第四章 翼のあるドラゴン

― 虹の橋 ―

「わぁっ!綺麗!!」
僕達は虹の滴に祈りを捧げ、魔の島に虹の橋を掛けた。虹の滴が宙へ浮かび上がり、空中でパッと飛び散った。途端に辺り一面虹色に輝く。眩しくて目を閉じたが、その瞬間に大陸を結ぶ橋が出来ていた。
「虹の橋?」
霧島がはしゃいで橋を駆け上がる。
「霧島!」
「大丈夫、大丈夫!」
地上とも空中とも言わぬ空間に足を乗せるには、かなりの勇気が必要!!・・・だけど、この虹の橋を渡るしか方法は無いんだ。
そう言えばスリーの時はどんなだっけ?忘れるくらいだからこんなに綺麗では無かったのかもな。僕は一人で勝手に答えを出し、満足した。
虹の橋は思ったよりしっかりしていた。何て言うか・・・頭より高い位置にある、とても綺麗で、下が見えるガラス、そう、そんな感じ。割れそうな気がするんだけど、割れない。でも不安になる、そんな微妙な感覚にとらわれていた。
「なんだかゲームの中より綺麗な橋だぞ?」
「いくらドラクエが好きな人でも、こんな体験した人っていないでしょうね」
「うん、帰ったら自慢しよう」
「誰にだよ」
「えーっと・・・って、山本しかいないし!!」
「きっと、凄ーい、凄ーいの連発だよね」
「よし!山本に自慢しよう!!」
僕達はそんな風に話しをしながら橋を渡った。橋を渡ると、高い岩山がそびえ立っていた。僕達はその間を歩く。
「高い山ですね」
「うん。この道を抜けると竜王がいる」
「竜王?」
「そうか、カナエは知らないんだよな」
「バラモスやゾーマの次は、竜王ですか?」
「そうそう。竜王とかハーゴンとか」
「デスピサロとかね」
おいおい霧島、それは天空編だろ。
「竜王を倒したら、この世界は平和になるはずだ」
僕達は雑談を楽しみながら進んでいった。始めこの世界に紛れ込んだ頃とは違う。何て言うか、友達がいるからこうして元気になれるし、勇気がわいてくる。そんな感じだ。途中、幾度となく現れたモンスターを倒しながら僕達は、ずんずん竜王城目掛けて進んでいった。

竜王の城へ入る。ゾーマ城とはまた違う雰囲気がある。
「この先に竜王がいるはず」
竜王の部屋の前で深呼吸をし、僕は一歩を踏み出した。
「勇気」
鷹哉が促すままに、部屋の奥へと目をやる。間違いない、ゲームの中と同じ姿だ!
「なぁに〜?あれが竜王?小さいの〜」
「アルカ!」
カナエがシッ!っとアルカの口を塞いだ。
「確かに小さいね。でも、あれは間違いなく竜王よ」
霧島が短く答える。竜王は僕達に気づくと、ゆっくりと立ち上がった。竜王の身長は百七十ぐらい。カンダタやオルテガと同じ・・・いや、それ以下だ。
「人間か・・・」
「竜王!」
僕達は思わず叫んで、そして各々が持っている武器を構えた。
「ほう、余を倒しに来たのか」
「他に何がある!」
鷹哉が僕を庇うように前へ出る。
「私を幽閉したお礼をたっぷりしてあげる」
気づけば霧島も同じように前に出た。二人とも、勇者である僕を守ろうとしてくれているんだ・・・!
「ほう、余がドラゴンだと、いつ気づいた」
「そんなことぐらい、初めっから知ってるぜ!」
竜王は本性を現すと、ドラゴンになるもんね。
「少々骨のある奴と見込んだ。どうだ?余の配下にならぬか?そうすれば世界の半分を譲ってやっても良いが」
竜王は僕達の顔を順番に見つめた。
「答えはノーだ!!」
僕は叫んだ。その瞬間、強く冷たい風が僕達を襲った。
「きゃぁっ!」
「なんだこれ!」
凍てつく波動に似た、氷のような強い風!
「鷹哉!霧島!?」
おかしい!返事がない!?やがて風が止み、僕は辺りを見渡した。
「これは・・・!!」
みんなが氷漬けになっていた。あの時、カナエとアルカがそうだった時と同じ!やっぱりあれは竜王の仕業だったのか!
「竜王!」
僕は竜王を睨みつけた。
「その目、余が最も嫌いな目」
僕は竜王目掛けて飛びかかる。剣が鈍い音を立てた。
手応えアリ!?
しかし、腕が痺れて手の力が抜けてしまった。何て固いんだ!
剣は僕の手からするりと抜け落ちた。
次の瞬間、何かの力で後ろへはじき飛ばされ、僕は後ろ回りをした格好で、数メートルある後ろの壁に激突した。
「ぐ・・・」
背中を強く打った。熱を持って いて、これが痛みなのかよく分からない。
僕がなんとか顔を上げようとした瞬間、何かが僕目掛けて飛んできた。
「忘れ物だ」
鷹哉達は氷りに閉じこめられたまま、壁に埋まっていて、その壁には傷一つついていないようだ。良かった。少なくとも鷹哉達は無事だ。
しかし、剣は僕の直ぐ後ろの壁に激突し、折れてしまっていた。それを見た瞬間、恐怖で足がすくんだ。どうしよう、他に剣なんて持っていない!!本当にこんな化け物に勝てるのだろうか?手足が震えて上手く立てない。

