第二章 囚われたローラ姫

― 毒の沼地 ―

僕達がマイラの村に着くのに、大した時間は掛からなかった。出てくるモンスターは雑魚ばかりで、ゾーマを倒した経験のある僕達にとっては余裕でやっつけられた。鷹哉も一緒で心強いし、二人とも大した怪我もしていない。ただ、僕達の間に大きなわだかまりがあって、空気が時々重苦しく胸を痛めた。

 僕はまず、温泉に入り、汗と泥を落とした。もう何日も風呂に入っていない気分だ。鎧を脱ぐときに汗くさい匂いが僕を襲った。う、臭い。皮の匂いと混じって、吐き気がする。温泉から出た後、まず、今まで倒してきたモンスターから奪ったお金と、今持っている武器を売り払ったお金でくさびかたびらと鉄の斧を買う。戦いで稼いだお金だけでは足らず、王様から貰ったお金を少し使った。あれはみかがみの盾を買うお金なんだけど、この武器はもう、刃こぼれがあるし、錆びて使い物にならないから、仕方ないよね。防具もモンスターの爪とかでボロボロ。明日からはくさりかたびらを装備しよう。よし、これで皮臭い僕からおさらばだ。
 そう言えば、鷹哉は村中を探索してるみたい。温泉に入ったときは一緒だったんだけど、その後はどこへ行ったんだろう。姿が見えない。ふと、僕は妖精の笛の事を思い出した。「ストーリーが分かってるんだから利用しないと」スリーの世界で行った鷹哉の言葉も同時に思い出す。そうか、あそこに行ったんだ!僕は妖精の笛のありかを目指した。

いた!思った通りだ。鷹哉は妖精の笛を探していた。
「鷹哉」
「あぁ」
鷹哉は僕を一瞬だけ見て、また草むらに視線を落とす。思ったより探すのが大変なんだな。僕は鷹哉を手伝うことにした。
「鷹哉どこを探したの?」
「ここと、ここ。あと、そっちの草むらも。おかしいなぁ、どこを探してもないんだ」
「リムルダールで話を聞かなきゃ駄目なのかな?」
「いや、ゲームでも、先に手に入れることが出来たはずだ。現に、カンダタの黒こしょうとか、上手くいったし」
「そうだけど」
その時、僕はふと思った。
「鷹哉、もしかして土の中なんじゃない?」
鷹哉がハッとして土を掘る。
「あった!」
「すっげー!勇気!」
「うん、何となくね」
鷹哉は土の中から小さな木箱を取りだした。その木箱は、僕の家にある高級タンスと同じ様な木で出来ていた。着物を入れる、あのタンスだ。
「さっそく開けてみよーぜ!」
鷹哉がそう言うので、僕は木箱のふたをそっと開ける。
「わぁっ!攻略本で見たやつと同じだ!」
「まじ?すっげー、勇気、触らせろ!」
鷹哉は手を出して気づく。手が泥だらけだ。
「洗ってくる」
と、一言言い残し、姿を消した。鷹哉ってこういう趣味の部類に入ると律儀なんだよな。忠実というか、クラスメイトがこの姿を見たら、驚くだろうな。
「勇気、貸して!」
鷹哉は戻って来るなりそう言い、目を輝かせ手に取った。
「これ、俺が持ってていい?」
「いいよ」
本当、これなんだから。

僕達はその後、宿に泊まった。ゲームと同じで十二ゴールド、と思っていたけど、二人なので二十四ゴールド取られてしまった。でも、暖かいスープが付いた夕食と、個室にふかふかのベッドが用意されていて、僕達はそれだけで充分満足できた。
「スリーのときは、こんな待遇なかったよね」
「ベッドは大部屋に他の泊まり客と一緒で」
「そうそう。トイレとかも部屋の外。電気が無くて真っ暗だった」
「アルカが夜中にカナエを起こすんだよ。「カナエち、こわーい」とか言って」
「へー知らないや。そうだったの」
「そう。勇気はいつも熟睡だったからな」
「そっか。じゃぁ、ここならアルカも大丈夫だね。・・・ねぇ鷹哉、アルカと言えばさ、スリーの世界とこの世界はどういう繋がりなんだろう?」
「うーん、ロトの子孫って言うぐらいだから、スリーの方が大昔だろうな」
「だよね。今ラルス十六世で、スリーの時のラダトーム王は五世、その間約三百年。僕達が行ったアリアハンや地球のへそは、ずっと昔になるのかな?」
「や、考えてみろ、アリアハンにいたオルテガの子供がロトだぞ。そのロトがゾーマの作り出した空間に飛び込んだんだ」
「その空間の先がラダトーム大陸?じゃぁ、ここは異世界?それとも次元の歪み?」
「うーん、次元の歪み?」
「でも歴史は繋がっている、と。・・・不思議」
「頭痛て〜」
鷹哉は頭を抱えて笑った。
僕達は喧嘩していたことも忘れて、今までの出来事を懐かしく思い出し、夜更けまで騒いだ。

