プロローグ

僕は松坂勇気。
つい先月まで小学六年生だった。
小学生最後のイベント、クラス音楽発表会で僕達は、ドラクエの歌を歌うことになったんだけど、ちょっと嫌なことがあって、僕達はドラクエの世界へ入ってしまった。
あ、僕達っていうのは、クラスメイトが他三人で、まず、僕と一番仲が良い林鷹哉。彼はサッカーが大好きで得意なんだけど、鷹哉のおばさんから「もっと頑張れ」って言われてサッカーが嫌いになってしまい、僕よりも早くドラクエの世界へ入ってしまった。
次に成績優秀の山本雅之。山本もおばさんから沢山何か言われたらしい。ゲームと全く縁の無かった奴がどうして?って感じだけど、鷹哉がゲームの世界へ消えていった唯一の人物だったから、この事件から逃れるわけには行かなかったみたい。
そして最後は紅一点、霧島和歌奈。霧島は僕の家の隣に住んでいて、キャンキャンうるさくておばさんみたいな所が有るけれど、僕の幼なじみで、なにかとよく遊んでいる仲だ。

僕達はドラクエの世界で色んな人に会った。

入った世界はドラクエスリー。
僕と鷹哉だけだった頃、商人のカナエって女の子と、遊び人のアルカって女の子が仲間に加わってきた。
その他にもゲームに実際出てくるカンダタやオルテガとか。
僕達は色んな人に助けられて、ドラクエをクリアし、戻ってきた。
その後、僕達は小学校を卒業し、今は春休み。
鷹哉と霧島とはよく連絡を取り合って、相変わらずあの頃の話で盛り上がっている。
今日は霧島と近くの公園で会う約束をしていた。


「でも、嘘みたい。私達が本当にドラクエの世界へ行ってたなんて」
青くて綺麗な空。
ドラクエの世界は、この空よりも暗くて、どんよりしていた。
今、僕達は平和なんだなーって、最近つくづく思うことが多くなってる。
霧島がベンチに座ったまま、手足を伸ばし、気持ちよさそうに深呼吸をした。
「そうだね」
「誰も信じないわよね。当たり前だけど」
短く答えた僕の言葉を遮るように身を乗り出してとぼけた顔をする。そんな茶目っ気を見せられると、鷹哉が霧島を好きになる理由がなんとなく分かる気がする。そう。鷹哉は霧島の事が好きなんだ。霧島はその事を知らないし、僕も鷹哉に確認したわけではないのだけれど、周りから見れば、あの山本にだって分かるくらいバレバレ。
霧島は・・・まだ自分の気持ちには気づいていないみたいだけど。

今日、霧島と公園で会う約束をしているのは、今度発売されるソフト、ドラクエセブンを霧島のお兄さんが買うらしく、お小遣いの少ない僕には買えないから、幼なじみのよしみで貸してもらえるって話をしている。
だけど、他の人・・・つまり鷹哉にも内緒な訳で・・・。
「本当にいいの?」
「何が?」
「勝(しょう)兄ちゃんがソフトを貸してくれるって話」
「いいのよ。それに、正式には貸すんじゃなくて、うちに来て遊んで帰るならいいよ。って事で。「勇ちゃんならいいよ」だって。持って帰っちゃ駄目よ?」
「いい加減、僕もう中学生なんだから、勇ちゃんからも卒業したいな」
「ふふっ、兄弟のような仲だから仕方ないよ」
「そうだな〜・・・。でも、勝兄ちゃんって、すっごくドラクエ好きなんでしょ?大切なソフトで遊ばせてくれるなんて、ホント感謝するよ!」
そう。勝兄ちゃんは趣味にどん欲というか、おたくっぽいというか、もしソフトに指紋でも付けたら大ごとになりそうなくらい大切にしてるみたいだし。
いくら門外不出にしたからって、僕が大切に扱ったって、汚すときは汚してしまうだろうし・・・。
あ、でも、メモカくらいは自分で用意した方がいいよな。あれも高いんだけど、仕方ない。セブンが出来るんだから。
「オッス!」
ふと僕の前に影が出来た。
見上げると鷹哉が立っていた。
「あれ?鷹哉!?」
「オッス霧島。なぁ、なんの話してんだよ?」
やばい!
今日、霧島と会うことを言ってなかった。
鷹哉は僕達の前に体をかがめてのぞき込んできた。
「内緒」
霧島はそんな鷹哉から、そっぽを向いて座り直す。
あれれ?
「教えろよ」
「これは松坂君と私だけの秘密なの!」
霧島が僕の体にくっついてきた。この二人、どこか変だぞ?
「んだよ、おい、勇気!?」
うわ、今度は僕に迫ってきた。
鷹哉はかなり怒った様子で僕を見る。
だけど、これは勝兄ちゃんと僕との約束だから・・・
「あーゴメン」
って答えるしかなくて・・・。
「勇気!?」
まさか今更ヤキモチって訳でもないだろうし、二人は喧嘩したっぽい!
僕は二人の殺気に挟まれて、もの凄く居づらくなってしまった。
「はーやし君?男の嫉妬はみっともないわよ?」
「誰が嫉妬だ、誰が!!」
さぁ。と霧島がお手上げポーズを取る。
怒ってる原因は、僕が霧島と会うことを隠していたからって訳でも無さそう。
何かあったんだろうか?
僕が黙ってるせいで、鷹哉が不信感を抱いたらしく、僕にも殺気立ってる気がするんだけど・・・。
「霧島、僕は鷹哉に殺されたくないからな?」
釘を刺した。
鷹哉の口癖は“殺すぞ!”小学生の頃はクラスメイトからかなり恐れられていた。
ドラクエスリーの性格診断も“乱暴者”
鷹哉と唯一まともに話せるのは、僕と霧島と、ドラクエの世界で慣れてしまった山本の三人だけ。
「分かったわよ!」
僕のSOSに潔く手を差し伸べてくれた霧島・・・
「あのね林君、特にやましい事はしてません」
は?
「林君、私が誰とどうしようと関係ないって、卒業式の時言ったよね!?」
フォローになってない!それどころか、火に油を注いでる気がする!
「それは・・・」
でも、鷹哉はバツが悪そうにそっぽを向いた。
あれれ?霧島の言い方じゃ、僕と霧島の仲を誤解させそうじゃない?
それはまずい!!
「鷹哉、誤解だ。霧島、話がややこしくなるだろ!?」
「ややこしくしてるの。ねぇ林君、どうして関係ないの?」
「霧島!」
僕は思わず叫んでいた。
霧島の奴、どういうつもりなんだ?
「じゃぁ、私はこれで。松坂君、またね」
霧島はそう言って、僕達を残してさっさと家に帰ってしまった。

