最終章 闇に消えた真実

― 《雄》 ―

「どうした?勇気」
「いや、ちょっと」
駄目だ。先に名前が浮かんじゃったせいで、他の候補が思いつかないや。
「カンダタがいれば、絶対《雄》の字だっただろうな。カンダタは神竜を見たし、それに、俺らの兄貴的存在だったから」
「そうだね・・・」
あれ?今何か引っかかった。兄貴的存在・・・。えっと、《雄》の字が当てはまる人で兄貴的・・・あっ!
「霧島!」
僕は思わず叫んだ。
「勝兄ちゃんだよ!」
「え?」
「身近でドラクエやってて、僕のお兄さん的存在で、それでいて僕達のこと信じてくれそうな人!」
僕が叫んだら、鷹哉が目で頷いて、霧島を見た。
「霧島!とにかく山本に連絡してみたら?」
「分かった」
霧島は鷹哉に言われ、王女の愛を取り出した。心を込めて念じてみると、王女の愛はポウっと明るく光った。
『霧島さん!?』
山本の声だ!!
「山本君!!」
霧島が嬉しそうに答えた。
『やっぱり!どこから話しかけてるの?霧島さん、もしかしてドラクエの世界にいるの?』
「うん」
『じゃぁ、松坂君達と一緒?』
「うん」
「山本、聞いてくれ!」
『わっ、林君?』
「俺達は今、ドラクエワンの世界にいるんだ。今から言うことを実行してくれ!」
『ええっ?今から?』
「うん。今すぐだぞ!山本は今どこにいるんだ?」
『松坂君の家の近く。丁度、借りてたドラクエを返そうと思って。松坂君にドラクエツー借りてたから』
「あ」
鷹哉は小さく呟き、霧島に問いかけた。
「霧島ん家、ドラクエソフトある?」
「うん、お兄ちゃんが持ってる」
「よし、じゃぁ、山本、そのソフトは、今は返さなくていいから、とにかく霧島の家に行ってくれ」
『それくらいならいいけど・・・霧島さん、居ないんでしょ?』
「私は居ないけど、何とかお兄ちゃんの部屋に上がり込んで欲しいんだけど」
『ええっ!それは無理だよ。だって泥棒みたいだし』
「大丈夫。 お兄ちゃんは家にいるはず。山本君の事知ってるから、私の友達の山本って名乗ればいいよ」
「山本の事知ってる!?」
僕は声を上げた。
『え?何??』「え??」「何だよ?」
「いや、こっちのこと」
僕は思わず声を上げた。だったら何で鷹哉の事を招待出来ないんだよ?・・・って、鷹哉の前では言えないから黙っていることにした。
「とにかく、そこをクリアしないと、僕達は帰れないんだ」
『え?帰れないって・・・』
「山本君、お願い!」
「山本、頼む。頑張ってくれ!とにかく駄目もとでやってみてくれないか?」
鷹哉はいつの間にか霧島の口癖を真似ていた。
“やってみなくちゃ分からない”
『分かった。・・・失敗したら・・・』
「ごめんじゃなくて」
『分かってる。失敗しない!』
山本は力強く答えた。

