第一章 失われた世界

― 神竜 ―

「痛ったぁー!」
僕は腰の辺りをさすりながら起きあがった。
「何だ?急に」
鷹哉も一緒だ。僕達は訳も分からず、辺りを見渡した。

闇。

どこまでも暗く、深い闇がそこにあった。
ここは一体どこなんだろう?
そう思った時、大きな翼のある何かが僕達を襲った。
「鷹哉!」
僕は咄嗟にカバンを振りまわした。
ガツン!
当たった!得体の知れない何かはどこかへ飛んでいった。
「勇気、大丈夫か!?」
鷹哉が走り寄る。
「うん、なんとか」
二人とも無事だった。それにしても何だったんだろう?あっちの方へ飛んで行ったよなぁ。僕が空を見上げようと顔を上げると、ふと、近くでかすかに光ってるものを発見した。
「鷹哉!」
僕は鷹哉を促し、その光に向かって走る。が、鷹哉に追い抜かれた。さすが、サッカーバカ。
「神竜?」
神竜だ。そう、スリーの世界で会った神竜。そうか、神竜!確か神竜のメダルを・・・。
僕はカバンの中を探してみた。あった!鷹哉も同じ事を感じたらしく、ポケットの中から神竜のメダルを取りだしていた。
僕達はスリーの世界から帰ってきた後、神竜のメダルを手に入れた。これはカンダタが僕達の「オルテガを生き返らせて欲しい」と言う願いの為に戦って、勝った証なのだ。
ゲームでは珍しいメダルが欲しいと言わなきゃもらえないし、まして僕達が元の世界に戻ってからもらえるなんて不思議なんだけど、現に今も手の中にあるんだ。
神竜のメダルは金銀銅の全部で三種類。僕は勇者だったから金、鷹哉が銀、もう一枚は山本が持っている。霧島は最後の戦いしか参加してないから、僕達で分けたんだ。
山本?そう言えば山本の姿が見えない。来てないのか。山本の事だから、身につけていなかったのかも知れない。僕は辺りを見渡したが、それらしい姿は無かった。
「神竜一体何があったんだ?」
ふと、鷹哉が叫んだ。僕が周りに見とれている間、鷹哉が神竜の元へ駆けつけていた。
さっきは気づかなかったけど、神竜の様子が変だ。黄金色の神竜は、大きな体を横たわらせ、小さく息をしている。体からは血と思われる液体が溢れてる。そうか!さっきの奴・・・。
神竜の目が僕を見つめ、
「ロトよ」と小さくささやいた。
僕のことだ。僕はぞー間を倒した後、ラダトーム王にロトと名付けられたんだっけ。
「神竜」
僕が神竜に歩み寄ろうとした時、どこからともなく聞き慣れた声がした。
「勇気ちん」
この声、この呼び方、忘れもしない、僕達のパーティーにいた遊び人のアルカだ。僕は振り返る。だけどアルカの姿はどこにもない。でも確かに聞こえた。
鷹哉も同じように感じているらしく、きょろきょろと辺りを見渡していた。
「勇気ちん、助けて」
まただ。
「アルカ?アルカだろ?どこにいいるの?」
「分かんない。でも、暗くて冷たいところ。カナエちんも一緒だよ」
「カナエも?」
どうやらアルカとカナエはどこかに閉じこめられてるみたいだ。でも、どうして僕達に声が聞こえるんだろう?
「勇気ちん、助けて」
「アルカ、何があったんだ?」
「よく分かんない。でも、力のある人はみーんな封印されちゃった」
「封印?」
鷹哉が難しそうな顔で僕を見る。きっと僕も同じ顔をしているだろう。
「神竜にね、お願いをした人がいたの。その人がね、こんな世界に」
「人?さっきの化け物じゃないのか?」
「化け物?分かんない」
「よく分からないけど、とにかく助けに行く」
「アルカ動けるのか?」
「ううん、動けない。氷漬けみたくなってる」
「だったら何で話せるんだ?カナエは?」
「分かんないよ。カナエちんも動けないし・・・話せないみたい。あたしもどうして話せるのか分かんない」
アルカは申し訳なさそうに言った。これ以上聞くと彼女が泣き出してしまいそうだ。
「鷹哉」
僕は鷹哉を促した。行こう、助けに!
「勇気、俺はまだお前を許した訳じゃないからな」
僕と勝兄ちゃんの内緒話を話さない以上、謝ることは出来ない。僕は、
「分かったよ」と、短く答え、神竜に近づいた。
「神竜、大丈夫か?」
声を掛けてやる。神竜は苦しそうに目を閉じている。僕は回復をしようとして、神竜の体に手をかざし、祈りを込めた。
「ベホマ!・・・あれ?呪文が使えない」
僕は鷹哉を振り返った。
「封じ込められてるのか?」
「ううん、使えないんだ」
僕は手のひらを見つめた。どうしてだろう?スリーではベホマズンまで使えたのに。
小首を傾げる鷹哉を余所に、僕は神竜にホイミを唱えてみた。
使える!
でもMPは直ぐに底をついた。神竜の傷はまだ癒えてないけど、これで少しは楽になったはずだ。
「神竜、暫くこのまま待ってくれよな。必ず助けに戻るから」
そう言って振り返ると、鷹哉がスタスタと歩き始めていた。
「・・・待てよ鷹哉。どこへ行くんだよ。手がかりナシで進んでも意味無いだろ。どんな所でどうなってるか考えるんだ」
「だって急がないと。考えたって無駄だろ」
無駄だけど・・・。
「分かったよ、鷹哉の言うとおりにする」
鷹哉は「むかつく奴」と一言呟いた。
「それにしても、ここはどこだろう?」
「暗いなぁ。でも神竜がここにいるんだから、神竜の神殿じゃないのか?」
「ううん、神殿なら階段があるはず。真っ暗で分かりにくいけど、家が見えるよ?」
僕の後ろに大きな建物があった。本当に家かどうかは分からないけど、町や村の様な気がする。
「家か。町か村かもな。少し歩いてみようぜ」
鷹哉も同じ事を考えたらしい。僕達は殆ど手探りで歩いた。
「真っ暗だけど分かる?」
「俺はドラクエの世界の町や村の形を覚えてるんでね。ちょっと歩けば分かると思う」
「すげー!」
そう、鷹哉も勝兄ちゃんに負けないくらいドラクエが好きなんだ。僕は一回遊んだら終わりにしてるけど、鷹哉は違う。かなりやり込んでる。スリーのモンスターメダルも全部持ってるし、裏データの本も読んでいて、メダルはスリーのモンスターだけではないとか言ってたっけ。僕にはよく分からなかったけど。鷹哉と勝兄ちゃんは気が合うと思う。霧島の奴、鷹哉の事を紹介してやればいいのに。
「勇気、手伝え」
「はいはい」
絶交だとか言いながら、何かと話に乗ってくれる。僕はチョットおかしかった。あ、ニヤニヤした顔・・・真っ暗で分からないか。良かった、バレないで。
「まず、ここに家か。勇気、この家の周りに看板か立て札が無いか調べるぞ。俺はこっちから。勇気そっちな」
「うん」
鷹哉は右手を壁に当てて進んでいった。僕は左手を壁にして進む。看板なら壁に彫ってあるか、頭上にあるはずだし、立て札なら下の方。躓いたりしないよう、慎重に歩く。
暫く・・・五分くらいかな?ゆっくりだったからもっとかかったかも知れないけど、丁度建物の裏側まで来たところで鷹哉に会った。
「あったか?」
「ない」
「じゃぁ、次の家だ」
鷹哉が振り返ろうとしたので僕は引き止めた。
「鷹哉、これも建物じゃない?」
「何?」
「ほら、僕の右横」
「それだけじゃ分からないな。他に目印になりそうな物は・・・」
鷹哉は今調べた建物を、僕が来た方向へぐるりと回った。
「勇気!」
「どうしたの?」
「これ、池だよな?」
「うん!」
本当だ。さっきまで建物の方ばかりに気が入りすぎて気づかなかったけど、大きな池がある。その池から真ん中にある小さな島に向かって大きな橋がかかっている。僕達は橋まで慎重に進んだ。
「いや、海だ!・・・って事は、ムオル?」
「ムオルってオルテガが訪れた村の?」
「まだ分かんねぇ。あの先まで行ってみよう」
僕達は小島の真ん中に建物があるのを見つけ、近くまで歩み寄った。ふと建物に触る。冷たい鉄が埋め込まれている。
「鷹哉、この建物、看板がある」
「どれ・・・」
鷹哉がその看板をゆっくり指でなぞった。そしてもう一度。
「やっぱり・・・道具屋だよなぁ」
僕もなぞってみる。道具屋ならキメラの翼のマークだったよね。でもこの看板は違った。細長い花瓶みたいな形だ。
鷹哉は何度もなぞって確かめる。
「いや、まさか・・・」
「どうしたの?」
僕にはさっぱり分からなかった。このマークが道具屋なの?
「勇気、いいか。一度しか言わないからな」
鷹哉の声から緊張している気配が感じ取れた。
「う、うん」
僕も緊張してきた。つばを飲み込んで、鷹哉の言葉の続きを待つ。
「ここは」
「ここは?」
随分長い間待たされたような気がした。なんだか嫌な予感がする。

