第一章 失われた世界

― 王様 ―

僕達は町中の建物を確認しながらお城へと進んだ。そうか、今気づいたけど、神竜はラダトームにあるお墓の辺りにいたのか。ここがどこか分かれば一感覚はすくに慣れた。
僕達はまずお城の門を確認する。人だ!門兵か。入れてくれるのかなぁ?駄目もと、話すしかないよな。僕は二人いる内の右側の人に声をかけた。
「あの、すみません」
「あ、あなた様はもしや・・・!」
右側の人が左側の人の体を突っつく。そして二人で僕の姿を舐めるように見ている。僕は鷹哉に助けを求めたが、鷹哉はニヤニヤ笑っているだけ。
「鷹哉!」
鷹哉はいつもの口調で「へいへい」と言って、二人に声をかける。
「こいつ、いくらで売れる?」
「鷹哉!」
「冗談だよ」
全く、何てこと言うんだ。
「こいつの顔に見覚えあるのか?」
「お前、無礼な!こっちへ来い!!」
「痛てっ、何しやがんだ。離せ!離しやがれ!!」
「た、鷹哉!!」
鷹哉は訳も分からず連れて行かれた。何があったんだ!?僕達は一体どうすれば・・・。

僕は鷹哉がどこに連れて行かれたのか気になった。一人で連れて行かれた鷹哉。一人取り残された僕。僕達は見知らぬ世界で離れ離れにされ、どうすればよいか分からなかった。
「無礼者は片付けて参りました!」
「片付けたって、まさか」
「ささ、お通り下さい」
まさか、殺したりしないよね?・・・ははは、やだなぁ。変なこと考えちゃった。鷹哉の事だ。捕まっても自力で何とかするだろう。・・・あ、でも天下一のラダトーム城だぞ、 警備は万全。・・・大丈夫かなぁ。
でも・・・一体どういう事だろう。
「あの・・・」
「あなた様はロトの血を継ぐ者、違いますか?」
「僕は、ロト・・・」って呼ばれているけど、この場合、何て言えばいいのかなぁ?時代が違いすぎてるのに、ロト本人では、やっぱまずいよね?
「おお、そうでしょうとも!わたくしが子供の頃からずっと読んでる書物に書かれてある人物そのもの」
「はぁ」
そっか。このおじさんが子供の頃以上に昔の話になっているのか。おじさんはとても嬉しそうに何か話してる。僕は上の空で何にも聞こえてなかったけど。
「さぁ、お通り下さい」
僕は少しためらったけど、鷹哉を助け出せるかも知れないと、城へ入った。


