SOLVE A RIDDLE〜双子の勇者たち〜

+秋男+


軽い朝食の後、秋男達は技を磨いていた。
プレーノ達が戻るまでの間、動けないからと、グロールの監視の下、弱点を見つけ出し、それを克服しようというのだ。

フレノールは杖を使い、ファジィの姿になった。
真っ白な羽を使い、空を自在に飛び回る。
秋男も空中に浮かび上がり、剣を使い、互いに技をぶつけ合う。
秋風はまだ技も出せずに、地上で杖を使いこなす練習をしていた。
「たっ!」
フレノールが杖を突き出す。
フレノールは秋男に対し、かなりの大技を使ってくる。
その彼女の羽を目掛けて、グロールは短剣を投げつけた。
「きゃぁっ!」
羽を傷つけられたフレノールは地上へ真っ逆さまに落ちた。
「痛ぁーい」
「馬鹿かお前は」
「何よ!不意打ちなんて卑怯じゃない!!」
「不意打ちしない敵なんかいるか。お前は集中力が足りない」
「………ぶぅ〜」
「僕は?」
「まだまだ」
「今日もそれだけ?」
毎日練習しているのに、グロールは秋男にはまだまだとしか言わない。
「何でもいいから、思ったことを言ってくれよ」
グロールは暫く考え込み、思い切って口を開いた。
その時。
「秋風後ろに飛べ!!」
秋男の声で、フレノール、グロールが動いた。
グロールは秋風の体を抱え、フレノール、秋男も同時に空へ飛び上がった。
槍の様な物が飛んできたかと思うと、それは秋男が着ていたマントを貫いた。
「お兄ちゃん!」
秋男はマントを捨て、難を逃れたが、ふと首に刃物が向けられた。
氷の短剣は見慣れたものであり、秋男は刃物を向ける者の手首を握り、それを軸にして空を蹴った。
ひらりと身を交わし、一度空に舞い上がる。
両手を地面について着地を果たし、くるりともうひと回転した。
それは一瞬の事で、衝撃を受けた地面がもくもくと煙を上げて秋男の姿をかき消した。
「お兄ちゃん!」
やがて秋男と、もう一人………ビークが姿を現した。
言葉を交わす間もなく、既に次の攻撃は始まっていた。
地上戦となり、二人の行動は、より俊敏になった。
無数の氷の矢と剣火剣炎による衝撃が起こり、あらゆる場所で水蒸気が発生する。
秋風が目で追うが、上空からでも秋男の姿をまともに捉えることはできなかった。
ビークの周りは次第に紫色の霧が発生していく。
「あれは………」
秋風を抱えたまま、グロールは思わず呟いた。
「何?」
「あ、いや………」
あのバリアーと同じだ。
そう思った瞬間、凄まじい爆音と同時にビークの体から不気味な魔物が大量発生した。
「何だ!?」
秋男は全身で身構えた。
ビークから放たれた無数の魔物は、一瞬にして秋男を目掛けて飛び上がった。
「秋男君!」
フレノールが秋男を庇うように立ったが、防御態勢のまま、一瞬にして魔物に数メートル後ろへ押しやられる。
フレノールは押しやられながら杖を取り出し、地面に突き立て、それを軸に空へ舞った。
ふわっと体が浮き上がった事で、魔物から逃れた。
間合いを詰め、魔物は秋男とフレノールを標的に襲いかかろうと身構えている。
ビークはそれに合図を送り、魔物の動きを封じた。
「へぇ、流石だね。カレナ」
ビークは少し嬉しそうに顔を歪めると、懐から不気味な色の玉を取り出した。
その玉を地面に叩きつける。
もくもくと煙が上がり、そこからコルネが姿を現した。
「姉さん!」
「秋男くん、秋風………」
コルネは後ろ手に縛られていた。
身動きが取れないようだ。
「今日は本物を連れて来たよ。カレナに返してあげるために」
「僕に返す?それは、僕の命を奪いに来たと解釈した方がいいんだろうね?」
秋風の顔から血の気が引いた。
「うん、そうだよ。でもね。もっといいものを見せてあげるよ」
「いいもの?」
ビークはそう言って、一振りの剣を用意した。
氷で出来たそれは、切れ味が良さそうで、軽い。
その剣でコルネを縛っていた縄を斬った。
「姉さん!」