「ラダトームだ」
「へ?」
僕はふいを突かれた。
「ったく、信じられねぇ事がよく続くよな」
鷹哉が呆れたように頭を掻く。
「うん。またドラクエスリーの世界に入っちゃうなんて」
「スリーじゃないぞ」
「え?」
僕は笑顔のまま止まった。だってラダトーム王に会った、あのラダトームじゃないの?
「勇気、さっきベホマが使えなかっただろ?」
「うん」
「気づかないか?ドラクエワンだよ。ベホマが無い。それに道具屋のマークは、ワン・ツーだけ、薬品を入れる瓶みたいな形をしてんだよ。スリーならキメラの翼」
「そう言えば!・・・でも、どうして?」
そんなバカな!ワンってドラクエの最初のシリーズだよ?僕はプレイしてから売って、ソフトを持ってないのに、何故入れたの?」
「さぁな。俺達の知らない何者かが動き出しているんだろ。俺達がここに来たとき襲ってきた奴。正体はだいたい掴めたぜ」
「じゃぁ、アルカ達は一体どこにいるんだろう?スリーならグリーンラッドかレイアムランドかな?なんて思ったんだけど」
「分からねぇ。でもここで考えても始まらない。ストーリーに沿って動くしかないだろう」
「あ、鷹哉!ワンならさ、カナエとアルカはあそこに居るんじゃないかな?」
「沼地の洞窟か」
「うん。あそこはローラ姫が閉じこめられてるし」
「勇気が勇者なら、ローラ姫はアルカかな」
「んな馬鹿な」
「冗談だよ。沼地の洞窟か。行ってみよう!・・・っと、まず武器とか買わないとな」
「お店開いてるかなぁ?それにお金とかどうしよう」
「じゃぁとりあえず王様の所へ行くか」


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