第4章 大盗賊カンダタ
シャンパーニの塔へついた勇気達は、部屋にカンダタが居ることを確かめる。
「がはは、これで俺たちも暫くは優雅に暮らせるってぇもんよ」
「そうですねぃ、お頭!」
何人居るかは知っている。
全部で四人だ。
「カンダタだ。どうする?」
「戦うしかないだろ」
「レベルが足りないんじゃない?」
「俺は勇者がレベル十の時にクリアしたぜ」
「早えー。僕は十三だよ」
「お前、それ遅すぎ。おい、霧島」
鷹哉はそう呼んで、はっと気付く。
「じゃ、なかった。カナエ、全員のレベルを教えてくれ」
「はい」
カナエの方はそう呼ばれ慣れてしまっているらしかった。
「今、勇気さんのレベルは十一、鷹哉さんが十二、アルカが七で私は八です」
「ほらーやっぱり無理だよ」
そもそも戦力になる職業が勇者と武道家だけで、おまけにレベルが低い。
勇気は頭を抱えた。
「いや、霧、あ、カナエもアルカも転職済みなんだ。と言う事は、ホイミ、ピオリム、ラリホー、マヌーサ。とにかく、その辺の呪文は使えるだろ?」
「確かにそうです」
「あとはヒットポイントを注意すれば大丈夫」
ヒットポイントねー。注意してなんとかなるのかなぁ。
「まぁ、鷹哉がそう言うんなら」
鷹哉は勇気の言葉を確認すると、適当に小石を拾った。
「その前に作戦を練らないと」
勇気の横をすり抜け、カンダタがいる部屋から遠ざかる。
鷹哉は地面に座り込み、ゆうき、たかやと名前を書き始めた。
カナエがそれを見て、何て書いてあるのですか?と尋ねようとした時、
「ゆうきち〜ん!!」
勇気が呼ばれ、その瞬間物音がした。
「え?」
勇気が振り返ると、アルカが地面に寝そべっていた。
「ふえ〜ん。転んじゃったよう〜」
でた。遊び人、必殺の遊び?『転ぶ』
「げっ、こんな時に」
「お頭!」
「おう、今、変な音がしたな。ちょっと見てこいや」
「へい」
来る!
勇気達は立ち上がる。
攻められるより、こちらから攻めた方が有利だ。
咄嗟に思った勇気は鷹哉の目を見る。
鷹哉も同じ事を思ったらしい。
「ちっ、仕方ない」
子分が向かって来るよりも早く、二人はカンダタの部屋へ向かい、腕を組む。
「カンダタさん、金の冠をもらいに来たよ」
イキがピッタリ、妙に格好つけたセリフを、二人は同時に放った。
それもそのはず。
この世界を知り尽くしている二人は、普段からこのセリフを言う練習をしていたのだ。
「ふん。こそどろのはしくれか。それともロマリアの回しもんか。面白れい、やってやろうじゃないか」
カンダタが斧を抜く。
「たぁー!」
掛け声が戦闘開始の合図となった。
カンダタが抜いた斧は鷹哉に向けられた。
鷹哉はそれを瞬時に交わし、カンダタの後ろに潜んで、向かってきた子分の一人を足払いに掛ける。
「決まった!」
鷹哉は余裕でポーズを決めた。
「素早さよ、上がれ、ピオリム」
すかさずカナエが呪文をかけ、鷹哉は身軽になった体を跳ねさせた。
「うへー早い」
一方勇気の方は子分二人に囲まれ、壁に追いやられていた。
「アルカ、援護を!」
勇気は叫ぶが、アルカは怖がっているらしく、泣きじゃくるばかり。
「なめんなよ、ガキ共!」
子分の一人がアルカを目掛けて剣を振る。
鷹哉は素早く走り、アルカの盾になった。
「がはっ!何やってんだ。早く」
アルカは怖がって、何もしない。
「鷹哉さんの傷よ、塞がれ、ホイミ」
すかさずカナエが唱える。
鷹哉は勇気の周りにいる子分を蹴り、勇気の体を解放した。
その瞬間、今度はカンダタが勇気めがけて斧を振る。
「はっ!」
気付くのが一瞬遅く、咄嗟に剣で庇ったものの、体制が悪く、右肩を痛めたらしかった。
「勇気ちん!」
剣が派手な音を立て、するりと勇気の右手から落ちる。
壁にもたれ、左手で右肩を押さえている様子から、どうやら戦意を失ったらしかった。
「ふん、遊び人と商人を連れてくるとは」
カンダタが足払いを掛ける。
勇気は簡単にすっ転んでしまった。
「俺様もなめられたもんよ。え?ボウズ」
痛めたらしい右肩を、カンダタの足が押さえつけた。
「がはっ!」
「とどめを!」
カンダタが剣を振りかざす。
鷹哉は子分の相手で駆け寄れなかった。
「勇気」
「勇気さん!」
皆が必死で呼ぶ。
気づけ!
