの手からオーブを受け取ろうとして、鷹哉に先を越された。

「預かる?誰から?」

鷹哉はそう言い、オーブを勇気に渡す。

「ええ。ある男の方に渡されたのです」

「男の人?」

雅之が首を傾げる。

「誰だろ?」

勇気と鷹哉も顔を見合わせ、小首を傾げた。

「その男の方は………」

カナエはその時の状況を詳しく説明する。

 

店が少しずつ増えてきた頃の事だ。

「すみません、ここの管理はどなたが?」

「あ、はい私ですが」

「店を開きたいのですが」

「では、この地図をどうぞ」

カナエは地図を渡す。

「この地図を頼りに全ての土地を見て回ってください。条件に合った場所に印をつけて、持ってきてください」

カナエは、毎日この様に土地を売りさばく。

そんなある日、一人の男がやってきた。

「ここは、人がよく集まるのか?」

「はい。お店を出すにはもって来いですよ。どんな物件が………」

カナエが地図を差し出すと、男は荷物の中から何やら取り出した。

「君は、勇気という名の男の子を知っているか?」

 

「僕?」

勇気が自分で鼻を指す。

「はい」

カナエは、直感で、つい先日まで一緒に旅をした勇気の事だと思った。

それは勇気自身が勇者であり、全国に、その名を知られているはずだったから。

勇者勇気として世界中に名前が渡っているからこそ、人が集まりそうなカナエバーグを選んだのだと直感した。

「その、鷹哉さんが、もう一度訪れて下さるという事でしたので」

「いつの話?どうして引き止めてくれなかったの?」

勇気達に見つめられ、カナエは深く頭を下げた」

「済みません。三日程前の事です。勇者としての肩書きではなく、勇気さんの名前を使ってらっしゃったので、お知り合いの方だと思って引き止めたのですが、先を急いでらして………」

「名前は?」

「いえ」

雅之は、勇気達にストーリーを聞いていた。

勇気と鷹哉が話す内容はめちゃくちゃだったが、確認しながら教えてもらい、雅之もだいぶ事情が飲み込めてきた頃だった。

「ここで出てくるとしたらオルテガだよねぇ」

「黙ってろ。それで?」

雅之の一言を、鷹哉は制す。

どうも船乗りの骨の一件から、鷹哉は雅之に冷たい。

雅之は、少し孤独を覚えた。

「はい。オーブとこの剣を下さったのです」

「うへっ!俺の一言でここまでストーリーが変わるのか」

また………

俺がストーリーを変えてしまったのかも知れない。

また変な風に変わって、大事なアイテムが入手出来なかったらどうしよう。

鷹哉は焦っていた。

「この剣について、鷹哉、分かる?」

勇気に差し出され、受け取る。

「うーん、ここで貰えるのはオーブだけだったし」

誰にも悟られまいと、いつもの口調で話す。

本当に、どんどん変わっていく。

知っているはずのドラクエの世界が、だんだん知らないものに変化する。

「松坂君、オーブって何に使うの?」

鷹哉が考えている間に、雅之も世界を知ろうと一生懸命になった。

「実は、オーブは他に、ブルー、レッド、パープル、グリーン、シルバーがあるんだ。ほら、これがそのオーブさ」

勇気は道具袋からオーブを取り出した。

「それと、今貰ったイエローオーブの六つでラーミアが甦るんだ」

「ラーミアって、あの伝説の不死鳥ですか?今でも実在するのですか?」

カナエは声を張り上げた。

遠い昔からの言い伝え。

今は伝説となった不死鳥ラーミアの話。

本当に、こんな事が………。

「カナエはバラモスを知っているか?」

「ええ。今世界を脅かしている悪の権化」

「そのバラモスが住んでいる城は高い岩山に囲まれた離島にあるんだ」

「つまり、空からしか行けない訳だね」

雅之が問いただす。

「飲み込み早いじゃんか。実はそうなんだ」

鷹哉に褒められ、雅之は少しほっとする。

「でも、今の話を聞くと、まだシルバーオーブが足りてないんじゃないの?」

雅之がオーブを指す。

「ネクロゴンドにある」

「ネクロゴンドは空からしか行けませんよ!?」

カナエは声を裏返した。

 

 不死鳥ラーミアの話、バラモスの話、オーブやネクロゴンド。

全てカナエが子供の頃に聞いていたおとぎ話である。

それを平然と言って聞かせる勇気達が遠く感じた。

 

