第四章 翼のあるドラゴン

― 竜王 ―

「だぁっ!」
剣を失った僕は、盾を放り投げ、拳でぶつかった。鷹哉はいつも武装していない。武道家だから、鎧も盾も要らない。僕だって・・・!
竜王は不意を突かれて一瞬たじろいだ。
今だ!!
僕は竜王の顔目掛けてパンチを入れた。鈍い音と竜王のうめき声が聞こえた。
よし!
僕は鷹哉の戦い方を真似していた。鷹哉のパンチは強い。早い。
「許せねぇ!」
言葉も真似てみる。強くなりたい。鷹哉の様に。素早くなりたい。
そんな思いを込めながら、竜王にパンチを食らわせた。竜王は僕のことを、まるで蝿でも追い払うかの様に、手をひらひらさせる。何度もはじき飛ばされ、僕は再び背中に激痛を感じた。力の差なんか考えちゃ駄目だ。僕は怯まず殴りかかる。もうこれしかないんだから!!
飛ばされる、頭を打ったらしい。力が入らない。
「くそっ・・・」
目の焦点が合わない。竜王の顔が歪んで見える。僕は攻撃と回復を繰り返し、何度も竜王との激闘を繰り返す。ゲームの中ならコマンドが赤くなって、そろそろ死んでしまう・・・そんな感じだ。だけどここで僕が負けたら誰がこの世界を救うんだ・・・!
僕は痺れる手を握りしめ、力一杯殴ろうとした。その時、ふと僕の左手が光る。
「ぐおおおおお!」
僕の左手が触れた竜王の体の一部が、みるみるうちに溶け出し、竜王が悲鳴をあげた。
「!?」
僕の手に《勇》の字が現れ、手から放たれた光の中に、一本の剣が現れた。
ロトの剣!
そう、僕達は竜王の城の宝箱に有るはずのロトの剣を見つけられずにいた。でも、それが今ここにある。
僕は迷わずその剣の柄を握り、竜王めがけて斬りかかった。

斬れる!!

骨の当たる感触に不快感を覚えながらも、剣に力を込め、力任せに体重を掛ける。竜王は苦しそうにもがき、やがて力を落とした。
当たりが静まりかえり、僕の荒い息だけが響き渡る。
鷹哉!!
僕は氷の壁に向かった。神竜のメダルを取り出す。
あ、光がない。メラか何か・・・
駄目だ。MPはゼロ。
「畜生!」
でも、絶対助けるからな!!
とにかく回復しなきゃ・・・。僕は霧島がリムルダールで買ってきてくれた薬草のことを思い出し、袋を開けた。あれ?この木の実は何だろう?小さな木の実が道具袋に一つ紛れていた。
痛みが和らぎ始めた頃、竜王の屍から巨大な羽が現れた。
ドラゴンだ!!
僕は道具袋を片付け、ロトの剣を握りなおした。そして深く腰を落とす。

・・・!!

僕は息をのんだ。その屍からは想像出来ない巨体。毒の沼地で戦った、あのドラゴンの三倍はある巨体だ!ドラゴンは屍から姿を現した途端、羽を大きく動かした。
「うっ!」
強い衝撃に耐えながら、僕はドラゴン目掛けて飛びかかる。やっぱり堅い!こういう時はルカニかバイキルトだけど、この世界にこの呪文は存在しない。
「もう一度!」
僕は気合いを入れるために声に出して斬りかかった。ほんの少しだけど手応えはあった。僕はその少しの希望を見つけ、力一杯立ち向かう。ドラゴンは僕を気にせず好き勝手に暴れている。
城壁が崩れ、柱が倒れる。咄嗟に鷹哉達の所を見ると、・・・なんて頑丈な氷なんだ!逆に助け出せるのか心配になる。
しかし今は自分の身も守らなくては!!落ちてくる石に気を使いながら、僕は何度でも斬りかかった。
「くそ!」
ドラゴンのうろこは何て堅いんだろう。毒の沼地では尻尾を斬った。だけど、このドラゴンの尻尾は、あの時のドラゴンの足ぐらいの大きさがある。とてもじゃないけど敵わない。鷹哉ならどうする?僕は必死で考えた。
“ははっ!突撃の反撃だって!変なの〜”
僕が作ったRPGだ。鷹哉が試しに遊んでくれたとき、そんなこと言ってたっけ。相手へ突撃すると、必ず反撃がある。その時は意味が分からなかったけど・・・。
今なら分かる!
僕はさっきの小さな実を食べた。ほんの少しだけど力が沸いてきた。
もしかしたら・・・!
僕はドラゴンに向かって、呪文を唱える。
ギラ!
出た!眩しい閃光が走り、ドラゴンの鼻先を焦がした。
ドラゴンは暴れ、僕を目掛けて炎を吐いた。
「今だ!」
辺りが一瞬にして火の海へと変わっていく。僕はその明かりを利用して、神竜のメダルを氷の壁に向けた。しかし、何も起こらなかった。
「駄目か・・・」
ドラゴンはまだ火を吐いている。僕は身を翻し、ドラゴンの周りを走る。再び炎が上がる。僕はもう一度ギラを唱えた。
・・・来た!
ついにドラゴンが僕を目掛けて突進してきた。
そうだ!来い!!
ドラゴンが近寄ったその時、僕は刃をドラゴンの方へ向けた剣を地面に突き刺した。
よし!
僕は剣を足や全身で支え、踏ん張った。ドラゴンの額に剣がめり込む。
「うぐぐ・・・」
これが僕の反撃だ!!僕は剣を抜き、飛び上がった。そして倒れたドラゴンの首を目掛けて剣を突き立てる。ドラゴンが苦しそうに暴れる。何度も振り落とされそうになりながら、僕はしがみついた。
離すものか!!暫くドラゴンとの我慢比べが続いたが、なんとかやっつけたみたい・・・。
ドラゴンが動かなくなった。
「終わった・・・」
僕は少し意識が遠のきそうになりながら、氷の壁が溶けて、鷹哉達が解放される瞬間を見た。
「良かった・・・」


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