 次の日、簡単な朝食が出された。育ち盛りの僕達は、パンとミルクのお代わりを三回もして宿を出た。
朝・・・と言ってもかなり暗い。昨日の夜から今朝まで明るさは変わらなかった。だから、本当に朝なのか分からないけど、とにかく僕達は沼地の洞窟に向かって急いだ。
「鷹哉、こっちだ」
「うん」
沼地まで来たのは良かったんだけど、やっぱり沼地に足を踏み入れるには、かなりの勇気が必要だった。
「次ここ」
僕は短パンで素足の鷹哉に、沼の浅い所を教えながら進んでいる。だけど鷹哉、僕だって辛いんだぞ?鎧に泥が入って足が重い。二人とも限界まで来そうなとき、洞窟の入り口を見つけた。
「鷹哉!あそこ」
「入り口?やりぃ!」
洞窟を見つけた途端、自然と足が速くなる。沼は入り口からまだ少し続いていたけど、何とかたどり着いた。
「やった!・・・はぁっ」
沼が途切れた途端、僕達はひっくり返った。沼って歩くのが大変だ。体力がかなり消耗したためか、二人とも暫く伸びて動けなかった。
「勇気ちん」
ふと、アルカの声が聞こえる。
「アルカ?」
僕達は上半身だけ起きあがり、辺りを見渡した。
「どこにいるんだ?」
「分かんない」
でも、アルカの声が前よりも大きく、ハッキリ聞こえる。間違いない。ここに囚われてるんだ。鷹哉もそう思ったらしく、立ち上がった。
「やっぱりローラ姫はアルカなんじゃねぇ?」
鷹哉は、そう言って先を急ぎ、僕も後からついて行った。

鷹哉が先を歩くには訳がある。勇者よりヒットポイントが高いとかではなく、道に慣れているから。僕にはちょっと方向音痴の気がある。それに比べ鷹哉は、ドラクエを知り尽くしているため、迷わずに目的地まで連れて行ってくれる。こんなだから方向音痴がなかなか治らないのだけど。
「勇気、鍵」
「う、うん」
この奥にいるのは間違いない。ただ、この扉を開けるとドラゴンがいるはずで・・・。
「開けるぞ」
どんな大きさなのかは想像つかない。
僕達は目を合わせて頷いた。
 出た、ドラゴンだ!僕の二倍以上の大きさ。天井を突き破りそうな高さ!
「勇気、いくぞ!」
「うん」
戦闘が始まった。普通ならここで戦闘シーンの曲を鼻歌で一緒に歌いながらコマンドを入力するはずだけど、今は現実。音楽は鳴ってないし、鼻歌歌う余裕もない!鷹哉が素早さでドラゴンを攪乱した。僕はその隙にドラゴンの頭めがけて飛び上がる。駄目だ、届かない!ドラゴンの胸の辺りで斧がはじかれる。なんて固いんだ!
「勇気、尻尾だ!」
僕は言われるがままに尻尾をめがけて斧を振り落とした。“ザン”と重たい音がして、尻尾を、ほんの先だけど切断した。
「やった!」
だけどドラゴンはそれを合図に暴れ出した。血が噴き出し、辺りが血まみれになる。僕達は長い戦いでこんな気持ち悪いことに慣れてしまっていた。血を浴びても怯まない。
「でぇぇぇい!」
鷹哉が飛び上がり、顔面にキックを入れるが・・・効かない!?鷹哉のキックはドラゴンの頭を振り向かせるだけにしか至らなかった。それでも鷹哉がしがみつき、ドラゴンを押さえつけた。
「ナイス鷹哉!」
僕は倒れ込んだドラゴンの額に斧を振りかざした。ドラゴンは苦しみ、暴れる。壁が崩れ、鷹哉が振り落とされた。
「鷹哉!」
駆け寄ってみると鷹哉は脂汗をかき、苦しんでいる。
「どうしたんだ一体!?」
僕に考える余裕も与えず、ドラゴンは襲って来る。僕は鷹哉を抱え、後ろに飛び跳ねた。火事場の馬鹿力とはよく言うもんだ。
「だぁっ!」
考えている暇はなかった。改心の一撃でドラゴンに止めを刺し、気を休める暇もなく、鷹哉の元へ戻った。
「鷹哉?大丈夫か?鷹哉!!」
どうしたらいいんだろう。鷹哉は苦しそうで、言葉も出ないみたい。僕がパニックになっているとき、奥の扉が開いた。そうだ、カナエならなんとかしてくれるかも!
僕が顔を上げると、ドレスを身にまとった女の人が出てきた。
「・・・!?」
カナエかと思ったけど、違うと直ぐに気づいた。
「松坂君、どうしてここに?」
その人物は紛れもなく僕の幼なじみだった。


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