「ぶわっ、はっ、はっ!」
王様はのけ反って笑っている。鷹哉はかなりご機嫌斜めの様子。
あれから僕は、王様にきちんと説明したんだ。僕が異世界から来たこと、門兵に間違えられて、友達の鷹哉を連れて行かれたこと。そして、神竜に呼ばれて、また、この世界に来てしまったこと。王様は暫く僕の話を黙って聞いていた。僕はどう言ったら信じてもらえるか考えながら、とにかく一生懸命説明した。きっと納得はしてくれないだろうと、半ば疑いながらだけど。
でも、僕の話が終わった途端、王様は門にいた兵隊さんを呼んだ。暫くして鷹哉を連れて行った兵隊さんが鷹哉を連れて戻ってきた。
「ったく、気に入らねぇ」
鷹哉は赤い絨毯の上にあぐらをかき、腕組みした。おいおい、ここは王様の部屋だぞ。
「鷹哉と言ったな?すまぬ。門兵が失礼なことをした。許してくれるか?」
「さぁ、どうしよっかなぁー?」
鷹哉は座った姿勢のままで門兵を見る。門兵は真っ赤な顔をして俯いていた。鷹哉はアッカンベーをしていて、僕はそのやり取りを横目で見送り、王様に質問した。
「王様、聞きたいことがあります」
「ふむ?」
王様が僕に耳を傾けてくれる。僕はさっき疑問に思ったことを聞いてみた。
「王様、どうして僕の話を信じてくださったのですか?」
「ふむ。ロト、いや、勇気と呼ぶ方がいいのかな?勇気は異世界から来たと言ったじゃろう?ラルス五世、つまり、ロトの名付け親じゃが、その時のおぬしらの活躍が事細かく書かれておる書物が大切に保管されていてな。儂や、ここの兵どもはみーんな、この書物を読んで大きくなったのじゃよ」
さっきのおじさんだけでなく、王様まで?この王様よりも昔の話ってことは・・・王様は多分五十歳くらいで、ドラクエワンはラルス十六世の時代だから、えーっと
「約三百年以上昔じゃよ」
僕が答えを出すより先に、王様が教えてくれた。
「さんびゃくねん!?」
僕と鷹哉の声が重なった。びっくりしたー、そんなに昔の話だったのか。
「勇気よ。書物には『この城で宴を上げる頃にはロトとその仲間は居なくなっていた』と記されておるが、この時にはもう異世界に帰った後じゃったのか?」
「いいえ、神竜に会ってました」
「神竜とな?そう言えば先ほども、そちは『神竜に呼ばれた』と申したが、勇気は神竜の姿が見えるのか?」
「え?普通は見えないの?」
「なんと!やはり、見えるのか!」
なんだか会話になってるような、なってないような、そんな気分だが、王様は続けた。
「神竜は神の竜と書くじゃろう。神に認められた者しか見えぬのじゃ」
「神に認められた者?」
「そうじゃ。認められた者には必ず、一人に一つ、心に印(いん)を持っておる。おい、そこの者、印に関する書物を持って参れ」
心の印・・・か。
「なぁ勇気、神竜が見えないなら、この町に居るのを知らないんだろうな」
鷹哉も王様の話を熱心に聞いていたみたい。鷹哉に言われて気づいたけど、そうか、あそこに神竜がいるなんて、誰も気づいてないのか。
「心の印について調べよ」
なんだか偉い学者さんの様な人が出てきて、ページをめくっている。あ、見つけたみたい。
「心の印には、《勇》・《闘》・《知》・《夢》・《純》・《優》・《雄》の七つがある。この印を持った者だけが神竜に会えるのじゃよ」
「勇気は《勇》だな、勇者だから」
鷹哉が僕を茶化した。
「じゃぁ、鷹哉は《闘》」かな?他に当てはまりそうなものが無いもん」
「ま、そうだな」
「おうおう、話の腰を折ってしもうて済まなかった。神竜に会った後、どこへ?」
「はい、あまり覚えてないのですが、僕達の世界へ戻ってました」
「そうか。勇気はロトの子孫ではなく、同じロトの者か。かつて世界を平和へ導いたロトなら、世界を。あるいは・・・」
「王様、この世界に何が起こったのですか?」
「うむ。何者かが光の玉を奪取し、この世界に魔物の封印を解きはなったのじゃ」
「それって・・・」
僕と鷹哉は顔を見合わせた。
この世界に来たときにぶつかった、翼の生えた、何者かの仕業?
「闇が広がったのはそのせいじゃ」
「王様、ローラ姫は?」
鷹哉が静かな声で訪ねた。
暫く静まりかえり、王様は静かに答えた。
「知っておったのか」
肩を落として首を横に振った。
やっぱり!本当にワンの世界だったんだ!
王様は明るい人だし、ローラ姫がさらわれたなんて態度は、微塵も見せなかった。だから凄く疑っていたんだ。もしかしてここは、ワンではなくて、全く別の空想世界なんじゃないかって。
「儂とてこれでも王なのじゃ。儂が元気な姿を見せんと、国は滅びるばかりじゃ。じゃが、そんな時にそちが訪れてくれた。そちこそ我がラダトーム城の希望!」
そうか、王様は国のことを考え、黙っていたんだ。
「勇気よ、鷹哉よ。どうか、どうか我が愛娘、ローラを助けて下され」
王様は玉座から降りてきた。そして僕達の前で王冠を取り、土下座をした。
「王様、おやめ下さい。わたくし共が頭を下げます。この通りです。勇気様、鷹哉様、どうか姫君を!この通りです!!」
一人の兵が王様と並んで頭を下げた。
どうしよう、大人の人にここまで頭を下げられるなんて思わなかった。僕達はどうしたらいいか、少し悩んだ。
王様の姿を見て、僕は思い出したことがある。
 スリーの世界へ入った時のオルテガは、僕の本当のお父さんとそっくりだった。僕が想像したより、はるかに太っていて、格好悪い人だった。でもオルテガは僕を命がけで守ってくれた。僕オルテガに教えて貰ったんだ。たとえ、どんな理由で離れて暮らそうとも、親は子の事をいつも考えてる。そして、外見やプライドでは子供を守れないということ。僕はそんなオルテガが好きだ。格好良いと思った。きっと目の前に頭を下げている王様もオルテガと同じだ。いや、王様は自分で戦えない。それに姫も。それだけによっぽど心配に違いない。なのに、国民の前では王を務めなくてはならなくて・・・。どんなに心配していただろう。どんなに心細かっただろう。僕は胸が熱くなった。
ふと、鷹哉は立ち上がった。暗い表情で、小さく息を吐く。僕も立ち上がった。きっと僕と鷹哉は同じ気持ちだと思う。目を合わさなくても、次に取った行動が全く同じだったから。