コルネは秋男を見た。
そしてビークを見つめる。
「さっき言った通りだよ。カレナをその手で、殺れ」
ビークはコルネの足元へ剣を投げつけた。
その剣は地面に突き刺さる。
秋風は両手で口元を覆った。
「出来ないわ。あなたの思惑通りに、私は動かない」
コルネはビークを睨みつけた。
「駄目だよ姉さん。姉さんが断ると、この周りの魔物が一斉に姉さんを襲う。そうだろ?ビーク」
「その通りだよカレナ。良く分かったね」
ビークはふっと笑う。
「いいよ、僕が殺されればいい。僕の意志は既に受け継がれてるからね」
「………?」
グロールの中で疑問が生まれた。
"意志………受け継ぐ?"
しかし当の秋男はすました顔でコルネの元へ歩み寄った。
そして氷の剣を抜いて、コルネに握らせた。
「お兄ちゃん、やめて………」
秋風は、イヤイヤするように体を揺らし、グロールの手から逃れようとした。
しかしグロールは秋風を抱えたまま移動し、木の枝に座らせた。
「動くなよ」
グロールは秋風を置いて地上へ降りる。
秋風は高い所に上げられたまま、降りる術もなく、枝の上で、ただ震えるしかできなくなった。
「でもね、僕だって黙って殺られない。姉さんを殺すかも知れないよ。お互いに、剣術は得意だもんね」
「………秋男くん」
秋男はコルネの剣に自分の剣を思いっきりぶつけた。
そして後ろへ飛び退く。
コルネは一瞬でも柄を強く握ってしまった事を後悔した。
「ほらね。だから本気でかかってきて」
コルネは剣を軽く振りまわした。
手に吸い付くような見事な剣捌き。
目を閉じると三人で過ごした懐かしい日々を思い出した。
コルネは深呼吸をして、目を開ける。
少し逞しくなった秋男を前に剣を構えた。
ガチン!
剣と剣がぶつかり合う。
力の差が有りすぎる!
秋男の方がずっと力が強い。
コルネは歯を食いしばった。
剣と剣のぶつかり合う音が、不協和音となりコルネの耳に突き刺さる。
こんなに重い剣を持ったことはない!
「ほら、どうした?僕が姉さんを殺してもいいの?」
秋男は余裕の笑みを浮かべる。
「秋男くん、何故………」
秋男は力を込めて剣で剣を押し上げた。
「きゃぁっ!」
コルネは後ろに倒れた。
秋男はコルネに詰め寄った。
「秋男くん………」
コルネは静かに目を閉じた。
それは死を決意した顔だった。
しかし、その彼女を抱き起こす者が現れた。
グロールがコルネを助けたのだ。
「パストル?………何故………」
コルネは呟いた。
しかし秋男には計算済み。
そう、本当の戦いは、これからだ。
秋男はグロールの姿を黙って目で追う。
いつかこうなる事を予測していた。
「あんたはビークの姉だろ。弟の前で死のうとするな」
「でも、じゃぁ秋男くんは………」
グロールは秋男を見た。
目を合わせ、互いに睨みつけた。
「俺が始末する」
「パストルが?」
ビークが歓声を上げた。
「そういう意味で言ったんじゃない………」
コルネが首を横に振る。
「秋男くんが死んでもいいって言うの?」
しかしグロールは聞こうとしない。
「ビーク、俺がこいつを始末する。だからコルネを返してやれ」
「………パストルはどうするの?」
「望むなら共に居る」
「分かった!カレナを始末して!そして僕と一緒に暮らそう!」
「おーけー」
秋男は目を離さない。
グロールも、秋男から目を離さない。
「やめて!お兄ちゃんと戦うだなんて………そんなの嫌!」
秋風が叫ぶ。
「秋風、僕がカレナである以上、覚悟していた事だよ」
言葉は秋風へ、しかし目はグロールを見つめていた。
「パストル、お願いやめて!カレナとパストルが戦うところを、私は見たくない。あなたにとってもそうでしょ?カレナはあなたの兄弟であり、我が子の様な存在!なのに………」
グロールはコルネを見て、静かに言った。
「でもあんたには出来なかった。こいつが本気で向かってきているのに、あんたは顔を背けたじゃねーか」

