第六章 英雄の真実

 

「くっ、くっ、くっ」

勇気は腹を抱えて真っ赤な顔をして笑いを堪えていた。

「勇気、いつまで笑ってんだよ」

「ごめ、だってさ、鷹哉ってば、ジパングに着くなり『ヒミコ成敗する』だもんな〜」

勇気は口では謝っているが、全く悪びれた風ではない様だ。

「成敗ねぇ〜」

雅之も笑いを堪えるのに必死だ。

「山本、死にてぇか?」

鷹哉に睨まれ、雅之は小さくなった。

「ごめっ」

「おめーら二人、クラスに居るときより仲良いし」

「それとコレとは別、いくらヒミコが偽者って分かってても、あそこまで言うか?フツー」

鷹哉はジパングで、ヒミコが居るらしい部屋を勢い良く開けた。

ふすまはパーンと派手な音を立て、みなの注目を集めた。

しかも普通はふすまを開けてから、『成敗する』って言うだろうに、鷹哉は開けながら言ったんだ。

雅之はそれも含めて可笑しかった。

「だー、もういい」

 

勇気達はサマンオサに到着した。

立派な造りのお城に、勇気達は目を見張った。

緑が生い茂り、細く長い川があった。

だが、そんな景色とは裏腹に、住民の心は酷く荒んでいた。

雅之が住民に話しかけようとするが、勇気に止められた。

見ると、鷹哉も首を横に振る。

「ここの本当の王様は、地下に閉じ込められている」

「偽者モンスターが王様に成りすましてやがる」

勇気達はそう言いながら川を渡る。

城へ入り、兵の目を盗んで、偽者の王の前にたどり着いた。

「ぬぬ?なんだ、お前達は?」

勇気はラーの鏡を取り出し、王へと向けた。

「ぐわぁぁぁ」

王の姿がゆがみ、醜いモンスターの姿へと変わる。「トロル!」

雅之が悲鳴を上げる。

「へー、名前知ってんの?」

鷹哉が茶化し、雅之はムッとした。

「神話に出てくるじゃないか」

「へ?」

と、醜いモンスターが襲いかかって来た。

「うわぁ〜」

「よくも、見破ったなぁ〜」

「山本、援護しろ!」

鷹哉の言葉で戦闘が始まった。

「えっと、トロルは知恵が無いから、武器を振り回すのが精一杯のはずで、」

「馬鹿、誰が分析しろって言った」

「え?」

「呪文、使って援護してくれ」

「呪文、呪文………」

ボストロールの攻撃を交わし、勇気が剣を振るう。

「お前は賢者だろ〜〜」

鷹哉のキックが上手く入り、ボストロールが倒れる。

「山本、ボストロールの分析でいい」

「へ?」

「知恵が無いって本当?」

「うん。トロルは、体が大きいだけで、賢さはないんだ。だから、動きもそんなに速くないはずだよ。林君の素早さで撹乱させて、動きを封じればいいんじゃないかな」

「鷹哉」

「OK」

鷹哉がボストロールの前に立つ。

「こっちだ、ボストロール!!」

「いや、こっちさ」

ボストロールは鷹哉に向かおうとし、勇気の声で後ろへ振り返る。

「ふん、お前の事は何でも知ってるさ」

鷹哉がそう言い、ボストロールを振り向かせ、さらに素早く勇気の元へ走った。

そして、勇気と鷹哉は、アルカと雅之を庇う様に格好よく立つ。

憧れた世界で怖いもん無しだ。

勇気と鷹哉は目を合わせてニヤついた。

「お前は、勇者サイモンをほこらの牢獄へ閉じ込めた」

「何故それを?」

ボストロールは急に真実を言い当てられ、混乱していた。

「僕たちは何でも知っている」

「ぐわぁ〜」

ボストロールは力任せにこん棒を振るった。

「おっと、どこを狙ってるのかな?」

目を回したボストロールの攻撃は狙いが定まっていなかった。

「えい!」

「山本、何か呪文は出来ないのか?ジパングで使った奴より、強力な奴」

鷹哉がボストロールに爪を立てる。

「ぐわあぁ〜〜」

「う、うん。よ〜し、ホイミ!」

勇気の傷が回復した。

「あのなぁ〜」

「あはははっ」

鷹哉は呆れ、勇気は大声で笑った。

「え?え?」

雅之は何が起こったのか分からず、きょとんとしていた。