「じゃぁ、僕がいいって言うまで、暫く黙っててね!」
山本と呼ばれた少年はそう言って、和歌奈の家のインターフォンを鳴らした。
中から和歌奈の母と思われる、中年の女性が出てきた。
「あの、霧島さんと同級生の山本ですけど」
「山本君?・・・あぁ、和歌奈ならいませんよ」
母はそう言って直ぐにドアを閉めようとした。
「知ってます」
和歌奈の母には、山本の印象があまり良くなかった。ドラクエスリー失踪事件の時に山本のお母さんから色々言われたからだ。もうゴタゴタは面倒だから。
「 知ってるって?・・・そう、じゃぁ、今和歌奈がどこにいるのか教えて頂戴?あの子、また勇ちゃんとか友達とどこか行ってしまったのよ!山本君、何か知ってるんじゃないの?」
「それは・・・今、何処にいるかは知りません。けど、僕は和歌奈さんじゃなくて、お兄さんに用事があります。僕が来たことを言ってください。お願いします」
「勝平(しょうへい)に?」
山本は頭を下げた。嘘はついていない。何処にいるかは、本当に分からないから。ここで信用を失っては、何もかも駄目になる。踏ん張らなくては・・・!
和歌奈の母は、不審そうに山本を見て、一人玄関に残し、一旦家に入った。
暫くして、勝平の姿が現れた。
「君が、山本君?」
「はい!」
雅之は元気よく返事をした。
「あの、霧島さんの事、説明したいので、家に上げてもらえませんか?」
母親が聞いてるといけないので、小声で言うと、勝平も小声で山本に答えた。
「和歌奈の居場所知ってんの?」
「居場所は知りません。だけど・・・」
「分かった。いいよ」
勝平は山本を家に上げた。
「山本君、誘った事を忘れてたよ、ごめんな〜。和歌奈の奴も思い出して直ぐに帰ってくるよ、きっとー」
多少大声を上げて、山本を部屋に入れた。部屋にはいると、勝平は音楽をかけた。
「ちょっとうるさいかな?小声で話そう」
「はい。・・・いいよ、霧島さん・・・」
『お兄ちゃん!』
「うわぁっ!」
勝平は思わず大声で叫んだ。
「和歌奈?どこから?」
勝平は辺りを見渡し、そして自分の声が大きかった事に気づき、小声に戻した。
「・・・録音か何か?」
「いえ、違います」
山本は苦笑した。
和歌奈は王女の愛を通じて、勝平に今の状況を説明した。
「マジでドラクエの世界?俺も入りたいなー」
『さすが、霧島の兄貴』
『しっ』
鷹哉が呟いた声も聞こえた様だ。
「勇ちゃんじゃないね?えっと、林君?」
『あ、はい』
『勝兄ちゃん、鷹哉の事も知ってるの?』
「勿論。和歌奈からみんなの事聞いてるよ。勇ちゃん、本当にドラクエの世界にいるの?」
『うん、竜王をやっつけたんだけど・・・』
勇気は勝平とドラクエの世界の事で簡単に雑談して、カナエに印の説明をしてもらった。

「お兄ちゃん、用意はいい?」
ドラクエソフトの電源を入れ、勝兄ちゃんは山本と並んで画面を見た。画面には竜王城が映っているはずだ。
「皆さんは、自分の世界に戻りたいと念じてください。山本さん達は三人が無事に帰れるように祈ってください」
カナエが説明した通り、胸の辺りで念じると、山本の手には《知》、勝平の手には《雄》の字が光ったみたい。
僕達も念じた。
“帰りたい”

帰りたい・・・

帰らなきゃいけない。


帰りたくない・・・!!

だけど、その時には既に僕達は元の世界に引き戻されていた。
「和歌奈!勇ちゃん!」
勝兄ちゃんの声で気づいた。僕達は勝兄ちゃんの部屋にいた。
「すげー!和歌奈!本当だったんだな!!」
勝兄ちゃんが霧島の背中をドンと叩いた。
「お兄ちゃん、信じてくれてありがとう ・・・」
だけど、言葉を発した霧島には、元気がなかった。
「でもいいなードラクエの世界に入れたなんて。しかも二回も!?すっげー最高!!」
勝兄ちゃんは興奮している様子だけど、僕達はとても喜んで答えることが出来なかった。
気づくと霧島が泣いていた。
「和歌奈?何泣いてんだよ?竜王が怖かったのか?でも、帰れて良かったじゃん。あー良かった良かった」
勝兄ちゃんは、よしよしと霧島の頭を撫でていた。
でも、僕には分かる。霧島は怖かったとか、帰りたかったとかは、本当は思ってないはずだ。鷹哉も同じ事を感じたらしく、黙って霧島を見ていた。
「さて、俺が気を引いてるから、和歌奈達は一旦外に出る方がいいな。外から帰ってこい」
そう言って、機転を利かせた勝兄ちゃんが下へ降りていった。
「霧島さん、大丈夫?」
山本が心配そうに尋ねた。
「また会えるって」
鷹哉は遠くからだけど、霧島に呼びかけた。
それが、霧島の泣いている理由・・・。
「会える?」
「得意分野だろ?・・・会えると信じれば」
鷹哉。・・・らしくないね。
霧島の影響だね。僕はそんな事を思いながら窓から空を眺める。空はドラクエの世界より、ずっと青く、ずっと綺麗。

結局、勝兄ちゃんが気を利かせてくれたのに、僕達は 喋ってて、タイミング良く下に降りることが出来なくて、霧島のおばさんに見つかった。
僕のベランダから霧島のベランダに渡った事にして、咄嗟に誤魔化したけど、みんなの親も揃って、全員できつく叱られた。可愛そうに山本まで・・・(笑)

神竜・・・
僕は心の中で呼んでみる。
カナエ達がいるんだ。きっと大丈夫だよね。


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