「・・・鷹哉、なんかあったのか・・・?」
暫く静まりかえっていたが、鷹哉がベンチに座ったので、訪ねてみた。
「卒業式にな。ちょっと」
「相変わらずだよな、二人とも」
「相変わらずは霧島の方だよ。懲りもしないてアレ持ってきて」
「アレ?」
「アレ」
鷹哉が口ごもったので直ぐに分かった。
ラブレターだ。鷹哉恐れられてるクセに結構貰うんだよな。霧島経由で。
「霧島は良いことをしてるつもりなんだろうね」
「人の気も知らねーで。ただでさえ四月から別の学校なのによ」
「学区が別れるんだよね」
鷹哉の家は道路を挟んで、北側にあるため、学校が違うんだ。
「なんで俺だけ・・・」
そう。霧島も山本も僕も一緒なのにね。
「でも、また遊ぶだろ?学校が離れてもあの頃の話もするし」
ドラクエの世界へ入った思い出だけは大人になっても忘れない。
その気持ちは中学に入っても、たとえ会えなくても同じじゃないか。
「お前ら三人一緒だろ?余裕ぶっこいてんなよ」
「ごめん、そんなつもりで言った訳じゃないよ」
「・・・分かってるけど」
僕は相田の事を考える。
相田恭子。霧島の友達で、僕達がドラクエの世界から帰ってきた後に告白された。
僕は霧島の友達だし、それに、断る理由なんてないんだけど、好きになる事がいまいち分からなくて、まだ返事をしていない。
相田の中学は鷹哉と同じ、北の中学へ通う。
いっそ霧島と相田が通う学校が反対なら、誰も悩まなかったかも知れない。
「いつそんな事があったの?卒業式の日、って全然気づかなかったよ」
「帰る間際だったしな」
卒業式は沢山の女子が泣いていたな。
学区が別れるだけで大げさだと思うけど、鷹哉も同じこと言うなんて、霧島のことになると真剣だな。
「鷹哉は霧島のこと、好きなんだろ?」
僕がそう言った途端、鷹哉の顔が真っ赤になった。
「お前、今、口に出して言ったな?」
「それくらい山本だって知ってるよ?」
「・・・口に出して言うな」
あ、そうでしたか。
「ごめん、ごめん」
鷹哉は思い詰めた顔をしている。
僕は鷹哉のこんな顔を初めて見た。鷹哉は僕にでさえ、相談してくれたことが無かったから。
「告っちゃえよ」
「やだね」
「霧島も鷹哉のこと好きだよ?」
「なっ!」
「鷹哉も分かってるんじゃないの?霧島のこと」
「霧島の行動は一生分からないね」
「女子のラブレターを持って来るなんて、お節介な所は霧島の良いところだよ。でも、それは、霧島がまだ自分の気持ちに気づいてないだけだと思うよ」
「・・・」
鷹哉が無口になる。
「鷹哉、変わったね。カナエの時は僕にこんな話、してくれなかったじゃないか」
そう、ドラクエの世界で、鷹哉とカナエは恋に落ちた。
霧島とそっくりなカナエは、しっかり者で、ドラクエの性格で言うと抜け目がない女の子。
霧島とは違い、自分に正直で素直な子だ。
「・・・そうだな」
鷹哉が素直に頷く。
なんとなくおかしくて笑いそうになった時、僕より一瞬先に鷹哉が口を開いた。
「・・・多分、誰かに話したくなったんだよ」
「え?」
「霧島のことをよく知ってる奴で、俺の友達・・・に。霧島があんまり馬鹿だから」
鷹哉は、馬鹿の部分だけ強調して言った。
「鷹哉、そんなに霧島のこと?」
「分かんねぇ。カナエの時もそうだった。何に惹かれたのか自分でも分かんねぇけど」
