第二章 囚われたローラ姫

― 銅のメダル ―

  鷹哉は毒の沼地で毒に犯されていたらしい。足が腫れ上がっていたのだ。これに気づいたのは僕ではなく霧島。霧島は冷静に僕達を見て、早急に奥の部屋に入れてくれた。チョロチョロと岩から流れる水で、鷹哉の足を洗った。そして霧島はドレスの裾を引き裂き、二枚の端布を作った。
「松坂君、これで足を縛って」
端布を渡され、僕は霧島の指示通りに鷹哉の足を縛った。霧島はもう一枚の端布を水に浸し、固く絞り、鷹哉の汗を丁寧に拭いていた。
「でもどうしよう、毒消し草なんて買ってこなかったし」
「無理、どこにも売ってないわよ。ワンでは毒消し草必要なかったし」
だったら鷹哉は・・・。
「勇気ちん」
「あ、アルカ!?」
そうだ、ここにアルカ達はいないのだろうか?
「松坂君、さっきの声誰の声?」
「あ、そっか、知らないよね」
僕は霧島にアルカとカナエがスリーの世界で仲間だったことを簡単に説明した。
「ふーん、スリーの時の仲間なのね。そう言えば、この奥に隠し階段があるの。怖くて冷たい所だから、私は入ったこと無いんだけど」
「へぇ、霧島でも怖いと思うことあんのか」
「ちょっとどういう意味よ!松坂君ってば、林君に似てきたんじゃない!?」
霧島にそう言われて、やべっ、と首をすくめた。成る程、似てきたかも。
「この奥が暗くて冷たいんだね、ここにいる可能性ありか」
アルカは氷漬けみたいになってると言っていた。行ってみる価値、ありだ。もしカナエがいたら、前職僧侶の力だ、キアリーをかけてもらえる。
僕は鷹哉を霧島に預け、一人で階段に向かった。成る程、壁が凍ってる。冷たい、ね。ゲームに無かった暗くて冷たい地下道を歩く。良かった、一本道みたい。周りにたいまつが置かれ、火の光でボウッと明るかった。 ちろちろと、多分氷だと思うけど、その氷が溶ける音がしていた。ふと突き当たりが見えてきた。僕はたいまつを一本手に取り、壁へとかざしてみた。そこには、カナエとアルカの姿があった!
僕は恐怖でたいまつを落とした。まさか本当に氷漬けになっていたとは!
「勇気ちん?」
「ア、・・・アルカ?一体これは・・・?」
声にならない喉を宥め、なんとかアルカに問いかけることが出来た。
「勇気ちん、来てくれてありがとう。神竜のメダル持ってる?」
「う、うん、あるよ」
僕は震える手で神竜の金メダルを取り出す。本当に目の前のアルカが話してるのか?
「それを光にかざして」
目の前のアルカは、目を閉じたままで血の気が無く、像の様だ。僕は言われるままにした。落としたたいまつを拾い上げ、メダルをかざす。メダルで反射した光が氷に当たった途端、もの凄い勢いで蒸気が噴き出し、気づけばカナエとアルカが折り重なるように倒れていた。
「カナエ!アルカ!」
二人はとても冷たかったが、脈はあるみたいだ。僕はカナエを抱え、さっき来た道を戻った。一人ずつじゃないと無理。しかも今鷹哉もピンチなんだ。先にカナエを助けるけど、ごめん!心の中でアルカに謝りながら、運んだ。

僕がアルカを運び込んだとき、霧島はカナエの手当を丁度終えた様子だった。
「恭子ちゃん!?」
「違うよ。この子がアルカ」
「そうなんだ・・・」
「そっくりだから驚いちゃった」
「霧島、カナエの方は何とも思わないのか?」
「え?」
「カナエは霧島にそっくりだろ?」
「やっぱりそう思う?何となくね、そう思ったんだけど、自分のことはよく分からないというか」
霧島はてきぱきと手当をし終えた。
「いや、そっくりだよ。鷹哉が最後までカナエを名前で呼んでなかったぐらい」
「えっ?」
僕は言ってしまってから後悔した。しまった!!鷹哉に怒られる!!
「林君、そこまでして私のこと・・・」
「あ、霧島、あの」
「嫌いだったのかな。・・・卒業式のときも、」
え?嫌われてると思ってる?卒業式に何かあったの?僕は続きを待ったけど、霧島は何かを言いかけて、やめた。
「鷹哉がどうかしたの?」
「あ、うん、林君ね、多分、もう、大丈夫よ」
ん??霧島の様子が少し変だ。
「どうかしたの?」
「え?あ、ちょっと。あの・・・」
そう言って、霧島は深呼吸をして一気に続けた。
「毒を吸い出したの」
そして奥の部屋に入ってしまった。
そっか。毒吸い出してくれたんだ〜。え、あの霧島が?鷹哉の足の毒を!?僕は何となく恥ずかしくなり、暫く霧島と話せなかった。

どれくらい経ったのか、僕は眠っていたらしい。ふと気づくと話し声が聞こえる。
「そうなの。乱・暴・者よ!それでついたニックネームがなんとヒババンゴ!」
「ヒババンゴって何ですか?」
「えっとねぇー攻略本・・・あった、これ!」
「きゃはは、鷹哉ちんって、酷い顔〜!」
どうやらカナエもアルカも元気そうだ。良かった。僕は安心して、再び眠りについた。

