最終章 闇に消えた真実

― 印 ―

僕は何とか意識を保ちつつ、その場にへたり込んだ。剣を持っていた手が、まだじんじんと響いている。右手どころか、右腕全部が腫れ上がったように熱い。僕はたまらなくなって鎧を脱ぎ捨てた。甲冑の下は痣だらけだ。特に腕の付け根とか、関節部分は真っ赤に腫れ上がっている。 皮膚を切らないように裏から革製のあて布をしていてもこれだもんなぁ〜ゲームのヒーローなんて人間じゃないよぉー。下着同然の格好から、さらにシャツを脱ぐ。触るとグシュグシュいうので、僕はぞうきんを絞るようにねじってみた。
・・・これは、汗・・・?
赤く染まった液体が流れた。僕は額から流れる汗を、そのシャツを拭いた。うわっ、血だ!半分ぐらい血だな・・・僕、よく生きてるね・・・。
「ふぅ」
一度だけ唱えることが出来たホイミによって、何とか血は止まったけど、くらくらする〜・・・。僕はそのまま床に倒れ込んだ。

どれくらい経ったか、周りが賑やかなので目を覚ました。
「勇気ちん!」
起きあがった途端、アルカに抱きつかれた。
「大丈夫?勇気ちん〜〜」
アルカは泣き出し、カナエは困った表情の僕から、彼女を引きはがしてくれた。
「みんな、無事だったんだね」
「勇気こそ。竜王を一人でやっつけてくれたんだな・・・俺も一緒に戦いたかった」
僕はいつの間にか布の服を着ていた。あ、そうか、血まみれになたシャツは濡れていて着られないから 、鷹哉が着せてくれたのかな。
「言うと思った」
「竜王、強かったか?」
僕は鷹哉に、竜王との戦いを説明した。
「へぇー俺らのお陰ってか?うまく言うねぇ」
「まぁ、それほどでも・・・あるけどね」
霧島がおどけた。
「でも、心配事がひとつ」
「何?」
「また竜王に言われたんだ。元の世界に戻れないって」
「また?どうして?ギアガの大穴みたいなのはないだろ!?」
「神竜が虫の息だからとか何とか」
「あ、神竜の力でこの世界に来たからではないでしょうか」
カナエが言った。成る程、そうかも知れない。
「じゃぁ、神竜を回復すればOKだよね」
「いいえ。神竜は自己回復の能力が遅いのです。本当ならば戦った相手と契約を交わしたときに相手と同時に回復出来るはずなんですが、今回はケースが違います」
「成る程、相手と回復出来なかった上に、竜王にやられてしまったからね。それじゃぁ、どうすればいいの?」
「印の持ち主を探すしか有りません。でも・・・」
「印?それ持ってたら神竜の姿が見えるってあれ?」
「そうです。余所の世界から来た勇気さん達には必ず印をお持ちのはずです」
「ははーん、ゲームのプレーヤーは全員勇者だからだな」
「でも、同じ時間に存在する人物で、印を持っているのは全部で七人。私達五人では・・・」
「えっ!カナエ持ってるの?」
僕と鷹哉の声がハモった。
カナエは胸の辺りで手を組み、何かを念じた。すると、左手の甲に痣が浮かび上がった。文字だ!確かにカナエの手に痣が浮かんでいる!
「《優》だ!」
「カナエちんの痣はね、優しいじゃなくて、優れるって意味なのよ」
「優れる・・・はーん、そうかもな」
鷹哉はカナエと霧島を交互に見た。
「どうせ私は優れていませんよ!!林君に言われるなんて最低!」
「和歌奈、あのね・・・」
カナエは、鷹哉にだけは怒り狂う霧島に対し、耳打ちをした。
「え?本当?」
霧島は、さっきカナエがしたように胸の辺りで手を合わせた。
「あ!」
霧島の手にも痣が浮かび上がる。《夢》だ!
「ねっ!和歌奈はロマンチストでしょ?」
「うん!ドラクエの性格診断でもそうなったのよ!」
霧島は嬉しそうにはしゃいだ。僕と鷹哉は何か言いたかったけど、黙っていた。
「あたしはねー《純》なのー!」
「アルカは純粋」
あ、そうかも。
「私、ずっと考えていたんです。アルカと私が同じように氷漬けにされたのに、何故アルカだけ話すことが出来たのか。それはきっと、竜王にも純粋な心までは支配できなかったのでは無いでしょうか」
なるほどね。
「じゃぁ俺は?」
「鷹哉さんは、んーそうですねー・・・さっき勇気さんに言ってましたよね、「俺も一緒に戦いたかった」と。その気持ちを込めて手を組んでみてください」
鷹哉は言われるがままに思いを込める。
「《闘》だね」
「勇気さんにもありますよ」
「うん、実はさっきの竜王との戦いで見たんだ。《勇》だった」
「誰かを守りたいという気持ちが大きくなったんですね」
「鷹哉は闘うだから、戦いたいって気持ちだけでいいだろうけど、僕はどうして守りたいって気持ちで勇になるんだろう?」
守ることと、勇気を出すことは違う気がする。
「自分の身を守るのは誰だって出来ます。でも、人を守るのはかなりの勇気が必要です。リカントとの戦いで、和歌奈を咄嗟に助けたでしょう?火だるまになるなんて、なかなか出来ないものですよ」
「そうかな?俺にも出来そうだけど」
うん。鷹哉だって霧島を助けたい気持ちが大きかったはず。それは多分、相手が霧島なだけに僕以上だったに違いない。それをカナエに言うと、声を小さくして、僕に耳打ちした。
“鷹哉さんの場合、相手が和歌奈だから・・・”
「おい、二人で何だよ?俺にも教えろよ!」
鷹哉が僕の胸ぐらを掴む。
「あははは・・・ははっ」
笑うしかない。これは黙っているよりも、言ってしまう方が殴られそう〜。
「それはそうと、印の話しに戻るけど、七人集めてどうすればいいの?」
「同じ気持ちで一つの事を祈ります」
「じゃぁ、神竜の回復を・・・」
「いいえ!」
僕が言いかけると、カナエが言葉を遮った。
「勇気さん達は自分達の世界に帰ることだけを考えてください」
「どうして!?先に神竜を回復さた方がいいって」
「駄目です。勇気さん達は一刻も早く、本来帰るべき場所に帰らなければなりません」
「そうよ!カンダタもそう願ってるハズ!勇気ちん、お家には、心配してくれる家族があるでしょう?和歌奈ちんにも、鷹哉ちんにも!それに、山本ちんだって、みんなが居なくなって絶対心配してる!こっちの世界の事は、あたし達に任せて、勇気ちんは少しでも早く帰るべきだよ!」
「アルカ、カナエ・・・」
みんなは暫く黙った。霧島も鷹哉も、勿論僕も、帰りたいと思ってなかったから。でも、アルカの言うとおりだ。帰らなければならない。とにかくやってみるしかない。帰る準備は遅かれ早かれしなければならない。それに・・・
これ以上長居したら、本当に帰りたく無くなるかも知れない。