起き上がれ!
その時、アルカに異変が起こった。
光をおび、風が巻き起こる。
さっきまで泣いていたアルカの横顔が、急に大人びた表情になる。
今までこんな顔をした事があっただろうか?
「斧よ砕けろ。ヒャダルコ!」
瞬間、鷹哉が口笛を吹く。
「出来るじゃんか」
鷹哉はアルカを見る。が、アルカの表情は既に、いつもの幼い顔に戻っていた。
「なんだ?遊び人が呪文を?」
カンダタがあっけに取られていると、子分が叫びだした。
「お頭!」
子分の指す方には斧があり、その斧は見る見るうちに凍っていった。
「斧が凍っていく?」
鷹哉が走り寄る。
「鷹哉さん、今です」
ほぼ同時にカナエが叫ぶ。
「オーバーヘッド」
鷹哉は、斧をサッカーボールに見立て、蹴り上げた。
凍った斧は簡単に砕け、カンダタは悲鳴を上げた。
「なんだ?あの技は?」
「野郎共、一旦引き上げるぞ」
「へ、へい」
カンダタ一味は逃げ出していった。
「あ、カンダタが逃げる!」
「大丈夫、大丈夫」
鷹哉は、叫ぶカナエをなだめ、はっと、勇気に気付く。
カナエは勇気に歩み寄り、手をかざした。
回復呪文の効き目の速さに半ば驚きながら、鷹哉は勇気の回復を待った。
「ふぇーん、勇気ちんが気付いたよう」
「あ、カンダタは?」
勇気は上半身を起こし、辺りを見渡す。
「一旦逃げたよ。立てるか?」
勇気は頷き、スッと立って見せた。
カナエは勇気の剣を拾い、手渡してやる。
剣を収め、軽くジャンプする。
「さぁ、追いかけようか」
「そうこなくっちゃ」
「勇者の命令、全員走れ!」
「ハイ!」
律儀に返事し、一生懸命走る皆を、鷹哉は『やれやれ』と笑った。
鷹哉の足は速く、直ぐに先頭の勇気に追いついた。
目を合わせ、一緒に部屋に入る。
「どうしてここが分かったんだ。大抵の人間ならルーラで塔を出て行くはず」
ルーラ?