僕がもう一度目を覚ますと、丁度霧島がおでこに冷たい物をあててくれたときだった。
「あ、霧島」
「大丈夫?松坂君」
「うん、もう大丈夫みたい。鷹哉は?」
「起きてるよ」
霧島が指す方へ行くと、鷹哉はカナエ達と団らん中だった。
「鷹哉!!」
「おい勇気」
思わず飛びついた僕を、鷹哉が引き離す。
「大丈夫だって。それより勇気こそどうなんだ?一人でドラゴンをやっつけたんだろ?大丈夫か?怪我してないか?」
「うん、うん」
僕は何度も頷いた。良かった。本当に良かった。
「みんな無事で良かった !」
霧島がまとめた。
「あ、改めて紹介するよ」
「大丈夫、情報交換は済んだの」
「何を話したんだよ」
鷹哉が霧島を睨んだ。
霧島は、それを見ていて、わざとツンと澄ました。
「そりゃー女同士で色々と。ねー」
ねーの部分は霧島、カナエ、アルカの三人がハモった。うわーちょっと怖え〜。
明らかに鷹哉は固まっていた。けど、僕も多分、固まってたと思う・・・。

「問題がある」
僕は疑問点を並べてみた。椅子が人数分無かったので、みんなは地べたに座っている。僕達は円陣を組んだ。
「まず、霧島!・・・何故ここにいる?」
「んー、よく分からないけど、連れ去られたのよ。私って可愛いから」
「自分で言う馬鹿」
鷹哉の茶々が入った。
「神竜のメダルで入ったのか?山本と一緒に来たのか?」
「あ、神竜のメダルが原因だったのかー。私、山本君から貰ったのよ。私の方がドラクエ好きだし、山本君が私が持ってる方がいいって言って」
「とか何とか言って、奪い取ったんじゃねーの?」
また喧嘩。
「違うわよ!誰かさんじゃあるまいし!」
あぁ、この痴話喧嘩、一体どうすれば・・・。
「鷹哉さんって、和歌奈には容赦ないんですね」
「・・・」
鷹哉が黙った。ナイス!カナエ!!・・・いや、 でも、これ以上勘弁な、マジで。
「えっと、霧島、続き聞かせて」
「・・・」
霧島まで黙ってるし・・・。
「霧島?」
「あ、ごめん。えっと、この世界へ入ったとき、ローラ姫って呼ばれて、その瞬間にさらわれて、気づいたらここへ」
「もしかして翼のあるドラゴンじゃない?」
「あーうん、そうだったかなー。暗くて分からなかったけど」
「じゃぁ、とりあえず霧島の方は置いといて、次、・・・アルカはどうやって僕達に話しかけていたの?」
「え?何それ」
「アルカ覚えてないの?」
確かに鷹哉も霧島にも聞こえたアルカの声だったが、アルカ自身は何も覚えていなかった。
「覚えてないなら仕方ないね。さて、じゃぁ どうしようか。ラダトームに戻る?」
「やだ!帰りたくない。ローラ姫連れたままでも冒険出来るじゃやない!」
「霧島が相手じゃ、連れて行きたくないね。帰れ、帰れ!!」
鷹哉は霧島をしっしっとやった。またか・・・。
「っるっさいわね!!あんたこそ帰りなさいよ!」
「だー!!もうやめろよ二人とも!!」
僕はついに二人の間に割って入った。
「俺に何か文句あんのかよ!」
鷹哉は膝を立てた。ほらやっぱり絡んできた・・・。
「鷹哉さん、いつもと様子が変ですが、何かあったのですか?」
カナエがズバリ聞いてきた。知らぬが仏と言う言葉があるけど、この場合は藪から蛇という感じだ。
「別に。今勇気と俺は絶交中だから。勇気は俺に指図する権利なし!」
鷹哉は座り直して少し後ろに下がり、壁にもたれた。
「林君、まだ怒ってるの?呆れた」
霧島はいつもの事よと、カナエ達に伝え、話しを元に戻した。
「だけど霧島、ラダトーム王、かなりショックを受けてたよ?」
霧島は少し俯いて、寂しそうな顔をした。 う、そりゃ、霧島の身になれば、ついて行きたい気分も分からなくはないけど・・・。王様のこともあるし・・・。鷹哉は本気で帰れって思ってるのかな?僕はチラッと鷹哉を振り返った。鷹哉はずっと霧島の寂しそうな顔を見ていた。・・・そうか、そうだよな!
「あ、いいじゃん霧島!やっぱり一緒に行こう!」
僕は思いきって言ってみた。鷹哉はいつも霧島の意見を否定したいから、自分からは言い出しにくいんだ。
「でも・・・」
「 ・・・勇気が言うならいいんじゃないの?どうせ言っても聞かねぇだろ。だけど、俺は一応帰れって言ったから、何があっても知らねぇから」
鷹哉がそういうと、霧島の顔がぱぁ〜と明るくなった。はいはい、僕のせいにしたい訳ね。いいよ、これぐらいなら。
「じゃぁ、決まりですね。和歌奈さん、よろしくお願いします」
カナエが手を出した。霧島もアルカも手を出して、三人で奇妙な握手をした。
しかし、帰れとか言いながら、結局そばに置いときたいんじゃないか。・・・鷹哉、何があっても知らないぞ?


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