第三章 虹のしずく

― 伝書鳩 ―

「やぁっ!」
リカントに向かって剣を振るう。
ミスッた!
すかさず霧島がメラを唱える。
ボウッと火がつき、リカントが大きく腕を振る。そしてそのまま霧島に向かって突進してきた。
「やっ!」
鷹哉は僕よりも遠い位置に。でもこのままじゃ間に合わない。
僕は火だるまになったリカントに体当たりした。霧島を庇う方法はこれしかない。
「!」
僕もリカントも火だるまに・・・
「ヒャド!」
アルカの声で、僕は何とか火だるまにならずに済んだ。
「ギラ!」
霧島がすかさず奴に呪文を唱える。リカントは破れ、女の子達がホッとため息をついた。
「松坂君!」
誰よりも早く霧島が駆け寄り、僕の体を起こしてくれた。こういう気が利くのは確かに霧島だなと思った。
「勇気さんの傷よ、ふさがれ!」
カナエがホイミを唱えてくれて、僕の傷は塞がった。
「勇気さん、無茶です。何でも一人で片付けようとするなんて。もっと仲間の力を信じてください」
「今のは俺が走る方が早かった」
鷹哉が呟いた。そうか、そうだったかもな。
僕と鷹哉はまだ仲直り出来ずにいた。カナエ達がいると普通に話せるのに、いや、普通とは癒えないかも知れないが、特に今のような戦いの時は、考え事のせいで判断が悪く、反応が鈍い。こんな戦いをもう何度繰り返しただろうか。
「ごめん、次から気をつけるよ」
「ね、さっきアルカってばヒャド使えたじゃない?」
霧島が気を使ってか、話題を変えてくれた。
「うん、私、ヒャド使えるよ」
「そうじゃなくてね、この世界の攻撃呪文はギラ系しかないのよ」
「そう言えば俺がここに来たとき、勇気の奴、ベホマが使えなかったのに」
「本当?じゃぁ、どういうことなのかしら」
「原因は分からないけど、未来の世界で使える呪文は、アルカのお陰かもな」
「すっごーい!」
霧島が和ませてくれているのは分かってるんだけど、僕はとても、どんな話題にも乗る気にはなれなかった。

僕達はリムルダールに着いてから、早速ラダトーム王に手紙を書いた。霧島、いや、ローラ姫の無事と、リムルダールに来ていることを書いた。伝書鳩の使用量は高かったけど、仕方ない。
「とりあえずここが休憩場な」
町の中央に誰でも座れるように作られたテーブルと椅子があり、僕達はそこに全員腰掛けることが出来た。
ローラ姫・・・霧島を助け出したお陰でロトのしるしも手に入った。戦えるメンバーが増えたお陰で僕達の冒険はかなり楽になり、重要アイテムをどんどん手に入れていった。その後、僕達は竜王の城へ行くための武具を買いに行った。この時代の武器屋には、女性物が無い。カナエ達は魔法の鎧や鉄の盾を器用に細工し、自分達に合った武具を作った。
「なぁ、カナエ達はどうしてあそこに閉じこめられてたの?」
「そう、それ!俺も聞きたかった」
簡単な食事を取り、一息ついたところで雑談になった。
「それがよく分からないんです」
「分からないって?」
「勇気さん達がゾーマを倒した後、ギアガの大穴は同時に封印されたと聞きます。あぁ、勇気さん達は、もうここに戻ってこられないんだと感じました」
「やっぱり大穴は封印されたのか」
「はい。その後、私はアリアハンに戻ってきたのですが」
「聞いて聞いて!オルテガさんが生きていたのよ!」
「うん・・・知ってる」
「やっぱり、知っていらしたのですね」
アルカが少しつまらなさそうに頬を膨らませた。が、カナエは感が当たったと喜んだ。
「で?」
鷹哉は話しの続きを促した。
「はい。オルテガさんが帰ってらして、その後です。急に辺りが闇に覆われました。私達が町の人を避難させようと起ち上がったとき、力を封じ込められたのです」
「そう言えば、アルカ、誰かが神竜に願い事をしたとか言ってたよな」
「え?そうだっけ?」
「これも覚えてないか」
「うん、ごめんね」
アルカが氷漬けになっていた時、どうして僕達の心に話しかけることが出来たのだろう。それに、神竜に戦いを挑んだのが何者か分からないけど、どうして挑んだ者がいた事を知っていたんだろう。そして、それを、どうして覚えていないんだろう。アルカについては疑問だらけだ。
会話が一段落付いたところで、カナエが立ち上がった。
「和歌奈、買い出しに行 かない?」
「お買い物?行く行く!」
二人はそう言って、出かけてしまった。
「ねぇ、カナエちんと和歌奈ちんって、すっごく仲良いんだよー」
僕と鷹哉が何も話さないから、多分、アルカなりに気を使っているのだろう。
「アルカだって仲良いだろう?」
「ううん、あの二人はちょっと違うよ。顔見合わせて急に笑ったりするし。鷹哉ちんが何か喋った時とか」
「・・・」
何か、嫌な予感がする。
「カナエちんは、鷹哉ちんが好きでしょー。和歌奈ちんも鷹哉ちんが好きでしょー。じゃぁ、鷹哉ちんは?どっちが好きなの?」
「来た」
鷹哉は短く吐き捨てたように呟いた。
「そっくりだけど、性格は少し違うから、どっちもは無しねー」
ははは、さすがの鷹哉も今回ばかりは参った様子。ふと周りに目をやると、霧島とカナエが楽しそうに笑いながらこちらに向かって歩いてくる。
やば!!
「そ、そう言えばさ!アルカは買い物に行かないの?」
僕は必死になってしまった。
「今は鷹哉ちんと話してるの!」
アルカにピシ!っと言われて、僕は黙ってしまった。霧島はもう鷹哉の背後にいて・・・。カナエも霧島も、 今のアルカの言葉で静まりかえってしまった訳で・・・。
「カナエちんと別れたんだったら、和歌奈ちんが好きなんでしょー」
「るせー。誰があんな男女!」
「誰が男女ですって!?」
鷹哉は振り返り、一瞬止まったが・・・売ったつもりのない言葉だが、もう売れてしまったからしょうがない。
「 ・・・お前の事だよ」
「そ、いいわ。松坂君、これどうぞ!」
「え?」
霧島は僕に一つの袋をくれた。
「中は薬草よ。怪我したら使ってね」
あれ?いつもの喧嘩が始まると思ったのに、拍子抜けだ。霧島はあまり気にしていない様子で、買ってきた商品をテーブルに並べた。
「林君には、これね」
鷹哉にも一つの袋を渡した。鷹哉は黙って受け取った。
「林君は一応武闘家だから、素早さの種がいいと思って。そこのよろづやに売ってたのよ。ゲームの中で買えない物でも買えるなんて、現実は便利よね」
「あれ、和歌奈ちん、ドレス着替えたの?」
「うん、一応、動きやすい服にしたの」
「似合うよー」
アルカに言われるまで気づかなかった。霧島はドレスからズボンに着替えていた。こんなに服装が違うのに、全然気づかなかったー。
「鷹哉、みかがみの盾、遠ざかったね」
「いいよ。ロト物あるし」
言葉が短いのは僕との喧嘩のせいか、アルカのせいか、それともやっぱり霧島のせいか・・・。


戻る  次へ

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送