カンダタの指差した方は、天井が無かった。
なるほど。
「あいにく、経験者は語るってね」
鷹哉が折角格好を付けたのに、勇気が隣で笑う。
「るせー、経験無いのかよ」
「あいにく」
二人は目を合わせ、頷いた。
「せーの!」
「ぎゃぁ〜参った。参った。済まねぇ」
襲い掛かろうとしたが、どうやらカンダタが降伏の旗を揚げたようだった。
「ほら、これをやるから」
カンダタが大事そうに抱えていた宝箱を置き、座り込んだ。
ごそごそ探って取り出したのは、先が三つに分かれた、一枚の葉っぱだった。
「これは」
攻略本でしか見た事が無かったが、紛れも無く
「世界樹の葉!」
鷹哉が叫ぶ。
勇気自身は、形を覚えていなかったので、鷹哉のせリフに反応する。
「すっげー、本物?」
カナエが鑑定し、うなづく。
「マジ?」
鷹哉がカンダタに本当に貰っていいのか確認するが、カンダタは『マジ』という言葉を知らなかった。
が、そこは取り合えずうなづいてみる。
「あぁ、マジ、マジ」
そして、勇気を見つめた。
「あんた、オルテガさんのせがれだろ?」
突拍子も無い言葉に勇気が絶句していると、鷹哉が代わりに返事してくれた。
「カンダタ、オルテガを知ってるの?」
「おうとも」
鷹哉と勇気は目を合わせる。
「俺様が銭を盗もうとした時、もの凄い力で腕をつかまれた。ギロっと睨まれた時は、もう、蛇に睨まれたカエルの気持ちが分かったぜ」
「ははっ」
「こう見えても、オルテガさんを尊敬してる」
そして、視線を落とし、拳を作った。
「火山の火口に落ちたと聞いて」
カンダタは拳を作り、振るわせた。
ここにも、オルテガを知っている人が居る。
「あ、済まねぇ。せがれの前でこんな」
「いや、いいよ」
勇気は返事してみたものの、まだ実感が湧かなかった。
現実の世界に実在する父親こそが、本物で、ここで登場するオルテガを、勇気はまだ知らない。
ふと、鷹哉が話を切り替えようと、カンダタを見つめる。
「頼みがある」
「なんでい?」
その真剣な眼差しに、カンダタは只事じゃないな?と、見つめ返した。
「もう悪さはしないで欲しい」
「鷹哉さん、甘すぎます」
カナエが叫ぶが、カンダタは制した。
「いや、分かった」
「カンダタってまだ出てきたっけ?」
勇気に小声で聞かれ、説明する。
ゲームの世界では、カンダタはもう一度、バハラタで登場する。
黒胡椒を手に入れるためには、またカンダタを倒さなければならない。
鷹哉は分かっていたので、カンダタに釘を刺したのだった。
ふと気付くと、カナエがカンダタに金の冠の情報を聞き出していた。
「さすが霧島」
「細かい」
二人は顔を見合わせ、笑った。
目を開けると、そこはまだ雅之の部屋の中だった。
「やっぱり………」
雅之が呟き、和歌奈は耳を傾ける。
「本当は何度も試してみたんだ。けど、行けなかった」
「そうだったの。でも、やっと分かったわ」
「え?」
「あのね、ゲームの画面って、テレビみたいな感覚で電源が入るでしょ?だから、テレビやパソコンの画面のように、光を出して映っているって考えるのよね、普通。でも、ゲームボーイは、光が出ないの。だから暗がりで は遊べない」
和歌奈は悪戯っぽく笑った。
「コレを見たことがある人じゃないと、遠目から『暗がりでよく見えるなぁ』って思わないし、知らなければ、光が無いからコレがゲームボーイって分からないんじゃないかって思ったのよね」
え?それだけ?
「だから、山本君がゲームボーイを持ってるんじゃないかなっーて思ったんだけど」
和歌奈はゲームボーイの電源を切った。
「これを見たから知っていただけだったのね」
「でも、信じて。僕は本当に見たんだ」
「ええ。だったら原因を探るまでよ。・・・悔しい。私もドラクエの世界に入りたかったのに」
雅之は笑った。
そして、続ける。
「今、クラス対抗音楽発表会で、そして伝説へ・・・を練習してるでしょ?それ以来、クラスでドラクエやってる人が増えてさ………ねぇ、ドラクエって面白い?」
「うん、勿論」
和歌奈は本棚に目をやった。
ドラクエ上下の小説がある。
最近買い、読み始めたらしく、まだ二冊しかなかったけれど。
「山本君もやってみればいいのに」
と、その時、玄関に人の気配があった。
雅之が慌てて階段を下りるとどうやら、母が帰ってきたらしかった。
和歌奈は荷物をまとめ階段を下りた。
「あら、お友達?」
「そう」
「お邪魔しています。山本君、もう遅いし、私帰るね」
「じゃぁ、送っていくよ」
和歌奈が靴を履くのを待って、雅之も履こうと玄関に降りた。
「雅之!!」
雅之の母は、少し怒っている様子だった。
「あ、いい。じゃぁね、また明日」
和歌奈はおばさんの声に驚き、さっさと家を出た。
山本君、叱られるのかな?
和歌奈は雅之の家を後にした。
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