「鷹哉、大丈夫、いけそうだよ」

「アルカ、呪文だ」

そう、雅之が分析してくれたお陰で、ボストロールを混乱させている。

だから………。

「え〜〜〜い」

「ヒャダルコ」

アルカは呪文を唱える。

戦うために使うのではない、守るために使うんだと、そんな呪文の使い方があるんだ。と、勇気から教わった。

勿論勇気は、いつか読んだ漫画のセリフを覚えていただけだけど。

勇気の剣、鷹哉の爪、アルカの呪文。

そして雅之の知恵で、ボストロールをやっつけた。

「お前なぁ〜ジパングで何度か戦っただろ〜」

「ごめんっ、混乱してて」

条件反射で雅之が頭を抱える。

「あはは、あはは」

その日の晩、ドラクエの猛勉強が始まったのは言うまでも無い。

 

変化の杖を手に入れた勇気達は、直ぐにグリーンラッドへと向かった。

氷の世界ともいえるグリーンラッドはとても寒く、アルカが何度か弱音を吐いた。

勇気達は吹雪の中、やっとの思いで小さな小屋を見つけ、ノックする。

「なんじゃ、あんたがた」

一人の老人が姿を現した。

「変化の杖をあげるから、船乗りの骨をくれないか?」

老人は変化の杖と聞いた途端、顔色を変えた。

勇気が持つその杖を見定めた後、老人は暖炉で暖まった小さな小屋の中へ勇気達を案内した。

椅子は一つしかなく、勇気が座った。

雅之とアルカは、部屋の中を物珍しそうにうろうろした。

そんな事は気にせず、老人は勇気が持つ杖をマジマジと眺める。

「ほら、変化の杖だよ」

勇気はその杖を老人に手渡してやる。

「おうおうおう、これじゃ、これじゃよ」

勇気から手渡されるなり、その杖を振りかざした。

「きゃぁ。おじいちゃんが若返った」

変化の杖はどんな姿にも変えられる。

ボストロールが王の姿になっていたように、この老人も若返った。

勇気達は初めそう思った。

だが、それは違ったのだ。

「この呪いは、このアイテムでしか解けない。私はオルテガ殿を火山から救ったホルス」

「何だって?」

鷹哉が思わず声を上げる。

だが、ホルスは続ける。

「そのせいでゾーマから怒りをかい、呪いであんな老いぼれた姿に変えられたのじゃ。そして遠い国、グリーンラッドへ飛ばされた。変化の杖を渡してくれて有難う御座いました。これは生き物、もつ者を選びます」

ホルスは変化の杖を見た。

勇気の目には、さっきより輝いて見えた。

「失礼ですが、あなたは勇気殿では御座いませぬか?」

「うん。でも、どうして?」

勇気は異世界から来た。

どうして直ぐに名前が分かったんだろう?

「おおおっ!神様はまだお見捨てにならなかった」

「あ、あの?」

異世界から来ても、オルテガとよく似ているのだろうか?

「オルテガ殿は火山の火口から落ちなかった。だが、かなりの深手を負っているに違いない。オルテガ殿、お一人だと、魔力が底を付くのは時間の問題。沢山買い込んだ薬草も、そう役には立たぬ」

ホルスの目から涙が零れ落ちた。

それでも夢中で祈願する。

「勇気殿、早くネクロゴンドへ向かいなされ。きっとオルテガ殿は生きている」

うん。

絶対助けるんだ。

「ホルスさん。オルテガを助けてくれて、有難う」

「勇気殿、オルテガ殿に会えるのは間近だ。だが、油断するでない。ゾーマはけた外れの化け物じゃ」

うん。

ゾーマはラスボスだ。

「はい」

勇気は力強くうなづいた。

「で、ホルスさん、船乗りの骨」

「そうじゃった。済まぬ、船乗りの骨は持っておらんのじゃ」

「何だって?」

勇気の声に雅之は振り返る。

どうやらゲーム攻略に必要なアイテムが手に入らないらしい。

「勇気殿、船乗りの骨がここにあると誰から聞いたのじゃ?」

言葉遣いは年寄りくさいが、まだ三十代らしいホルスに問われ、戸惑った。

「誰というか」

え〜っと、ゲームの中では、どこで情報を手に入れたっけ?