僕達はマイラの村を目指して歩いていた。王様から銅の剣と布の服、そして皮の盾をもらった。僕としてはもっと強い武器が欲しかったんだけど、戦い慣れていないためか、鎖かたびらや鉄の斧は、残念ながら重たくて持てなかったんだ。城の兵達に聞くと、初めはみんなそうで、体を鍛えながら自分に合った装備を調えていくやり方が正しいらしく、王様はその僕達にあった武具と、旅に必要な食料、魔法の鍵六つと、お金をくれたんだ。
「魔法の鍵六つ?」
「まぁ、六つだろう」
鷹哉はニヤニヤ笑った。何故六つなのか、鷹哉は知っていたみたいだけど、僕には分からなかった。まぁいいか。
「このお金でみかがみの盾買えるかな?」
鷹哉がお金の入った袋を指した。
「みかがみの盾って、何円?」
「円じゃないだろ。一万四千八百ゴールド」
「げっ、高っけー!」
「王様からもらったお金、何ゴールド?」
「えっと、一万ゴールドあるみたい」
「じゃぁ、全っ然、足りねーな。王様もケチだなー」
実際にドラクエの世界で動いてみると分かる。王様が初めにあまりお金をくれないのは、体を鍛えなきゃならないからだ。お金が有れば楽できるし、でもその分、体を鍛えられないから強い武器が持てないんだね。僕は一人でそうやって納得した。
「でも鷹哉、あと四千八百ゴールド、半分切ってるよ?充分じゃない?」
「あのなぁ、いいか勇気。マイラまでに出てくるモンスターは、スライム、ドラキーみたいな雑魚ばかりで、マイラ付近のまほうつかいは十六ゴールド、メイジドラキーマ二十ゴールド。がいこつでさえ、四十ゴールド。手に入る額はこれっぽっちなんだ。つまり、がいこつがえーっと」
鷹哉が計算しようとしている。こういう事だけは細かいなー。
「百二十匹分」
僕が先に答えると、鷹哉は頷いて続けた。
「そう、みかがみの盾はメルキドにもあるけど、それまで上手くゴーレムが出るとは限らないし、もし出なければ百二十回も戦わなくちゃならないんだぞ。ローラ姫を助けるほかに、カナエ達も助けなきゃならない。そんなに悠長にしてられっか」
「だけど仕方ないよ。ワンでは最初にもらえる額は百二十ゴールドのはずなのに、こんなに貰ったんだよ?それともあの王様にもっと下さいって言うの?」
「・・・」
あ、黙っちゃった。
僕達はだんだん無口になっていた。今の会話が終わっちゃった事も原因だけど、霧島の事でも揉めてるし、空が暗いから何となく気持ちも沈んで。もう、どんな会話も楽しくなくて・・・。


王様は涙を流していた。ローラ姫が心配なのと、多分、僕達が現れた安心感から。僕達は王様の側へ寄った。王様の近くに行くなんて、本当は失礼だろうって思ったけど、王様を元気づける方を優先した。僕達は王様に、オルテガの話をした。そして、王としてではなく、一人の父親として頭を下げたことに感動したことも伝えた。すると王様は少し落ち着いた様子だった。
 僕達はローラ姫を助ける約束をした。勿論、安請け合いなんかじゃない。本気で助けたいと思った。もう僕達はドラクエの世界に入れたことを喜んでいる暇なんてなかった。


僕達はまず、ガライの町へ行った。王様にもらった鍵でガライの墓に入り、銀の竪琴を手に入れた。その後直ぐにマイラへ向かう。
途中、スライムやドラキーが沢山出てきたけど、クラスでボスざるの僕達は、コレ程度の雑魚を片付けるには物足りなさを感じた。でも、あの翼の生えた大きなドラゴンを相手にする力があるのか、今の僕達には見当もつかなかった。


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