「だからガイアの剣というアイテムがあって」

勇気と鷹哉の目が合う。

「分かった」

鷹哉が叫ぶ。

「そうか、これが」

勇気がつられて声を張り上げる。

二人の顔はどこか嬉しそうで、目を輝かせていた。

「ガイアの剣!」

勇気と鷹哉は同時に叫び、腕を付き合わせた。

「そんな!ガイアの剣は幻の剣ですよ?どうしてこんな所に?」

勇者オルテガの戦友、勇者サイモンの愛用の持ち物だとカナエは聞いていた。

だが、オルテガもサイモンも行方が分からなくなり、伝説の名剣も、その名の通り伝説に語り継がれるだけの物となってしまっていた。

「俺だって聞きたい。船乗りの骨はカンダタが持っていったはずなのに」

鷹哉も考える。

船乗りの骨で幽霊船を突き止め、そこにあるアイテム『王女の愛』でオリビアの岬を攻略する予定だった。

ガイアの剣は、そのオリビアの岬の先にあるほこらの牢獄に、サイモンの屍と一緒に眠っているはずだったのだ。

「渡したのはカンダタ?」

「そんな!カンダタの姿くらい覚えています」

「だよな」

もし、本当にカンダタが攻略したのなら、カンダタがここに訪れ、カナエに手渡してもいいはずだ。

だが、カナエもカンダタも顔見知りだし、誰か分からないなんて事を言うはずが無い。

「もしかしたらカンダタが誰かに譲ったのかも」

勇気も同じ事を思ったらしく、可能性のある事を上げる。

「カンダタが宝を人に譲るなんて」

カナエは信じられない、と首を横に振る。

「分かった、オーブと剣をくれたのはオルテガだったんだ」

突然勇気が声を張り上げる。

「そうか、人のためって。この事だったのか」

鷹哉も何か分かったように頷いた。

「ちょっと待ってください。勇気さんには失礼ですが、オルテガさんは火山の火口に落ちて………」

「でも、確かホルスさんに助けられたんだよね」

雅之が確認しながら、カナエに説明した。

 

「カンダタはオルテガが生きていると信じて、探して、そして会えたんだ」

オルテガを尊敬してるって言ってたカンダタ。

「そうか、そしてガイアの剣を受け取ったオルテガは、勇気にそれを託した。オルテガはバラモスを倒さずに、真っ先に悪の権化へと向かったんだ。勇気にバラモス打倒を任せ、オルテガはゾーマを、オルテガは………」

そうか、オルテガも!

「オルテガは真の拠点に気が付いたんだ!」

「どういうことですか」

興奮してまくし立てる鷹哉に感化され、カナエも声を張り上げる。

付いていけない。

おとぎ話のような、この会話を理解できない。

カナエは逃げ出したい気持ちをぐっと抑えた。

勇気は興奮したカナエに出来る限り説明をする。

「つまり、オルテガは、このガイアの剣を使わず、ホルスさんとネクロゴンドへ向かった。オルテガは無事に渡る事が出来たけど、ホルスさんはゾーマに見つかって呪いを掛けられた。そのせいでオルテガはゾーマの存在に気付いたんだ」

鷹哉も頷き、続ける。

「オルテガは勇気が旅に出たのをどこかで聞いたんだろうな。だからバラモスよりも強いゾーマを倒すことに決めたんだ」

「ゾーマって誰ですか」

カナエは金切り声を上げる。

分からない。

勇気達の話す内容が………。

「バラモスを操ってる奴だよ」

「そんな!バラモスより強い魔物が存在するなんて!」

うまく言葉が出ない。

舌がもつれる。

「バラモスを倒しても平和にならない。それよりも裏の世界のゾーマを倒さなければ」

「待って!」

雅之が口を挟む。

「もしかしてオルテガは、松坂君と一緒に戦いたいのかも」

「かもな。そして勇気にオーブを託した」

鷹哉と雅之は、勇気を見る。

三人は小さく頷いた。

「勇気がバラモスを倒し、裏の世界の存在を知ることを、オルテガは望んでいるんだ」

「でも、オルテガはもうすぐ………」

勇気は視線を落とす。

ゲームでは、オルテガは、バラモス城で命を落とす。

鷹哉は、ふと思い出す。

 

『僕、オルテガに会いたいんだ』

『じゃぁ、オルテガを死なせないように、早く進めて、助けようぜ』

 

そう言いながら今まで進めてきた。

勇気、叶えよう。

俺だって会ってみたい。

「間に合うかも。とにかく急ぐんだ」

三人が頷き、走り出す。

その後姿に、カナエは言葉を投げかける。

もう、届かない、大好きだった人の名を・・・

「鷹哉さん!」私は・・・・・・・・・!!

走り出そうとして、呼び止められる。

「もう、ここには来ない」

鷹哉は、カナエには背を向けたまま・・・。

「………元気で」

「はい」

鷹哉が走っていく。

カナエは暫く呆然と立ち尽くす。

私は………。

カナエは事の重大さに、今やっと気付いた。

平和を望むだけでは何もならない。

そう思うと涙が止まらなかった………。

 

 

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