勇気が鷹哉に目で訴え、鷹哉が答えようとした時、ホルスが再び口を開いた。

「確かに船乗りの骨は私が持っていた。じゃが、それはここ五日程前の話じゃ」

「じゃぁ、どうして今は持ってないんだ?」

「カンダタじゃ」

「カンダタ?」

どうして?

ゲームの中のカンダタの活躍は、あれで終わりのはず。

「あぁ。人さらいや、宝を盗んだ金儲けはやめたそうじゃ」

「あっ」

勇気が声を漏らす。

確か、鷹哉が言った。

『もう悪さはしないで欲しい』

「人の為に何かをする。その為にまず、幽霊船を退治すると言ったんでな。良い事じゃと思って、わしが、あのアイテムを渡した」

ホルスは勇気達の残念そうな顔を見て、ため息をついた。

「勇気殿も必要でしたか。それなら手元に残しておくべきだった。あっさり奴の言い分を聞いてしまったが、ちょっと後悔していたのじゃよ」

「そう、ですか」

勇気は鷹哉を見た。

鷹哉は悔しそうに唇を噛んでいた。

勇気はホルスに頭を下げ、皆に小屋から出るように促した、その時

「あの………」

アルカが何か言いたそうに勇気を見つめた。

「私、ここに残ってもいい?」

「へ?」

「私、カナエちんみたく、やりたい事なかった。でも、今見つけたの。私、人の世話をしたい」

アルカはホルスが掛けている椅子の前にひざま付いた。

痩せこけた頬、ぎょろりとむき出しになった瞳は、まだこんなに若いのに………。

「見た所、ホルスさんは長年のゾーマの呪いのせいで、元の姿に戻っても体が弱ってるみたいだし。私、ここに残って、ホルスさんのお世話がしたいの」

家族の絵もない、こんな小さくて寒い家で、オルテガ様の身を案じ、どれだけの長い時間を一人で暮らしてきたのだろう。

「そっか」

勇気は、遊び人とはいえ、戦力が減るのは辛いが、仕方のないことだと思った。

「勇気ちん、旅の途中でこんな事になってごめんね」

アルカは勇気だけでなく、鷹哉と雅之にも目を合わせた。

二人は軽く微笑んだ。

勇気もそれを見て、微笑む。

「いいよ。アルカって、優しいんだね」

「うん!」

「ホルスさん」

勇気が向き直ると、ホルスは喜んで承諾してくれた。

「むしろ、こちらからお願いしたいくらい」

「良かったね」

「うん!」

アルカは小さな子供のように、頭を大きく前後へ振った。

「ホルスさん、お世話になりました」

「船乗りの骨については悪かったね」

「いいえ、大体分かってますから、大丈夫です」

 

 

勇気達は船に乗り、ロマリアへと向かった。

この辺りを探すと幽霊船が出るはずだ。

「ねぇ、どうするの?」

雅之が心配そうに尋ねる。

勇気と鷹哉は船の中でああでもない、こうでもないと会議をしていた。

会議の結果、ロマリアに行くことになったのだ。

「幽霊船が出る場所は大体分かってるんだ。とりあえず探すしかないな」

「見つからなかったら?」

「んな事考えるなよ」

「林君、どうしてイライラしてるの?」

「山本に関係ないだろ」

「鷹哉!」

鷹哉が思わず手を出しそうになって、勇気は慌てて止めた。

この世界で武道家が賢者に手を出したら、怪我どころじゃすまなくなる。

まぁ、相手は賢者だから、傷の回復は自分でやるだろうけれど………。

「山本、今はちょっと黙っていてくれないか」

「どうして?」

雅之は自分だけ蚊帳の外なのが面白くなかった。

「いいだろ、黙ってろ」

だが、勇気達には逆らえず、船のヘリでボーっと海を眺めて待つことにした。

「この辺りの筈なんだけど。鷹哉、カンダタ探すほうが早いかも」

「うーん」

「あれ?あれは何?」

ぼんやり見ていた雅之は、前方に村を発見した。

「どれ?」

「ほら、あの大陸。ぽつんと村がある」

「山本、海見ろよな、海」

ったく、何を探してるのか分かってんのか?