怖い!!

「もう一度聞く。余の配下になれ。そうすれば仲間が無事に帰る。世界の半分をやる。配下になれ!!」
僕は竜王の低くて不気味な声に、ただ震えていた。配下に・・・配下になって、鷹哉達が無事でいられるなら・・・。僕は頭を振った。駄目だ!配下にはなれない。ゲームオーバーになってしまう。 ゲームオーバーになれば、僕達はこの世界から出られない。・・・いや、死んでしまうかも知れない。
畜生!鷹哉と一緒なら絶対倒せると思ったのに今は一人・・・。

怖い!!

「神竜、あれは強い。じゃがな、戦い終わった後は弱い」
竜王はくくくと笑った。
何だって・・・?じゃぁ、戦い疲れた後をわざと狙ったのか?
「闇は余の故郷。より住みよくなったわい」
竜王は、体を反らせ、両手を広げて笑った。
「卑怯者!」
「何とでも言うがよい。何を言おうが、余は勝者なのだから。さぁ、神竜のことは忘れろ。余がこの世の支配者じゃ!余の配下になれ!!」
竜王があざけり笑う。僕は悔しくて手を握りしめた。だけど悔しいだけでは何も出来ない。情けないことに、僕はたった一人で戦わなければならないという恐怖に負けそうだった。ただ体が震えて動けなかったのだ。
「どうせ神竜は虫の息。元の世界には戻れまい」
「どういう意味!?」
“勇気ちん!”
ふとアルカの声が聞こえた。
「アルカ?」
“頑張って!負けないで!”
うん、分かってる。
倒れた神竜のため、不安を秘めた世界中の人々のため、そして鷹哉達を助けるためにも、僕はここで竜王を倒さなければならない・・・。
だけど僕には武器がない。仲間もいない。一体どうすれば・・・僕は辺りを見渡した。
霧島が氷漬けになっている・・・
“出来るって信じて!”
霧島がそう言ったように思えた。
僕は立ち上がる。霧島が前の世界で言ってた。ねばり強く、諦めが悪い霧島は、いつもそう言ってた。
そうだ・・・一人じゃないんだった。昨日カナエから、鷹哉から教わった。絶対に一人なんかじゃない!
僕は唇を力一杯噛んだ。口の中が血の味で一杯になった。
「竜王!何度でも答えるさ、答えはノーだ!絶対、どんな事があっても、配下にならない!僕はこの世界を救う!」
僕は拳を作り、強く握りしめた。


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