"ビークは僕が負けないと、満足しない"

「………」
「半端な戦いは無意味だ」
そして秋男を見た。
「自分が死ねば良いなんてそんな思いも、無意味だ」
「ふっ。どうだか」
秋男は含み笑いを見せた。
「宿題解けたのか」
初めてグロールと会ったとき、秋男に出した宿題。
"仲間とは何か………"
笑っていた秋男の目が、鋭くなる。

「これが僕の答えだよ」

正面からグロールを見据える。
グロールも秋男を見据えた。

仲間………
その肩を蹴りあう相手で有ること。
互いの肩を蹴りあい、共に昇って行く。
対等であり、同じ責任を背負う。
今それが出来るのは俺だけ!!
秋男が出した答えは、俺の肩を蹴って前に進むこと。
蹴らせてやる!!

「さぁ、始めようか」
目を反らすことなく、柄に手を掛けた。
戦いはもう始まっていた。
グロールの剣はとても重い。
コルネとは違う一太刀の重みを、秋男は受け止めることは出来ない。
それを分かっていながら、グロールはその手を止めない。
秋男の両腕がじーんと痺れた。
痛みで剣を落としそうになる。
だが、堪える………。
全ては秋風を守るため!!
秋男は軽い身のこなしでグロールの懐へ滑り込む。
後ろ手に剣で剣を受け止め、そのまま力を込めてきり返す。
グロールはふわりと側転をし、秋男へ足払いを掛ける。
秋男の体は転がった。
グロールが秋男を目掛けて剣を突き刺す。
グロールの剣は空から降り、秋男の脇を通り抜け、地面へザクッと刺ささった。
秋男はゴロゴロ転がりながら逃れる。
「剣火剣炎」
仰向けになったまま、秋男の手から無数の炎の矢が、グロールを襲う。
グロールは空中でバク転をし、難を逃れた。
矢と矢がぶつかり合い、同時に秋男は空中へ向かう。
爆音の中から姿を現した秋男に、剣を振りかざし、フェイントを掛けた。
グロールは秋男の剣を下から突き上げたのだ。
「!」
衝撃で剣と一緒に、秋男は地面に叩き落とされた。
「………っ!!」
「やはりな」
さらに攻めるグロールから逃げるように後転し、体勢を整える。
「お前の事がやっと分かった」
「………」
秋男は黙って攻撃を交わす。
グロールの重い剣が、秋男の腹を掠める。
はらりと切れた隙間から、褐色の肌が見えた。
グロールの攻撃の手が止んだ。
「ずっと、見てたはずなのにな。今まで気づかなかった。俺は馬鹿か………」
グロールはため息混じりに呟いた。
「………」
「お前はカレナの力を充分に発揮できていない。炎術、空術、剣術、どれを取ってもあの頃のカレナに劣る。今日の鍛錬で俺が言おうとした事だが、今、剣を交えたら理由まで分かった。カレナなら剣と一緒に転がらない」
秋男は剣を投げ捨てた。
「さっきのフェイントはそれを確かめるためか。いつ分かったの?」

知られたく無かった。
パストルにだけは………。

秋男は顔に出さないように、下唇を噛んだ。
グロールはそんな秋男の姿に見向きもしないで、剣を磨き始めた。
「さっきコルネに言ったよな?お前の意志は既に受け継がれてるんだって?」
グロールは笑いながら「喋りすぎだろ」と付け加えた。
「喋りすぎたね」秋男の微かに笑った声も同時に重なった。
グロールは秋男にゆっくりと近づいた。
そして秋男の肩に顔を埋める。
「お前をこんなに憎んだのは、初めてだ」
耳元で囁く、愛おしい声。
「光栄だね」
瞳を閉じる。
「何故言わなかった」

"好きだから。知られたくなかったから"

熱いものが目の裏側を流れていく。

「何故?………言わなきゃならない義務でもあんの?」

秋男は薄く微笑み、グロールを見上げた。
直後、グロールの長い剣は秋男の体を貫いた。

秋男を突き抜けた剣の先は、光に反射してグロールの目を赤く光らせた。
何かが剣を伝ってグロールの手を赤く染めていく。
「やった!」
ビークは歓声を上げた。
「秋男くん!」
「パストル、何て事………!」
「お兄ちゃん!いやあああっ!!」
秋風が叫んだ途端、大雨が降った。
「………雨か………」
グロールは唇の端を僅かに上げた。
ザーザーと周りの音をかき消す。
雨は秋男の髪から頬を伝い、唇を濡らした。
剣を抜くと、秋男の体はずるりと崩れ落ちた。
剣から手を離し、秋男を両腕で抱きかかえた。
鈍い音を立てて転がった剣の重みが、少しだけ地面を揺らした。
「秋男………」
グロールは赤く染まった手で秋男の柔らかな頬を触る。
二人は見つめ合った。
「………」
「強いな、お前は………」
秋男の、青紫になった唇が、ガタガタと震えだした。
秋男の顔からどんどん血の気が無くなっていくのが分かる。
やがて秋男の目は閉じられた。
「秋男さんっ!!折角戻ってきたのに………嫌よ!」
マリネが秋男の元に駆けつけ、叫んだ。
「もう帰ってきたのか」
杖を取りに行ったマリネとプレーノが戻ってきたのだ。
「てめー!秋男に何やったんだよっ!」
プレーノがグロールの胸ぐらを掴んだ。
赤く染まった手に掴まれ、プレーノはぎょっとする。
しかしグロールは、そんなプレーノではなく、マリネに視線を投げた。
「意志を継いだだと?笑わせるな」
グロールは冷たく吐き出すように呟き、プレーノの手を投げ捨てるように放した。
マリネは睨み返し、その腕から秋男を奪った。
だらりと頭を垂れた秋男の後頭部をそっと抱きかかえる。
「秋男さん!!」
グロールはくるりと振り返り、秋風の元へ飛んだ。
「………!!」
「来い」
秋風の体を抱える。
「秋風!!」
「秋ちゃん!!」
コルネとプレーノが叫んだ。
グロールは声の方とは反対に居るマリネに振り返った。
「意志を継いで秋風を守りたかった?残念だったな。………ビーク、引き上げるぞ」
そう言うと、雨と泥と血にまみれた剣を拾い、秋風を連れたグロールと、ビークは姿を消した。




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