「・・・でも、どっちにせよ、七人揃えなきゃならないんだろ?無理だよ」
「………」
鷹哉は何かを考え込むように黙り込んだ。
僕達だけで五人。あと二人は誰?見当もつかない。
「カナエさっき、余所の世界の人間は、みんな印を持ってるって言ってたよな?」
「はい。山本さんもきっと持っているはずです。なにか媒介の様な物があればいいのですが・・・」
「媒介って?」
「あ、そうですね・・・、例えば勇気さんの住む世界と、この世界を結ぶものなどです。同じ物か、その効果を表す物があればいいのですが・・・」
「現実とゲームを結ぶもの・・・」
僕は考えた。スイッチを入れれば、必ず繋がるけれど・・・。
「ゲームのスイッチを入れれば必ず繋がるよね?」
霧島も同じ事を言う。
「だけど、それは向こうからやってくれなきゃ意味ないな」と鷹哉。
そうなんだよなー・・・。
「じゃぁ、こちらから繋げる、通信機のようなものがあれば・・・」
霧島がそう言って、はっと顔を上げた。
「あった!こっちから勇者に向かって発信できるもの!王女の愛よ!」
「でも、相手は?」
「異世界の人はみんな勇者になれる、だったら、山本君も勇者じゃない?印も持ってるはず!」
「だったら、もう一人も簡単に捜せるよね!ゲーム作った人とかだったら信じてくれるかも!その中で《雄》の字に当てはまる人が・・・あっ」
僕は思いついたけど、思わず黙ってしまった。《雄》の字がつくゲームクリエイターが、いるにはいるけど、有名人だし、うーん。頼めないよ、そんなこと!!


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