しかし、雅之の指す方向を何気なく見た勇気は、思わず声を上げた。

「鷹哉、スー大陸だ!」

「あちゃ〜。随分西へ渡ってたのか。引き返そう」

幽霊船はこんなところまで来ないはずだ。

「いや、山本、確か初めてだよな?」

勇気が鷹哉に目配せをする。

そうか、サマンオサを攻略した今、イエローオーブが手に入るはず!

「気分転換しよう!」

勇気はわざと明るく、声を張り上げた。

カナエとさよならした場所が、カナエバーグとして栄えているだろう。

だが、それと同時に、カナエは捕まっているかも知れない。

いや、きっとカナエなら、ちゃんと、頑張って、乗り越えてくれるだろう………。

勇気と鷹哉はそう期待し、大陸へ足を踏み入れた。

 

 

 

 「ずっるーい。私だけ入れないなんて」

河原で鷹哉のゲームボーイを二人で見ていた。

和歌奈がスイッチを入れると、雅之はたちまちゲームの世界へ誘われたのだ。

和歌奈こそがゲームの世界に入りたかったのに、勇気、鷹哉に引き続き、雅之までが和歌奈を置いて消えてしまった事に、和歌奈は腹を立てていた。

「ただいま〜」

「和歌奈!」

家に着くなり、母が心配そうな顔で出迎える。

「どうしたの?」

「ちょっといらっしゃい。山本君って知ってる?」

「クラスメイトの山本君のこと?」

「そう。さっき、山本君のお母さんがいらしたわ。ウチの子と関わらないで下さいですって。お付き合いしているの?」

「別に。松坂君と林君が行方不明になったから、それについて山本君の家で話し合ってただけだけど?」

「それだけ?」

「そうよ」

「他に隠してない?」

「お母さんまで私と山本君の仲を疑うの?」

「そうじゃないわ。ただ、誤解されるような行動は、もうとらないで頂戴」

今朝、雅之の母が、尋ねてきた。

女の子と家に二人っきりでいたらしく、それを聞いた和歌奈の母も少し心配になった。

親なら子供の事が心配である。

昨日、帰ってくるのが珍しく遅かった。

それが男の子の家だったなんて。

「明日から五時までに帰ってきなさい」

「門限を決めるの?」

「そうよ。これ以上、お母さんに心配かけないで頂戴」

悪い事をしたつもりは無かった。

勇気と鷹哉が居なくなった手がかりを探していただけなのに、どうして叱られなければならないんだろう。

大人は世間を気にする。

異性と少し話しただけで、付き合っているとか、いやらしいとか。

本人には全くそんな気持ちは無いのに、いやらしい目で見るのは大人達のほうなのに。

「いいわね」

「はーい!!」

和歌奈は半ば自棄気味に返事をした。

「和歌奈!」

 

和歌奈は部屋に入る。

いつもより強く扉を閉め、ランドセルを椅子にかける。

「もう、何なの。どうして私があんな事言われなきゃならないの!悔しい」

ベッドに座り、ため息をつく。

「山本君が羨ましいよ。ドラクエの世界へ逃げられたんだから」

枕元に置きっぱなしになっているゲームボーイを手に取ってみた。

ピンクの本体にドラゴンクエストのシールが沢山貼ってあった。

「逃げた?まさか!」

和歌奈はスイッチを入れてみた。

ソフトに入っている冒険の書の一つは、レベル九十九を表示していた。

林くんは今頃何してるのかな………。

鷹哉は正義感は強いが、すね癖がある。

自分のせいで何かが駄目になったりすると、無口になり、挽回する方法を一生懸命考える。

だが、そこでチャチャが入ると、暴言を吐いて、怒り出す。

和歌奈は、クラスメイトの事を思い、ゲームボーイのボタンを押した。

冒険を始める。

はぁ。

やっぱり入れない。

「現実逃避か………」

私も皆の所へ行きたいよ………。

いいなぁ。三人は。

「おやすみ、みんな」

和歌奈はゲームボーイの電源を切り、そのまま眠ってしまった。

 

 

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