第三章 虹のしずく

― 賢者 ―

「うそ、でしょ・・・?」
誰もが無口になる。部屋の隅にベッドがある。布団をめくると服を着た状態の白骨があった。
「・・・畜生!!」
鷹哉が壁を蹴った。かなり強い力だったのか、古い壁に穴が空いた。
「カナエちん、本当に、カンダタ・・・死んじゃったの?」
「信じられるわけないでしょ!!」
アルカ問いに、カナエが怒鳴る。あのいつも冷静で、アルカにはとても優しいカナエが取り乱していた。

虹の滴を手に入れた僕達は、カンダタにも見せようと、さっきの奥の間に入った。だけどそこにいるはずのカンダタの姿は見えなかった。他に扉もない。部屋の隅にベッドがあり、僕達はてっきりカンダタが眠っていると思って、悪ふざけで布団をはいだのだ。
そこにはさっきのカンダタの服を着た白骨が横たわっていた。
「何だよ、これ」
僕は呆然となった。まさか、カンダタはもう・・・?
「さっきまでここにいただろう?笑ってただろう?何でだよ。何で・・・畜生!!」
鷹哉も珍しく取り乱していた。白骨が着ている衣類を荒々しく持ち上げてかき乱す。
「駄目よ、林君!」
「霧島、どけよ!邪魔なんだよ!」
「きゃぁ!」
霧島が突き飛ばされ、尻もちをついた。
ふと、淡い光がベッドからあふれ出した。
『・・・ったく。いつになく乱暴だな』
「え?」
鷹哉が顔を上げる。その視線の先にはカンダタがいた。
『虹の滴が出来たのに、また喧嘩する気か?いい加減学習しろよ』
「カンダタ?」
幻だろうか?カンダタがベッドに座っていた。
「カンダタ!」
鷹哉が手を伸ばすが、カンダタには触れられずにいた。
「・・・!!」
そう知った瞬間、僕の目から涙が溢れた。本当に、死んでしまったの?
『泣くな、男だろ』
「だけど!」
鷹哉も泣いていた。
『今のおめぇらなら大丈夫だな。これで安心して眠れらぁ、虹の滴見られて俺は幸せ者だなぁ〜。・・・あばよ』
「あ、待って!!」
カンダタは光の中に消えてしまった。
「カンダタァァァァ!!」
僕は力の限り叫んだ。叫んで、叫んで・・・叫んで、声が枯れるまで叫んだ。
アルカがしゃくりあげて泣いていた。それでも、カンダタは戻ってきてくれなかった。

世界樹の葉をくれたカンダタ、

盗賊をやめたカンダタ、

オルテガを尊敬してると言ってくれたカンダタ、

ルイーダで待っててくれたカンダタ、

最後の戦いで大切なことを教えてくれたカンダタ、

カンダタ、

カンダタ、

カンダタ・・・

僕の脳裏にカンダタが浮かぶ。

笑った顔。

怒った顔。

とぼけた顔。

僕にとって、いや、僕達にとって、お兄さんの様な存在だった。大好きだった。
なのにこんな形で再会だなんて・・・。

 暫くして鷹哉がゆっくりと動き始めた。道具袋から、要らなくなった布の服を引っ張り出し、そこへ白骨を集める。霧島が無言で手伝い、二人はやがて部屋から消えた。カナエもアルカも疲れ切った様子で壁にもたれ、ぼーっとしていた。
 カンダタは長い戦いの末、体を壊したらしかった。もう長くないと分かっていたらしい。それでも僕達に会うために、最後の力で元気だった姿を見せてくれた。僕達がその事を知ったのは、もっとずっと後だった。

夜、カンダタの衝撃が大きすぎて、みんなは祭壇のほこらから離れられずにいた。
「今日はここで野宿にしませんか」
カナエが気を使ってテントを張ってくれた。
みんなは眠る様子もなくて、それでも明日のために寝なきゃって感じで、横になった。
いつの間にか眠っていたんだけど、結局疲れは取れてなかった。

 昨日、鷹哉と霧島が作ったカンダタの墓の前に、僕達は野花とお酒を供え、順番に手を合わせた。
「よし。いよいよ最終決戦だな」
「そうね。どうなるか分からないけど、やるしかないもんね」
霧島の声でみんなが頷いた。
「行こう、あの翼の生えたドラゴンを探しに」
「ドラゴン・クエスト!」
鷹哉と霧島が同時に叫んだ。
鷹哉と、霧島と、僕が笑った。
カナエもアルカも嬉しそうに微笑んだ。
僕達は、カンダタの墓を背に、魔の島へと向かった。


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