SOLVE A RIDDLE〜双子の勇者たち〜

+秋男+


会議室から出ると、今度は秋風が待っていた。
秋男とグロールは視線を交わし、秋男だけ残ってグロールはその場を去った。
「お兄ちゃん、私………恐い」
秋風の体は小さく震えていた。
「私、ビークと仲が良かったの。塔に入って思い出したの。ビークはカレアとカレナの幼なじみよ?なのに、殺し合いするの?」
「殺し合いするって言ったか?」
秋男が訊ねると、秋風は首を左右に振った。
「恐くて当然だよ。僕はビークが生きてるかどうか分からない事で立ち止まってたくないんだ。姉さんが生きている。その事実だけを今は見てたいんだ。だから」
「だからコル姉さんを助けるために、ビークを犠牲にするの?」
秋風に噛みつかれ、秋男はため息をついた。
「ビークの事は今は分からない。今から確かめに行く。………一緒に行こう」
秋風は顔を上げた。
「グロールと考えたんだ、僕達に今できること。下調べは大事だろう?」
そう言われ、秋風はコクンと頷いた。
「準備、しておいで」

数分後、三人は気球乗り場に集まった。
そこにはローズとサンクスが見送りに来ていた。
「秋風………」
秋風も秋男達と同じように武装して待っていた。
「私も一緒に行きたいんだけど………」
蚊の泣くような声で呟く。
秋男が爽やかな笑顔で迎える横顔を見て………
「はぁ〜」
グロールはわざと大きく息を吸い、ため息をついた。
「乗れよ」
「良かったわね、秋風さん!」
がっくりうな垂れたグロールを余所に、マリネははしゃいだ。
「秋男さん、くれぐれも無理をなさらない様に。危なくなったら引き返すのですよ」
「はい」
「マリネさんも。気球を捨てても命を守ってくださいね」
「はい」
「あれ?マリネ、珍しく髪飾りしてる?」
秋風がマリネの髪飾りを指した。
「あ、はい。幼い頃から代々伝わってきた宝玉です。お守りなので持ってきました」
成る程、これがマリネの策か。
「へぇ〜可愛い〜綺麗な赤ね」
「じゃぁ、行こうか。ローズさん、お願いしておいた調べ物、よろしくお願いします」
「はい。皆さんの無事を祈ります」
四人は気球に乗り、ローズから受け取った地図を頼りに飛び立った。
プレーノが何か叫んでいたので、秋男は彼に向かって手を振った。
「どうせズルイとか言ってるんだろうな」
秋男とグロールは笑い合った。

初めて見る、愛おしい彼の笑顔。
今まであんな顔を見せたことがなかった。
秋風はそう思いながら、ふと、何かがおかしいことに気がついた。
兄は前世のカレナに覚醒し、グロールはそれを助けた………。
秋風は二人を見る。どう考えてもおかしい。
見た目に変化があるのはグロール。
覚醒して人格が変わってそうな兄には、全く変化なし!
秋風は二人を見比べ、首をひねった。

+++

空は青く、風が少ない。
秋男達はとても心地よい空の旅を楽しむ。
目指すはビークが居るらしき場所。
ローズから詳しく聞いた話では、ここから北西に二つの島があり、その島の北側に結界が張られ、進入できないと言う。
「それにしても二人共、よくついてくる気になったな?」
グロールは秋風を見た。
柔らかな風に後ろ髪を預ける秋風の横顔はあどけなく、守ってやりたい気持ちが膨らむ。
一方で彼女の前世であるカレアは、グロールの前世パストルが嫌い。
秋風がカレアに覚醒した今、彼女が何を考えているのか、予想もつかない。
「知りたい。あなたが何を考えてるのか」
「そりゃ、奇遇だな」
グロールは薄く笑った。
「で?姫さんは?」
「秋風さんと同じです。秋男さん達の作戦を知りたいから」
「成る程」
グロールが縁にもたれて頷いた。
しかし、男二人はそれ以上、何も言おうとしなかった。

沈黙が秋風の心を押し潰そうとしている。
あの時の口づけは、冗談だったのか、そうじゃなかったのか。
私がカレアだったから、もう要らないの?
カレナだったら、愛してくれたの?
"知りたい。知りたいよ、グロール………"

やっとシャロット大陸を離れた所で、秋男とグロールがほぼ同時に剣を構えた。
「早速来やがった」
気球の縁に足を掛ける。
「あ、危ない!」
「中は危ない。空中戦だ!二人は俺らに構わず突き進め」
「でも………」
「直ぐに追いつくから。気球は二人で守れ!」
「………分かった!」
男二人は空中へ飛んだ。
「飛ぶんだ、本当に………」
秋風は呆然と眺め、マリネは必死に操縦を守った。
秋男がやや足を取られる。
無理もない、覚醒して間もないのだから。
ふと足がぐらつく。
「あ、秋男さん!」
「マリネ、操縦!」
秋風が叫び、マリネは慌てて前を向く。
気球とは名ばかりで、実は運転の操縦を必要とする飛行船の様な物だ。
落ちやしないか、冷や冷やする。
「剣火剣炎!」
右手を包むように炎が現れる。
秋男は拳を作り、魔物に向けた。
奇妙な悲鳴を上げ、何匹かが落下していく。
グロールは残りの魔物を一太刀で一掃した。
二人は気球に戻った。
「お兄ちゃん!そんなに強かったの!?」
「私達と差がつき過ぎて………二人でコルネさんを助けられるのでは無いですか?」
「そうよ!私達がいたら返って足手まといに………」
秋風とマリネは顔を見合わせた。
「………あ、やっぱりついて来てまずかったかしら?」
マリネはグロールに怒鳴られる覚悟でおどけるが、意外な反応が返ってきた。
「いいや………」
秋男は静かに首を横に振った。
「決戦で足を引っ張るのは僕らだよ」
秋風とマリネは顔を見合わせたまま、首を傾げた。
秋男もグロールも何も言わないが、カレナが覚醒してから何かがあったんだと二人は感じていた。
グロールの表情が見た目に分かりやすくなったのも、二人が前よりも仲良くしている事も、多分みんな気づいてる。
だけど相変わらず何も教えてくれない。
秋男は妹の秋風にさえ………それは何故?
やっぱり、二人しか入れない聖域があるんじゃないかな………。


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