どうしてそこまで人を好きになれるんだろう。どうしてこんなに真剣に悩まなくちゃならないんだろう?僕には分からない。
「鷹哉、霧島じゃないと駄目なのか?」
「何だよ急に」
「だって、鷹哉はよくラブレター貰うし。霧島よりいい奴いないのか?」
鷹哉を想う女子は沢山いる。どうしてその子達では駄目なのだろう?どうして霧島なんだろう?
僕は相田を思い出す。
クラスで恐れられている僕達。相田は、どうして僕を選んだの?
「勇気、お前も変わったな」
「え?」
「ずけずけと」
「あ、ごめん」
鷹哉に言われて気がついた。僕はさっきから質問攻めをしていた。
「今度は俺からの質問なー」
「ええっ!」
「霧島と何話してたんだよ?」
「そ、それは・・・・・・・・・」
きた!やっぱり忘れてくれてるって思うのは甘かった!
「いつも一緒に遊んでる仲だろ?さっきだって一緒に喋ってたくせに、この話になると急によそよそしくしやがって!」
「ごめん」
勝兄ちゃんとの約束、破れない!
「霧島には聞いたって言わないから教えろよ」
「いや、こればかりは・・・」
「それとも、さっきの霧島じゃないと駄目なのか?って、まさか・・・」
「ち、違うよ!それは絶対に違う!霧島とは何でもないって!!」
やばっ!誤解されてる!?
「じゃぁ、俺に信用無いのかよ?」
「信用してるよ」
僕は鷹哉を信用できるから、話したいのはやまやまだけど、勝兄ちゃんからすれば、鷹哉は全く見知らぬ他人。
僕でさえやっとソフトで遊ばせてもらえる約束を取り付けたのに、それを人に喋るのはやっぱり言うとまずいんじゃないの?
「じゃぁ言えよ。それとも口先だけかよ!」
鷹哉は真剣に怒ってるみたい。
「霧島との約束とかじゃ無いんだよ。怒んなよ!別に何もないって!」
「何でもないことなら逆に言えるだろ!」
鷹哉は立ち上がり、僕の頭の高さまで足を上げた。
ひえ〜霧島、へるぷみー!!
「鷹哉変だよ!霧島のことでそんなにムキになるなんて!!」
「ちぇっ、分かったよ」
鷹哉は足を下ろした。
ほっ。
「知りたかったら霧島から聞いて。僕からは言えない」
鷹哉が僕を睨んだ。
うわっ、久しぶりに見た、マジ切れ!!
「勇気、お前とは絶交だかんな!」
鷹哉の絶交宣言!
僕の背中に電気みたいな衝撃が走った。今の言い方はマジだ!
「鷹哉!」
鷹哉は、僕が向いてる方向とは逆に向かって、どんどん歩いていく。どうしよう、本気で怒らせちゃった。
だってこれは勝兄ちゃんとの約束だし、男の約束は破れないよな?でも鷹哉は僕と霧島の仲を疑っていて・・・どうして?霧島との約束じゃないって、さっき言ったじゃないか!
僕は必死で謝る文句を考えた。だけどパニックで・・・あーもう、何も思いつかない!!手や体がカーッと熱くなって、今はまだ春先なのに汗が出てくる。僕はこんなことで鷹哉と絶交したくない!一体どうしたら・・・!
・・・とその時、鷹哉が悲鳴をあげた。
「鷹哉!?」
僕が振り返ろうとしたその瞬間、
「わぁぁっ!」
僕の体が光った。カバンの中から金色の輝き。
見ると、鷹哉のズボンのポケットからも光。でも、鷹哉のは白だ。
どうなってるんだ?考えてる間にどんどん光が強くなって、僕達はその光に飲み込まれた・・・。


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